『鬼滅の刃』特別編集版「那田蜘蛛山編」で大活躍の冨岡義勇が「嫌われ役」として描かれる意味

10

2021年09月19日 22:40  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真水柱・冨岡義勇(画像はコミックス『鬼滅の刃』5巻のカバーより)
水柱・冨岡義勇(画像はコミックス『鬼滅の刃』5巻のカバーより)
 19日に放送された『鬼滅の刃 特別編集版』の「那田蜘蛛山」で改めて注目されることになった、水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)。人気投票ランキングでは上位にランクインする人気キャラでありながら、「那田蜘蛛山編」でも明らかになったように、作中では“嫌われ者”としても描かれる。ほかの「柱」たちから厳しい目を向けられる場面もある。その理由は何なのか。2021年1月23日のAERA dot.の記事を再配信する。(以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます)


 *  *  *


■「かっこいい」冨岡義勇


 鬼の討伐部隊である「鬼殺隊」の中で、「最高位の剣士」とうたわれる「柱」・冨岡義勇。彼は、鬼と化してしまった竈門禰豆子と、その兄・炭治郎を命がけで守った人物でもある。彼の状況判断力、周囲からの信頼の厚さ、竈門兄妹に「救済への道」を切りひらいた行動力など、どの要素をとってみても、冨岡義勇には非の打ちどころがない。


 公式ファンブックには、作者の吾峠呼世晴氏みずからが、「目がしらをキュッと入れると、よりイケメンになります」と義勇の外見について注意書きをしている。外見、内面ともに、義勇というキャラクターは、その突出した「かっこよさ」で読者たちを惹きつける。


■冨岡義勇は「嫌われ者」?


 しかし、冨岡義勇にまつわる「周囲からの評判」には、「みんなからの嫌われ者」というエピソードがついて回る。たとえば、「下弦の鬼」と戦っている炭治郎らを救出する際には、一緒に行動した蟲柱・胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ)と義勇との間で、言い争いが起きている。


<そんなだから みんなに嫌われるんですよ>(胡蝶しのぶ/5巻・第43話「地獄へ」)


 義勇はしのぶに「俺は 嫌われていない」と反論するが、彼らの議論はこじれにこじれ、しのぶから「すみません 嫌われている自覚がなかったんですね」と一刀両断されてしまう。他の登場人物と比べると、義勇は表情を崩すことが少ないキャラクターだ。しかし、しのぶから一連の厳しいセリフを言われた際には、そのクールな美しさがそこなわれてしまうほどに、動揺が顔にあらわれる。外見も内面も完璧なはずの、義勇のどこが「嫌われ」てしまうのか。



■冨岡義勇は無口で口下手?


 胡蝶しのぶによる義勇への言葉を整理してみると、どうやら義勇には、「言うべきことを、言うべきタイミングで話そうとしない」という言葉足らずな部分と、ひとたび説明をはじめると「無駄と思える話を挿入してしまう」空気の読めなさがあるようだ。


 しかし、義勇がはじめて竈門兄妹に遭遇した際には、整然と「鬼」の説明をなし、炭治郎が妹を守るために「足りないもの」を正確に言い当てている。あの有名なセリフ「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」は、その際に義勇の口から発せられた言葉だ。


 また、義勇は竈門兄妹を保護するため、自分の師である鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)に、「鬼(=禰豆子)を殺さない」という異例中の異例の処遇を認めさせ協力をあおぎ、さらに、鬼殺隊総領の産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)に対しては、鱗滝と連名で、自らの切腹をかけて炭治郎・禰豆子の助命を嘆願している。これらの場面から判断すると、義勇は「いつも言葉が不足している」わけではないようだ。では、義勇の「失敗」はどんな時に起きるのか。


■柱たちに「叱られる」冨岡義勇


 前述のしのぶからの「嫌われている」発言の場面以外にも、義勇が他の柱たちから口々に叱られるシーンがある。それは「緊急柱合会議」での出来事だ。産屋敷耀哉の妻・あまねが退出した時点で席を立とうとした義勇に、風柱・不死川実弥(しなずがわ・さねみ)が「おい待てェ 失礼するんじゃねぇ」「俺たちを見下してんのかァ?」と呼び止める。ここでは、蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)からも「貴様には柱としての自覚が足りぬ」ととがめられ、しのぶからは「さすがに言葉が足りませんよ」とたしなめられる。そして、古参の柱である岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)にも「座れ」と叱られてしまう。


 義勇に対する、他の柱たちからの非難は「柱のひとりであるにもかかわらず、他の柱と交わろうとしない、その行動はいかがなものか?」という問いからわき起こるものだろう。



■義勇の「言葉の失敗」はなぜ起きる?


<俺は水柱じゃない>(冨岡義勇/15巻・第130話「居場所」)


 かつて、義勇は仲間の錆兎(さびと)に助けられ、自分だけが生き残ったことに自責の念を抱きながら生きている。それに耐えきれず、「俺は水柱になっていい人間じゃない そもそも柱たちと肩を並べていい人間ですらない」と、自分を卑下するようになる。


 だが、義勇は他者よりも「優れた剣士である」からこそ、「他の隊士たちと自分は違う」という自嘲が、ストレートには周囲に伝わらず、自分だけがまるで「孤高の人物」として振る舞っているような誤解を受ける。ここで生じる、他の隊士たちとの認識の違いが、義勇の「言葉の失敗」をさらに複雑化させてしまっている。


■胡蝶しのぶが冨岡義勇に怒ってしまうワケ


 柱の中で最も義勇と“距離が近い”のは胡蝶しのぶだろう。作品の中では一緒に行動したり、会話を交わす場面も多い。


 鬼に「姉」を殺害されているという点、そして姉の死後に「本来とは違う性格」になってしまった点において、義勇としのぶは共通している。そして、「笑顔が素直に出てこなくなってしまった」という点でも似ている。


 義勇は、兄弟弟子である錆兎を失ってからはとくに、かつての快活な笑顔を周囲にみせなくなってしまった。悲しみを封印するとともに、うまく笑えなくなっている。一方、しのぶは、自らの怒りを封印し、姉・カナエの代わりにそのつとめを果たそうとして、「うその笑顔」をはりつけている。しのぶには義勇の心情が十分に理解できているだろう。


 しかし、自責の念から、他の柱たちと距離を取ろうとする義勇の姿は、周囲のために「常に笑顔の自分」であろうと努力しているしのぶからすると、イライラの対象になってしまう。しのぶが義勇に「説明が足りない」といつも怒るのはこういう理由だ。義勇の内奥にある悲しみがわかるからこそ、しのぶは孤独を守ろうとする義勇を看過できないのだ。



■義勇に「前を向かせた」、2度の目覚め


 義勇は、自分をかばって死んでしまった姉と錆兎の着物を「半々に」仕立て直した羽織を身につけている。義勇が目指したのは、かつての姉のように、兄弟弟子のように、他者を守れる自分になることだった。


 義勇の心は、姉の死と、錆兎の死によって、2回死んでいる。そのため、義勇が「生き返る」ためには、2度の「目覚め」が必要だった。


 最初の「目覚め」は、弟弟子の炭治郎によって、錆兎と約束した「お前も繋ぐんだ 義勇」という言葉を思い出した時。そして、2度目の「目覚め」は、最後の鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)との戦いで限界に達した時に、悲鳴嶼・伊黒・不死川に助けられ、叱佞気譴浸におとずれる。


 冨岡義勇は、仲間たちからの問いかけと叱佞砲茲辰董◆屬泙世笋譴襦!しっかりしろ!!水柱として 最後まで 恥じぬ戦いを!!」と言葉にできるようになった。義勇は、その時にやっと「真の水柱」として、「守りたかった者を守れる自分」へと変貌をとげたのだった。


◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』『はじまりが見える世界の神話』がある。


このニュースに関するつぶやき

  • もうこれだけ長い期間世間に注目されコミックの売上もトップでかつ昨年既に完結した作品ですから、多少のネタバレなら前書きした上で問題ないと思います。
    • イイネ!2
    • コメント 0件
  • 冨岡 さんは 師匠、弟弟子など 縦の人間関係の繋がりは円滑にこなすけど、同僚などとの横の繋がりは苦手なんだね�������� 良き相棒に恵まれると良かったのでしょうが
    • イイネ!6
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(5件)

ランキングゲーム・アニメ

前日のランキングへ

オススメゲーム

ニュース設定