「29歳 独身 手足なし」電車事故で左手1本に…障害者YouTuberが絶望超えて見えたもの「五体満足だと、逆にないものが目に付く」

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2021年09月18日 09:30  ORICON NEWS

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写真電車事故で手足3本を失った山田千紘さん
電車事故で手足3本を失った山田千紘さん
 20歳のとき、電車事故で両脚と利き腕を失った山田千紘さん。現在は航空関連会社で正社員として働くかたわら、1年前に開設したYouTubeチャンネルは登録者数10万人を突破した。昨今はパラアスリートへの称賛が集まる一方で、「発言する障害者」に批判が浴びせられることも少なくない。それは、初の著書『線路は続くよどこまでも』を刊行し、ますますメディア露出が増えている山田さんも同様だ。それでも山田さんが発信をやめない理由を聞いた。

【写真】「手足3本なくたって!」義手・義足でポジティブに活動する山田千紘さん

■手足3本を失った電車事故、絶望から立ち上がり「左手1本」で一人暮らし

 9月に30歳になった山田さんは、義足と義手を駆使しながら、都内で一人暮らしする会社員。平日は自作の弁当を持って電車通勤し、休日には掃除や洗濯といった日常ルーティーンをこなす。趣味は一人旅で、コロナ前は「思い立ったら即行動」とばかりに弾丸旅行にもよく出かけていた。

 YouTubeチャンネル『山田千紘 ちーチャンネル』では、坂道を駆け上がり、階段を一段飛ばしでホップする動画なども投稿。片手でこなす料理もなかなかの腕前だ。持ち前のポジティブオーラとチャレンジ精神で、登録者数もグングン伸びている。

 「『左手1本でどうやっているんだろう?』みたいな興味本位でもいいから、いろんな人に僕を見てもらいたいと思ってYouTubeを始めました。料理は、単純に周りの男友だちへの無言のプレッシャーです(笑)。今の時代、男性・女性に関係なく家事ができたほうがいいと思うんだけど、なんだかんだ理由をつけてやらない男性は多いですから。でも、僕も以前はそうでした。手足3本を失う前は実家暮らしで、料理とか全然しなかったですから」

 20歳で当時の会社に営業職として就職。持ち前の明るさで成績をグングン伸ばし、仕事にのめり込んでいった。だが、体は疲労困憊。さらに帰宅前に参加した飲み会でのわずかなアルコールの影響もあって、ふらつく足で終電に駆け込んだ。働き盛りの世代には、似たような経験がある人も多いだろう。それが致命的な事故に繋がるかどうかは、ほんの少しの差でしかない。そして山田さんの場合は、手足を3本失った。

 「最初に襲ってきたのは絶望でした。一応、僕にもなんとなく20代のイメージがあったんですよね。バリバリ働いて、25歳くらいで結婚して、子どももいて、みたいな。だから、『人生終わったな』と思いました。だけど、30歳の今もこうやって生きている。しかも、事故に遭う前は想像もできなかった素晴らしい景色を見られている。それは僕にとって圧倒的プラスだったと断言できます」

 誰もが明日、障害者になる可能性がある。しかし、どこまでもポジティブな山田さんを見ていると、"障害者"のイメージがどんどん変わっていくようだ。

 「たぶん世の中の多くの方は、イメージの中にしか『障害者』というものがないと思うんですよ。それは僕も同じで、目が見えない方と会う前までは『何もできないんじゃないか』というイメージしかなかった。だけど実際に会ったら、『目が見えなくてもこんなことができるんだ、すごいな!』に変わったんです。その人は『全然すごくないよ、普通だよ』って言うんですけどね。でも僕は改めて、手が1本あって目が見える自分の体に感謝したんです」

 山田さんは「ないものよりもあるものを見て生きる」がモットーだと言う。

 「五体満足に揃っていると、逆にないものが目に付いて不満が募ってしまうのかな。だけど、障害者も健常者もみんな『ないもの』と『あるもの』があって、だったら『あるもの』を見ていたほうが人生楽しいと思うんですよ。僕がこの体で表に出ていくことで、『できないと思い込んでいたけど、自分には能力があるんじゃないか』と気付く方がいるかもしれない。それこそ、お母さんや奥さんに任せきりだった料理をしてみるとかね(笑)。そんなふうにちょっと視点を切り替えるお手伝いをするのが、僕の役割。お医者さんをはじめ、多くの人が生かしてくれた僕の命に与えられた役割なんじゃないかと思っているんです」

■深まる障害者と健常者の分断、「どうしても『上から目線の押し付け』に聞こえがち」

 少し前に「電車に乗るのを拒否された」と訴えた車いすユーザーが、SNSで大きな批判を浴びたことがあった。パラリンピックが注目を集める一方で、健常者と障害者の分断は根深くなっていると思わされた出来事だ。「発信する障害者」の1人である山田さんは、どう感じているのだろうか。

 「先ほども言いましたが、大前提として、障害者にも健常者にも『できること』と『できないこと』があります。だけど、障害者のほうが『できないこと』が多いと世間では思われているし、もしかしたら障害者側にもその意識は強いかもしれない。だから、障害者の発言ってどうしても『上から目線の押し付け』に聞こえがちなんですよね。でも、それだと耳を傾けるのもウンザリされてしまうと思うんです」

 もちろん、言わなければ伝わらないこともある。山田さん自身も、スーツで義肢が隠れた状態で通勤電車の優先席に座っていたところ、「いい若者が!」と面と向かって文句を言われたこともあったという。

 「義肢が見えなかったんだからしょうがないですよね。『こうなんですよ』とお見せしたら、全力で謝られました。そのおばちゃん、めちゃくちゃいい人だと思うんですよ。こういう人がいるおかげで助かる人もいるんですから。ただ僕は、何かを伝えるときには“言い方ひとつ”というか、相手への配慮が大事だと思っています。そして『自分をわかってくれ』と主張する前に、まず相手の立場を想像すること。障害者も健常者もそういう視点を持てば、誰もが暮らしやすい社会に近づいていくんじゃないかな」

 YouTubeを始めた頃には「気持ち悪い体を見せるな」という罵詈雑言を浴びせられたこともあった。それでも山田さんは発信をやめない。

 「僕は、基本的に受け取り方は自由だと思っているんです。『ポジティブな発言をしてる僕を見て、ネガティブな思いを持つ自分は?』ということでもなく。ただ、『こういう体で生きている人間がいた』ということを、その人の引き出しの中に入れてもらいたい。それこそ、コロナ禍で気持ちが塞いだときに思い出してもらい、ちょっと気持ちが前に向くきっかけになれば、発信した意義は十分あったんじゃないかって思っているんですよね」

 ちなみに山田さんは、制度の隙間にこぼれたことで「重度特別障害者手当」や「障害年金」、「労災保険」といった手当ての受給がない。だからこそ自活せざるを得なかったが、正社員の障害者雇用枠は全求人の5%と狭き門だ。

 「当初は、『この体で重度障害とは認定されないんだ』ってけっこう衝撃でしたね。障害者雇用の壁にもいろいろぶつかったので、未来の子どもたちに同じ思いをさせたくないんです。ただ、僕にはまだ制度などにインパクトを与えるような、大きな影響力はない。だからこそ自分の体でどんどんいろんな場に出て行って、発信することを諦めたくないんです」

(文:児玉澄子)

このニュースに関するつぶやき

  • 彼のYouTube をいつも見ています。一人暮らしで良く何でもこなしていますよね。応援しています。
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  • びっくりしたのは、この障害で手当ての受給がないことがあるんだ、ってこと。
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