後を絶たない内部告発者への制裁、歯止めになるか? 消費者庁が指針を公表

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2021年09月08日 10:01  弁護士ドットコム

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消費者庁は、2022年6月までに施行される改正公益通報者保護法に基づき事業者がとるべき措置に関する指針をこのほど公表した。改正法が事業者に対して通報対応体制の整備などを新たに義務づけることに伴い定められた。


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指針には、不正の告発などをした通報者に対して、降格や減給などの不利益な扱いをした場合には、懲戒処分など適切な措置をとるよう求めることなどが盛り込まれた。



2004年に制定されて以来、はじめて内容面での改正がおこなわれた公益通報者保護法だが、通報者の保護はいまだ不十分との声もある。



今回の指針公表をどうみるべきか。大森景一弁護士に聞いた。



●「通報者の探索」禁止盛り込まれたが、踏み込み不足

——今回公表された指針はどのようなものでしょうか。



今回の指針は、改正公益通報者保護法11条の規定に基づき、事業者がとるべき措置を具体的に明らかにしたもので、公益通報対応業務従事者の定めや内部公益通報対応態勢の整備に関する規定が設けられています。



しかし、全部でわずか3ページ超しかなく、うち1ページ超は定義規定ですので、非常にシンプルなものにとどまっているといえます。



また、内容についても、これまでの「民間事業者向けガイドライン」(公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン)をほぼ踏襲するもので、目新しい規定はほとんどありません。むしろ、詳細で具体的だった民間事業者向けガイドラインを抽象的にしたもののような印象をうけます。



——これまでのガイドラインとは具体的にどのように違うのでしょうか。



民間事業者向けガイドラインには、「リニエンシー制度」(自主的な通報者に対する懲戒処分などを減免する制度)のような先進的な取り組みについても記載がなされていましたが、今回の指針は当たり障りのないものにとどまっています。



内部通報を重視する世界の潮流からすれば、もう少し踏み込んだ内容にすることもできたのではないかと思います。



ただ、今回の指針が「通報者の探索」(通報者を特定しようとする行為)を禁止したことには注目しています。これは、これまでの民間事業者向けガイドラインには規定されていなかった内容で、この点が明示されたことには意味があると思います。



なお、消費者庁では、指針の策定に伴い、民間事業者向けガイドラインに記載されていた内容を盛り込んだ指針の解説を策定し、これまでの民間事業者向けガイドラインなどを廃止する方向であると言われています。



しかし、民間事業者向けガイドラインにはかなり先進的な部分もあり、通報者に対する保護が後退することのないようにする必要があるでしょう。



●「被害の抑止」と「被害の回復」が内部通報制度の柱

——通報者の保護はいまだ不十分との声もある法や指針について、どのように評価していますか。



今回の指針は、令和2年の公益通報者保護法の改正に伴うものですが、この改正自体が現状追認的な色彩が強いものといわざるをえず、多くの事業者の在り方に抜本的な改革を求めるものではありません。



指針違反に対する制裁も、現実的に発動されることはおよそ考えにくい規定ぶりになっています。



その意味で、実効性のある内部通報制度を構築するかどうかは事業者に委ねられていて、今回の指針によって、通報者が安心して通報できるようになるとは言いにくい面があります。



——今後、通報者の保護をどう推し進めていくべきでしょうか。



通報者を保護する制度を構築する場合に、大きく「被害の抑止」と「被害の回復」の2つの観点が考えられます。



残念ながら、公益通報者保護法では現実には後者の仕組みが上手く機能しているとは言いがたい状態で、不利益を受けた後にその被害を回復することには大きな困難を伴うのが現実です。



この点は法律でしか改善を図ることができない部分が多く、因果関係の推定規定や付加金制度(一定の場合につき裁判所が特別に追加の金銭支払いを命じる制度)などの新たな法制度の検討は急務です。



また、報奨金制度やリニエンシー制度のような通報者にとってインセンティブとなるような仕組みはこれまでほとんど検討すらされてきませんでしたが、コンプライアンスを図るための手段としての公益通報を考えるのであれば、このような制度も検討を始めていくべきでしょう。



もっとも、事業者が、自発的に先進的な制度を導入することはある程度可能です。



いずれにせよ、指針が策定されれば、事業者は、それにあわせて内部規定を改定するなどの作業が必要となりますので、制度の動向をフォローしておくことが必要です。



内部通報に関する規制は、法律だけでなく、指針やその解説まで踏まえなければ十分に理解できないものになってきています。事業者が内部通報制度を整備する際には、同制度に詳しい専門家のアドバイスが必要になるでしょう。




【取材協力弁護士】
大森 景一(おおもり・けいいち)弁護士
平成17年弁護士登録。大阪弁護士会所属。同会公益通報者支援委員会委員など。
一般民事事件・刑事事件を広く取り扱うほか、内部通報制度の構築・運用などのコンプライアンス分野に力を入れ、内部通報の外部窓口なども担当している。著書に『逐条解説公益通報者保護法』(共著)など。
事務所名:大森総合法律事務所
事務所URL:https://omori-law.com


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  • 内部告発者を不利に扱ったら代表者役員全員が永代欠格になり自動的に告発者に代表権が移るようにすればいい ただ、誣告が出ないよう運用を慎重にする必要あるが
    • イイネ!3
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