水道事業の現場知識や技術をDXで実現! 松本市上下水道局の取り組み

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2021年08月06日 06:31  マイナビニュース

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少子高齢化が進む中、若手への知識継承は各地で大きな課題となっている。特に土木や工場といった現場作業ではそれが顕著だ。松本市上下水道局は、この課題をICTで解決すべく、4月にNTT東日本の「ギガらくカメラ」を導入した。

○現場作業に適していなかったタブレットPC

平成17年度、平成21年度に周辺の市町村と合併し、面積が拡大している長野県松本市。そのような状況下において水道施設耐震化事業や老朽給配水管改良事業を行っている松本市上下水道局は、DXによる技術の継承を目指し、ICT化を推し進めている。松本市上下水道局 上水道課 課長の藤牧靖次氏、同課 課長補佐の島村守氏が発表した取り組み内容を紹介したい。

松本市上下水道局は、拡大する現場作業の確認・記録・指示を目的とし、平成30年度にタブレットPCを5台導入した。それらを使い、現場において水道管網図及び竣工図の確認や撮影した写真や動画をMicrosoft のOneDriveに保存したり、WebexやSkype等を利用して上下水道局内に設置されたPCから現場を確認したりしていたという。これは「作業のリアルな状況を残し、暗黙知を形式知にかえること」を目指したものだ。

だが、実際は利用がなかなか進まなかった。その理由は、タブレットPCを利用する際に現場作業員の両手が塞がってしまい、肝心の業務が行えなくなるためだ。利用の際は、撮影を担当する職員を現場に向かわせる必要があった。また、タブレットPCの操作に職員がうまく対応できない問題や、山間部ではそもそも電波が届かず通信機能そのものが使えないという問題も発生していた。

「我々は当初『タブレットを使わずにウェアラブルカメラとスマートフォンを接続し、上下水度局とデータを共有できないか?』と考えていました。同じような取り組みを進めている市町村の話もありましたが、そもそもスマホのカメラを利用しているところが多く、ウェアラブルカメラとの同時使用例はまだほとんどありませんでした」(島村氏)。

○NTT東日本「ギガらくカメラ」導入の経緯

タブレットPC導入で見えた課題を解決するため、松本市上下水道局はさまざまな業者と検討を進める。そんな中、島村氏は2020年9月ごろ、たまたま「LTE 対応ポータブルカメラ」の存在を知る。

これは、HD/30pで録画できるウェアラブルカメラで、映像を撮りながらスナップショット画像も撮影できるというもの。LTEとWi-Fiに対応し、データは自動でクラウドにアップされる。マイクとスピーカーを内蔵しハンズフリー通話が行えるほか、Bluetoothイヤホンも利用でき、最大16名のグループ通話も可能。IP67の防塵・防水性能も有しており、屋外での運用にも対応している。

胸ポケットに取り付けられ、三脚でも利用可能で、データをクラウドに保存しつつ並行してライブ配信が行えること、そして通信電波が届かない場所では本体にデータが記録され、圏内に入るとクラウドに自動でアップロードされることが、松本市上下水道局で高く評価された。

「これだ!」と思った島村氏がさっそく局内で検討を進めるなか、NTT東日本のクラウド型カメラサービス「ギガらくカメラ」でも提供されていることを知る。そこでNTT東日本 長野支店の阪田菜保子氏に相談し、トントン拍子に話が進むことに。

他社サービスを2年レンタルする金額で「ギガらくカメラ」を購入可能と、松本市上下水道局からみてもコスト的に大きなメリットがあった。こうして松本市上下水道局は「ギガらくカメラ」の採用を決定。2021年4月10日、長野県内で初となる試験運用がスタートする。

「ギガらくカメラ」では従来、主に定点カメラを取り扱っていたが、工事現場や工場、イベント会場などの一時利用、回線が通らない場所でのニーズが増加。ケーブルレスの機器を求める声を受け、2018年11月よりクラウド型カメラサービスの提供や、ウェアラブルカメラが追加されたという。

NTT東日本は「持ち運びができ、ケーブルのないウェアラブルカメラを活用することで、工場や工事現場といった場所であっても、作業の効率化、安全性の向上、従業員の安心感の確保などを実現できるのではないか」と、その意義について説明する。

○導入後の課題は職員の意識改革

「ギガらくカメラ」に追加されたこのウェアラブルカメラは「持ち運べる」「ケーブルレスで運用できる」と非常に好評で、需要は伸び続けているそうだ。現在、松本市上下水道局で導入されている「ギガらくカメラ」は1台。主に2つの目的で利用されている。

まずは、上下水道局職員の作業内容の記録。具体的には、水道施設の清掃作業や仕切弁操作などをライブ中継し、職員が上下水道局内から指導するといった使い方だ。ベテラン職員は、局内にいながら多くの若手職員の育成を行うことができる。

もう1つが、工事状況の記録。具体的には、稼働してしまうと中の状況が確認できなくなる配水池等の施設の工事の状況の記録に利用されている。こういった施設の工事は数年に一度しか行われないため、知見を引き継ぎにくい。この作業工程を映像として残すことで、知識の継承を目指している。

「現在は機材が空いていればどんどん使ってもらっている状況で、『こんなに便利なものはない』と職員の反応も好意的です。しかし、このカメラを付けていることで『監視をされている気分になる』という声もありました。もちろん上司からすれば記録を残したいから使ってほしいだけなのですが、こういった部分での意識改革が一つの課題になっています」(島村氏)。

○DXによる技術継承で継続的な運営を目指す

松本市上下水道局は2021年を試験運用の年とし、その活用事例を見ながら来年度以降の数を検討する予定だ。現在は作業内容と工事状況の記録を主な用途としているが、今後はさらに活用の幅を広げたいとする。その内容は大きく3つに分けられる。

1つ目は、緊急時の現場把握。これまで、復旧作業時は音声で現場と上下水道局をつないでいたが、ギガらくカメラを利用してシームレスな映像でつなぎ、復旧作業の迅速化を図ることを目指す。

2つ目は、発注工事現場の遠隔確認。工事現場の作業状況をライブ中継し、動画検査を行うことで、監督職員が現場に行かずに現場管理を行えるよう現場検査の効率化に向け研究を進める。なお、国土交通省も令和2年11月10日に建設現場のデジタル化の推進を提案しており、ウェアラブルカメラの導入には政府も積極的だ。

3つ目は、人材育成への活用。退職していく人の頭の中にある現場知識を若手職員に引き継ぐことは、水道事業・土木現場にとっても大きな課題だった。だがウェアラブルカメラで映像として記録しておけば、そうした知識を蓄積し、今後の人材育成に活用することができる。島村氏はこれを「暗黙知から形式知へ」と表現する。

このほか、ICTをより活用するためにドローンの購入も予定しているという。これは人が入れない工事現場や災害現場での利用を想定したものだ。藤牧氏は最後に、今後の松本市上下水道局の取り組みと意義について、次のように述べた。

「タブレットPCでは進まなかったデジタル活用を、ギガらくカメラによって進めたいと思っています。DXによって課題であった技術の継承が実現できれば、上下水道局の継続的な運営が行えるでしょう。ひいてはそれが、地域住民の皆さまが安全・安心・安定的に水道を利用できる環境を整えることにつながると考えています」(藤牧氏)。(加賀章喜)
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