森口将之のカーデザイン解体新書 第44回 トレンドに逆行? アウディ「A3」が目指したデザインとは

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2021年08月02日 11:31  マイナビニュース

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アウディの人気車「A3」は、フルモデルチェンジでトレンドに逆行するようなデザインを採用した。兄弟車の位置づけとなるフォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」とは、見事なまでに対照的な姿だ。アウディは新型A3をどう造形したのか。試乗の印象も合わせてお伝えしたい。

○カーデザインのトレンドに逆行?

日本で売れるアウディの2〜3割を占めるという「A3」が、8年ぶりにモデルチェンジして第4世代に切り替わった。

A3は当初、3ドアハッチバックのみでデビューしたが、2代目で5ドアのスポーツバックが追加となり、日本ではまもなくこちらに一本化された。3代目では独立したトランクを備えたセダンが登場。新型(4世代目)もスポーツバックとセダンの2つのボディを持つ。同時にモデルチェンジした高性能版の「S3」も、ボディはセダンとスポーツバックの2種類だ。

では、デザインはどうなったか。まずエクステリアから見ていくと、機能美を追求した先代とは対照的に、アグレッシブでスポーティーな雰囲気を強調している。この方向性は、2020年にマイナーチェンジしたひとクラス上の「A4」(セダン/ワゴン)と同じだ。フロントマスクはかなり複雑な造形で、ボディサイドは前後のフェンダーの盛り上がりが目立っている。

現在のカーデザインのトレンドは、少し前にこの連載で書いたように「スムーズ&シームレス」なので、その流れとは明らかに違う。ただ、アウディも今のトレンドは理解しているはず。そのうえで、あえて逆張りを狙っているのではないだろうか。

日本車でいえば、トヨタ自動車やスバルのデザインがこのような方向性であり、そこから生まれた「ヤリス」や「レヴォーグ」は人気を得ているという事実もある。

プラットフォームを共有するゴルフが伝統的に合理的なスタイリングなので、それとの差別化を図りたいという思いもあったのかもしれない。いずれにせよ、自動車らしい形ということができるだろう。シームレスなデザインでは物足りないと思うユーザーは、好意的に受け入れるはずだ。

しかしながらディテールは、シルバーの使い方などが手慣れていて、派手すぎず洗練された雰囲気にまとめてある。線が多いという印象のフロントマスクも、グリルとヘッドランプの斜めのラインを合わせたりしている工夫のおかげで煩雑には見えない。
○自動車らしさにこだわった形

「ベース」「アドバンスド」「Sライン」という3つのグレードでフロントマスクの仕立てを変えていることもポイントだ。筆者が乗ったのはアドバンスドをベースにした発売記念限定車「ファーストエディション」だったが、これがもっともアウディらしいと思う人が多いだろう。

一方のSラインは、ヘッドランプの下にあるダクト風の部分が大きくなっているなど、より精悍な雰囲気だ。こちらも、以前からのSラインの流儀に沿っている。個人的な注目はベースグレード。グリルの縁取りをブラック仕上げにしたクールな仕立てを好ましく思う人は少なくないはずだ。

ボディサイズはスポーツバックで全長4,345mm、全幅1,815mm、全高1,450mmで、先代よりも長く、幅広くなった。30mmもワイドになった幅が気になる人がいるかもしれないが、箱根で試乗した限りでは不便になったとは思えなかった。

次はインテリアに目を移してみよう。前席についてアウディは、運転席ではコクピット感覚、助手席ではゆったりとした空間を目指したとのこと。メーターやセンターディスプレイにはいずれも巨大なディスプレイを使いつつ、独立したスペースに分けて収めている。外観同様、自動車らしさにこだわった作りだ。

メーターパネルとセンターディスプレイをつなげてモダンな雰囲気をアピールする新型ゴルフとは対照的だが、ゴルフでは位置が気になったエアコンのルーバーは適切な場所にあるし、トランスミッションのセレクターはゴルフと同じく電気式としつつ、従来型のスイッチも適度に残されており、安心して扱うことができた。

それでいて、ドアオープナーをシルバーのモールからつなげたL字型にしたり、スマートフォンの非接触充電スペースを傾けることで空間効率に配慮したりと、美しさと使いやすさの両立に配慮していることは随所から感じ取れた。試乗会のプレゼンテーションでは、フロアカーペットにペットボトル素材を使ったり、遮音材に再生素材を用いたりして、環境問題にも配慮しているとの説明もあった。

フロントシートは硬めで、ドイツ車らしい「パシッ」とした着座感が心地よい。ただし、サイドの張り出しは控えめなので、乗り降りは楽だ。ファブリックに入ったスカイブルーのラインが、爽やかな雰囲気を加えている。

リアシートは身長170cmの自分が座ると、ひざの前に15cmくらいの空間が残り、頭上にも余裕がある。ゴルフと比べると座面の傾きが穏やかで、やや低めに座っている感じがしたが、スペースは問題ない。
○戦略的な価格にも注目

ラゲッジスペースはゴルフと似た作りで、フロアパネルを斜めに立て掛けて固定することもできる。ただし、A3ではリアが150mm長くなるセダンも選べる。荷室容量は380Lから425Lに拡大するし、人と荷物の部屋を分けて使えることや、落ち着いたプロポーションを好む人はいるはずだ。

似たようなサイズの日本車には、ハッチバックとセダンを選べる車種がいくつかあるけれど、いずれもプレミアムブランドではないし、輸入車ではメルセデス・ベンツ「Aクラスセダン」くらいしかない。先代に続いて根強い支持を集めそうだ。

新型A3のエンジンは、1L直列3気筒ターボと2Lの4気筒ターボの2機種。ゴルフにはある1.5Lの4気筒ターボがA3では選べない。S3は2Lの高性能版を積む。全車7速のデュアルクラッチ・トランスミッションで、1Lは前輪、2Lは4輪を駆動する。

試乗したファーストエディションが積む1Lはゴルフ同様、モデルチェンジを機にマイルドハイブリッド化されたことが新しい。1Lという数字から想像する以上に力に余裕があり、流れに乗って走るなら静かで、3気筒であることを意識することもない。マイルドハイブリッドが効いているようだ。

サスペンションは電子制御の調節機構などはないが、乗り心地に不満はない。固めながら鋭いショックは絶妙にいなしてくれて、プレミアムブランドであることを実感する。ハンドリングは最近のアウディの例にもれず、意図的な鋭さは影を潜め、自然な動きになっている。

最後に注目したいのは価格だ。ベースモデルの数字は310万円で、先代からの上昇分は14万円に抑えられている。ゴルフのエントリーモデルが30万円以上アップしたのとは対照的で、差はかなり縮まった。

もちろん装備の違いなどを勘定に入れる必要はあるが、「この価格差なら、ゴルフではなくA3にしよう」という人が多くなりそうに思えた。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)
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