東京五輪での出番が消えた「幻のチアチーム」。出演が全カットされるまでの準備と解散までの記録

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2021年09月20日 11:22  webスポルティーバ

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 開催について賛否があった東京五輪だが、アスリートたちの活躍に感動をもらった人は多いのではないだろうか。コロナ禍で調整が難しいなか、出場した選手にはあらためて称賛を贈りたい。

 一方で、準備が難しかったのは選手だけではない。

 今回の東京五輪から正式種目になった3x3(3人制バスケットボール)を盛り上げるべく、このためだけに結成された特別チアダンスチームもそのひとつである。




 NBAやNFLにも人材を輩出するプロのチアダンスチームの元メンバーを中心に、期間限定で構成されたチームは、約2年前から準備を進めてきた。しかし、あとは現場リハーサルと本番を残すのみというタイミングで無観客開催が決定し、彼女たちの出演は全カットになってしまった。

 東京五輪3x3チアパフォーマンスチームのディレクターを任されたMEMEさんは4歳からバレエを始め、専門学校のダンス科を卒業。有名アーティストのバッグダンサーなどを務めたのち、プロチアダンスチームに加入した。プロスポーツチームや各種イベントへの出演、ディレクターを経て、退団後の現在は本業を別に抱えながらフリーでワークショップやレッスンを開催している。

 2019年9月にオリンピック組織委員会からオファーを受けたMEMEさんは、知人のダンサーや、かつて一緒にチアをやっていたメンバーに声をかけ、最終的に12名を集めた。

 本来は2020年の3月頃には練習を始められるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大し、1回目のリハーサル直前で活動は休止に追い込まれてしまう。五輪の1年延期に伴い、メンバーは固定のままチームは一時解散となった。




 1年という時間はアスリートと同様、彼女たちにとっても長すぎた。

「五輪についてのニュースを見ていると気持ちが揺れ動いちゃうので、目に入れないようにしていました。私たちにできるのは、世間でいろいろ言われたとしても、いいものを作ること。なので、そのシンプルな気持ちを忘れないようにして集中していました。

 でも、1年の間にはいろいろあるものです。結婚や出産、海外移住した人もいました。それでも『出たい』と言ってくれる子がいる以上、みんなの希望を盛り込みたかったから、なるべく参加できるように調整しましたし、『最悪、五輪のパフォーマンス当日にその場にいてくれればどうにかなる』という心づもりで準備してきました。

 普段からディレクターとして、楽しく、みんなが何でも言える空気感を作ることを大事にしていて、その瞬間に出る力を最大限引き出したいといつも思っています。特に女の子は、楽しくないと続かない傾向が強いので、オリンピックでもその点は意識していましたね」

 対面での活動は最小限で行なわなければいけなかったため、動画を撮影し、細かい練習は各自に委ねた。MEMEさんは「経験があるメンバーだからこそ信じて任せることができた」と言うが、振りを合わせるには限界があるのも事実だ。

 微妙な角度や立ち位置、距離感などは会わないとわからない部分もある。全員が揃ってリハーサルできるチャンスは、会場で行なうたった一度しかないという状況だったが、MEMEさんは割り切って、きっちり振りを揃えようとはしなかった。

「振りは会わないと揃いません。その分、パフォーマンスにパワーと勢いがほしいと思っていました。舞台は生モノで、一生に一度の瞬間です。曲が流れる一瞬にそれぞれが持つエネルギーを爆発させることが大切で、あとはこちらが身長や手の長さ、ポジションを考慮することで、ある程度振りは揃って見えたりするんです。

 メンバーには、一緒に練習ができないのはしょうがないとして、ほんの数分のパフォーマンスを同じ熱量、テンションできるように各自準備してほしい、と話しました」

 MEMEさんは今回のパフォーマンスに向け、最終的に4曲を選定した。選曲は日本のアーティストを使う方針で、最初に10曲ほどの候補を出し、五輪におけるNG要素が含まれていないかチェックが入る。内容は、チアらしさを見せるためにポンポンを使用したり、日本らしい演出を要素として盛り込んでいる。

「実は演出で和傘を使おうとしたのですが、長くて硬いものは武器になるかも知れないとセキュリティチェックに申請を出す必要がありました。ヘアメイク用のコテなんかも確認しなくちゃいけなくて、それは国際大会というか、オリンピックならではでしたね」

 さらにもうひとつ、チアパフォーマンスを作る上で難しかったのが具体的なタイムスケジュールがわからない点だった。

 5人制バスケットボールであれば、全体の試合時間やクウォーター数は変わらない。パフォーマンスもそれに合わせて曲数や長さも決まってくる。

 しかし3x3の場合、試合時間は10分ではあるが21点を先取すればその時点で「KO勝利」となるため、ゲーム時間が巻いて終わってしまうこともあるのだ。そういった部分を考慮した演技構成を行なえる人材として、スポーツの試合での演者、ディレクター経験があるMEMEさんは適任だったということだろう。

 一時解散を経て2021年2月から再始動し、開催を信じて準備を進めてきたMEMEさんとメンバーだったが、緊急事態宣言が発令され、東京五輪は無観客で行なわれることが決まった。それに伴って現場でのリハーサルと本番を残し、出演はなくなった。

 言葉の端々にやり場のない悔しさが滲む一方で、彼女たちがその判断に納得できたのには理由がある。

「(カットになる)可能性はあると言われていたので心づもりはしていたつもりですが、エンタメは立場が弱いというか、こういう場合にいつも悲しい結果になってしまう。地位が低いように感じてしまうところはあります。それでも私たちが納得できたのは、組織委員会の人たちが最後までどうにかパフォーマンスを残せるように粘ってくれたからです。

 3x3を盛り上げようとエンタメの部分でもいろいろなチャレンジを入れようとしてくれて、私たちがこれまでやってきたことを『そのままオリンピックでやろう』と言ってくれたんです。出演カットについても、私たちと同じくらい悔しく思ってくれていました。

 だから私たちも受け入れられたし、会場にも観に行かせてくれて、あらためて一緒にできてよかったと思います。メンバーからも『残念』という言葉はもちろん出ましたけど、文句は一切なかったです」

 今回のチアチームは東京五輪だけの期間限定で、再結成して披露する予定もない。チームは日の目を見ることなく、ひっそりと解散したが、MEMEさんは今後も「こんな時代だからこそ、もっとエンタメを増やしていきたい」と話す。

「少しずつスポーツやライブも有観客になって、衣食住以外のことにも必要性を感じている人は多いと思います。エンタメには人を支える力があると思いますし、私たちにできるのはパフォーマンスしかないですから、できる限りそれを作る仕事をしていきたいと思っています。

 今は、確かに私たちは弱い立場かもしれませんが、結局、やり続けるしかないと思うんですね。絶やさないで作り続けつつ、今までなかったようなことにチャレンジしたり、才能を広げていったりすることが必要だと思います。

 たとえば歌舞伎などがそうだと思うのですが、いろいろな種類の物を作り続ける一方で、同時にメディアにも出ることで幅広い仕事をされています。違う畑ですがそうやって頑張っている先駆者がたくさんいます。」

 MEMEさんのように別に仕事を持ちつつ、週末を活動に充てるというチアパフォーマーは少なくない。日本においては、それ一本で生計を立てることが難しいのが実情である。今回の五輪についても報酬は出ていない。

 一方で高いプロ意識を持ち、いかに人を巻き込み盛り上げるかを追求する彼女たちのマインドには頭が下がる。自分のためだけでなく、他人のために時間と労力を惜しまない貢献意識はなかなか持てるものではない。心から思っていなければ表情を通して人に伝わってしまう。

 彼女たちの弾ける笑顔とすばらしいパフォーマンスを観られる機会が増え、スポーツもエンタメも思い切り楽しめる世界が再び訪れることを切に願うばかりだ。

(写真提供:MEMEさん)

このニュースに関するつぶやき

  • 解散してゴミクズになったくせに使われた嵐の曲みたいに、映像遺して連続再生しておけばいい。
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  • いっそチアダンスを五輪の競技にしちゃえばイイんじゃね?
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