「今日から俺が主人だ」突然始まったモラハラ 結婚前に正体を見破ることはできる?

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2021年08月10日 21:41  弁護士ドットコム

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いまや多くの人が悩むようになった配偶者の「モラハラ」。大貫憲介弁護士によると「結婚前後にその正体を現す」のだと言います。


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これまで大貫憲介弁護士が出会った依頼者の話をもとに、結婚後に豹変したケースを紹介します。



●結婚前後にその正体を現す

「今日から俺が主人だ」。30代前半のAさんの夫(30代後半)は、新婚旅行の飛行機の中でこう宣言した。そして、空港からホテルに向かうタクシーのなかで、Aさんがタクシー運転手と二言三言、言葉を交わしたことに腹を立て、夫は夕食を済ませて部屋に戻るまで口を利かなかったという。この宣言を境に、夫はAさんに対し、怒り、怒鳴るようになった。



「モラ夫宣言」する夫は珍しいが、結婚前後や結婚後の何らかのきっかけで、その正体を現すモラ夫は多い。私は、正体を現すきっかけを「モラスイッチ」と呼んでいる。



スイッチとして、よくあるのは、結婚式や婚姻届提出、第1子出生、昇進、マイホームの取得などである。スイッチが入ると、モラハラしない日はあっても、健全男子に戻ることはない。多くの場合、時の経過とともにモラハラが進行し、末期に至る。



「いつか昔の優しい彼に戻るのではないか」と期待する妻は多いが、モラ夫が本性で「優しい彼」に擬態していたのであって、元には戻らない。



モラスイッチが入ると、妻に対し、怒り、怒鳴る(ハードモラ)。その結果、妻たちは、夫を怖れ、怒らせないように気を使うようになる。



若い世代では、ハードモラは、減って来ているが、その分、執拗に質問や嫌がらせを繰り返し、精神的に妻を追い詰めるソフトモラが増えている。モラ夫たちは、このような「モラスイッチ」による態度の変化を「釣った魚に餌はやらない」などと表現する。



●同居後、再就職に反対した夫

冒頭のAさんの話に戻ろう。遠距離恋愛だったAさんは、新婚旅行後、再就職する予定だった。Aさんには医療系の資格があり、家事も仕事も平等にしていくことを話し合っていた。



ところが、夫は同居開始後、再就職に強く反対した。Aさんは「結婚前の約束と違う」と夫に抗議したが、夫は、顔を真っ赤にして「妻の務め」を強調し、家事などの手を抜かない、そして何より「俺に迷惑をかけない」範囲でしか仕事に出ることを認めないと強調した。



まもなく、Aさんは妊娠し子を産んだ。子が生まれると、夫はさらに横暴になり、家事にも育児にも無関心だったという。



●結婚前にモラハラを見破れるのか?

以上、モラ夫たちは、結婚前は、健全男子に擬態する。モラ夫たちも、女性が男性に何を求めているのか、ある程度わかっているのだ。離婚相談では、妻たちは「こんな男とわかっていれば、結婚しなかった」という。



さて、結婚前に、モラ夫予備軍の擬態を見破ることはできるだろうか。   私の理解では、モラ夫になる原因は、人格の基礎部分に刷り込まれた、男尊女卑や性別役割分担など社会的規範や文化的規範にある。したがって、その男性が刷り込まれた基本的価値観がわかれば、モラ夫になるかどうかある程度判断がつく。注意深く観察すれば、擬態を見破ることも決して不可能ではない。



例えば、何かにキレてつい口をつく言葉は、人格の基礎部分に刷り込まれた価値規範から直接噴出していると考えられる。



幼少期に起きる第一次社会化(自ら帰属する社会の規範群を内在化すること)により刷り込まれた基本的価値規範群は、その後の人生において、その者の言動を支配し指導する。「三つ子の魂、百まで」である。その規範が基本的である程、それに影響された言動が幼少期から繰り返され、より自動的になっていく。



つまり、瞬時に湧き上がってくる自動的思考(による言葉)を観察すれば、その者の基本的価値観がわかるのである。男尊女卑や性別役割分担を基本としていれば、その男性は、おそらくモラ夫になる。



●性行動も本性を観察するチャンス

性行動も、擬態が難しく、本性を観察するチャンスといえる。避妊に協力的でなく、自分の満足を優先し、応じないと拗ねたり怒ったりするのは、女性の人格を認めていない可能性が高い。



妊娠は、女性の生命・健康、キャリア維持、将来に関わる重大な事柄である。性交渉も、当然、人格権の一内容である。したがって、性行動について、女性の同意の確認を軽視し、避妊に協力的でない男性は、おそらく、モラ夫である。



モラ夫にとって、結婚とは自分に従属する女性を得ることであり、結婚への憧れは強烈である。女性のアパートに転がり込んできたり結婚を急がせたりする男性は、モラ夫である可能性が高い。



Aさんは、その後、私の事務所に離婚の相談に来た。私が連絡すると、Aさんの夫は「それまで、夫婦間には何らの問題もなかった」と言い張った。



自らに刷り込まれた社会的規範や文化的規範に従った行動をしてきたのだから、Aさんにとって、それまでの言動はモラハラではなく、何ら問題のない「普通の」言動ということになる。この「自覚のなさ」も、多くのモラ夫に共通にみられる。



モラ夫の自覚のないままに妻にモラハラを行い、妻に逃げられてもなお、自らの問題性を自覚できない。モラハラは、妻だけでなくモラ夫自身をも不幸にしている。




【取材協力弁護士】
大貫 憲介(おおぬき・けんすけ)弁護士
1989年4月弁護士登録。外国人事案、結婚離婚等家事事案を中心に弁護士業務を行ってきた。2018年3月から、ツイッター(@SatsukiLaw)にて、「モラ夫バスター」として、モラ夫の生態について、日々ツイートし、4コマ漫画「モラ夫バスター」などで主に被害妻に向けた情報発信を行っている。ハーバービジネスオンラインでは、「モラ夫バスターな日々」の連載をしてきた。
事務所名:さつき法律事務所
事務所URL:http://www.satsukilaw.com/


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