五輪金の「大橋悠依は社会人で伸びる」平井コーチが語る「待つ能力」

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2021年09月20日 17:00  AERA dot.

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写真東京五輪の個人メドレーで2冠を達成した大橋悠依 (c)朝日新聞社
東京五輪の個人メドレーで2冠を達成した大橋悠依 (c)朝日新聞社
 指導した北島康介選手を始め、東京五輪で1大会2個の金メダルを獲得した大橋悠依選手など、数々の競泳選手を育てた平井伯昌・東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第81回は、「待つ能力」。


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 大橋悠依は私が教えてきた選手で3人目の五輪金メダリストです。高校生のとき日本のトップに立った北島康介、萩野公介とは違って、滋賀・草津東高校時代の大橋のインターハイの最高順位は3位で、目立った成績は残していません。


 大橋が高校2年のときに出たジャパンオープンの泳ぎを見て、大きな可能性を感じました。女子200メートル個人メドレーで予選9〜16位が争うB決勝で1位になりましたが、大きな泳ぎでよく水に浮いていた。フロート(浮き)とレングス(泳ぎの長さ)が、ほかの選手とは比べものにならないくらいよく見えました。


 手足が長くて、水をとらえる才能がある。五輪でメダルを狙える将来性を感じましたが、線が細いので、大学の後半から社会人になって伸びてくる、と見ていました。その年の9月、岐阜国体の前に大橋が所属する彦根イトマンスイミングスクールに行って、奥谷直史コーチと話をしました。大橋が本格化する時期について同じ意見でした。


 高校3年のとき東洋大学水泳部に勧誘しました。本人と会話をしたとき、ものごとをちゃんと考える選手だな、という印象を持ちました。繊細でなんとなく頼りないところもあったので、まずはみんなと一緒に練習して、その中で力をつけ、これから世界と戦えるという準備が整ったときに個別の強化に移っていく、というプランを考えました。


 水泳部以外の大学生活も大切にして、心技体のバランスが取れた成長を遂げてもらいたい。その通りに成長曲線を描いたわけですが、高校までハードな練習を経験していなかったので、大学1年のときは朝は陸上トレーニングだけにするなど個別対応で順応させていきました。



 コーチングには「待つという能力」も必要です。それは東京スイミングセンターでコーチになって10年間で得た教訓です。指導者が焦って教えすぎて、選手が自分で伸びていくチャンスを奪うこともあります。その選手の成長に応じて、必要な刺激を少しずつ与えて、力を伸ばしていく。


 五輪メダリストに共通する点に学習能力の高さがあります。それを引き出すために「待つ」ことが必要な場面もあります。大橋は人の話をしっかり聞いて、よく質問をしてきます。アドバイスをすると泳ぎに生かそうと努力します。金メダルにたどりつけたのは学習能力がすぐれていたから、と言えます。それはたとえば字がきれいだとか、提出物をきちんと出すとか、水泳以外の部分にも表れているような気がします。


 ひざの故障、貧血などで回り道をしながら、時間をかけて一番高い山に登れました。そこに至るプロセスは課題を見つけ、一つひとつクリアしていく地道な作業です。最後までいい泳ぎを続ける、いいターンをする、前向きに練習に取り組む、コーチの言うことを理解する……。自分で自分のルールを守れたかどうかが一番大切で、結果はあとからついてきます。大橋は奥谷コーチから、そういう素養を育む指導を受けてきたように思います。


 ジュニア選手の指導者は、早急に結果だけを求めないようにしてほしい。自分で決めたルールをしっかり守る、といった選手の内面を磨く指導が、将来の飛躍につながるはずです。


(構成/本誌・堀井正明)


平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

※週刊朝日  2021年9月24日号


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