菊池雄星と澤村拓一はもっと評価されるべき。斎藤隆が「隠れたすごさ」に着目

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2021年09月21日 11:02  webスポルティーバ

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 数字だけを見れば、ふたりの日本人投手が今季のメジャーリーグで残している成績は、人目を引くものではないかもしれない。

 かたや、<28試合で7勝9敗、防御率4.32>。もうひとりは、<53試合で5勝1敗、防御率3.31>。シアトル・マリナーズに加入して3年目の菊池雄星と、今年からボストン・レッドソックスに移籍した澤村拓一である。




 元メジャーリーガーで解説者の斎藤隆氏は、今季の両者をこう評す。

「どうしてもシーズン"前半"という表現を使われてしまいますけど、今年の雄星はすばらしいですよ。後半になって悪くなったとは感じないですね。1年間、フルスロットルで行けるところまで行こうとしている気がします。

 一方、澤村のすごさも伝えたいですね。ただ体が強いだけではない、"強さ"を見せています」

 今季は大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の異次元の活躍にどうしても埋もれがちだが、菊池と澤村も高いパフォーマンスを見せている。

 30歳になった菊池は白星こそ恵まれていないものの、開幕からオールスターブレイクまで安定感のある投球を続けた。7月7日のニューヨーク・ヤンキース戦まで16試合に登板し、そのうち12試合で6イニング以上を投げ、クオリティスタートを11回達成した。

 過去2シーズンは防御率5点台に沈んだが、今季の変化を斎藤氏が解説する。

「ボールの質や変化量とか、そういうものではないと思います。ストライクゾーンの枠の中で勝負できるようになりました。とてもシンプルでありながら、メジャーで一流になるために一番必要なものです。

 四隅を狙い、際どいコースを『ボール』と言われて自滅していくピッチングを今年はやめたように感じます。バッターに対し、"やるか、やられるか"という勝負に変わった。そのなかで、もともと持っているボールがよかったことに自分で少しずつ気づいていったシーズンだと思います」

 今季序盤、これまでの投球と変わったのが、カットボールの割合を増やしたことだった。シーズン初勝利を挙げた4月29日のヒューストン・アストロズ戦では、全91球のうちフォーシームが約20%、スライダーが約22%で、カットボールは約50%だった。

 英語で「cut fastball」と言われるこの球種は、フォーシームから人差し指と中指を少しずらして投げ、ファストボールを打者の手もとで絶妙に変化させて打ち取っていく。菊池は一定以上の速さと強さを備えたカットボールを中心に、ストライクゾーンの中で勝負した。それが安定したピッチングにつながり、「メジャーでもトップクラスの左腕投手」という評価を獲得した。

 ところが、オールスター明けの後半戦は思うような投球をできない試合が増えていく。7月17日のロサンゼルス・エンゼルス戦から9月18日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦の12試合のうち、6イニング以上投げたのはわずか3度で、白星は8月3日のタンパベイ・レイズ戦で挙げたひとつのみだ。

 そこで、菊池は攻め方をアップデートする。投球割合におけるフォーシームを増やしたのだ。8月31日のアストロズ戦では7回無失点の好投を見せたなか、95球のうち約65%がストレートだった。

 続く9月6日のアストロズ戦は立ち上がりから制球を乱して2回途中で降板したものの、同12日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦では5回1失点と好投。その要因について、菊池はこう振り返っている。

「(捕手のトム)マーフィがとくにカットボール中心に配球してくれて、勝負どころではストレートっていうリードに助けてもらった」(翌日の『サンケイスポーツ』電子版より)

 こうした投球について、斎藤氏が見解を語る。

「小細工して通用する世界ではないと、気づいたんじゃないでしょうか。振ってくるバッターに対して、今までは変化球で何とかしようとしていたところを、真っすぐで勝負するようになった。それが一番の成長だと思います。

 そこに気づけるか、気づけないか。気づけたうえで、真っすぐを投げて勝負になるか、ならないか。左で150キロを超えるピッチャーは、なかなかいません。雄星は気づいたんじゃないですかね、そういう勝負の仕方を」

 西武時代から「自分は不器用」と語っていた菊池だが、メジャー移籍後は年月を重ねるごとに成長の跡を見せてきた。今年30歳になったものの、まだまだ伸びしろがあると斎藤氏の目には映っている。

「野球を少し複雑に捉えているところがまだあると思います。あるいは、今は情報をたくさんインプットしているのかもしれません。そろそろ精査し、余分なものを省いてもっとシンプルにマウンドに上がれるようになると、さらにいいほうに向くのかなと思います。

 また、1年間トータルで投げるために必要な体力は、経験した人でないとわかりません。その経験値はだいぶついてきたと思います。そこの準備をしっかりやりつつ、もっとシンプルにアウトをとれるようになれば、さらに成長する気がします」

 対して、33歳でレッドソックスに加入した澤村は、プレーオフ出場を目指すチームで試合後半に重要な場面を任されている。渡米して環境がさまざまに変わるなか、1年目から50試合以上に登板していることは大いに評価されるべきだろう。

 メジャー1年目から72試合に登板した斎藤氏の目には、どう見えているだろうか。

「澤村は巨人の三軍まで落ちて、ロッテに行ったあとにボストンに来ました。今年の50試合登板は体力的なすごさに加え、彼の野球感の根底にあるものを見せられている気がします。つまり、『チームのためならいつでも投げます』と。マウンドに立つのって、ただ体が強いだけではなく、トータルの"強さ"が必要です。彼にはそうしたものを感じますね。

 たとえば、野球をやれている楽しさを感じながらマウンドに立つ。とんでもないピンチでドキドキしながらも、ちょっとうれしい自分がいた2006年、2007年を僕も記憶しています。おそらく、それに近い状況に澤村はいる気がします。あの風貌もいいですよね。メジャーに馴染んでいるというか。全然ルーキーには見えないですし」

 アゴひげを蓄えた澤村は右腕を思い切り振り抜き、ブリーチした後ろ髪をたなびかせながらフェンウェイ・パークのマウンドで躍動する。新型コロナウイルスの陽性判定を受けて8月末から戦線離脱していたものの、9月14日のマリナーズ戦で復帰すると156キロの速球を投げ込んだ。

 そうしてメジャーのマウンドにたどり着くまで、澤村は紆余曲折の野球人生を歩んだ。

 斎藤佑樹(日本ハム)や大石達也(元西武)、大野雄大(中日)らが同年代にいて、"豊作"と言われた2010年ドラフト1位で巨人入団。1年目から11勝、6年目には37セーブを記録してセ・リーグの同タイトルを獲得したが、以降は必ずしも持ち味を発揮できなかった。

 2020年シーズン途中のロッテ移籍を経て、同年オフ、海外FA権を取得して海をわたる。斎藤氏が想像するように、これまでとは違う心境でメジャーのマウンドに立っているのかもしれない。

 では、投げている球自体に変化はあるのだろうか。

「スプリットは少し面白い動きをしていますね。スプリットチェンジとは違い、シュート気味に落ちる。真っすぐは最初の頃、右バッターの顔のほうに抜けていくようなこともありましたけど、今はそういうボールもほとんどない。

 ルーキーとして見ると、かなりボールの扱いが上手というか、しっかり操れている感じはしますね。投げているボールは、日本にいた頃とほぼ一緒だと思います」

 滑りやすいと言われるボール、日本より硬いマウンドに対応し、自分の持ち味を発揮している。だからこそ、メジャーでも抑えられていると斎藤氏は指摘する。

「日本でのピッチングをそのままメジャーでやれていることがすごいですよ。僕は勝手に、日本のピッチャーはだいたいメジャーで通用すると思っています。実際にアメリカに行って通用しない人は、日本でやっていることができないわけです。澤村は日本でやっていることがそのままできているのは、それだけでもすばらしいと思いますね」

 メジャー移籍後も成長曲線を描く菊池雄星と、新天地で1年目から能力を存分に発揮している澤村拓一。ともにシーズン終盤までプレーオフ出場を争うチームで投げながら、緊張感のなかで最高峰の勝負を楽しみ、意義深いシーズンのフィナーレに向かっている。

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