木村拓哉「嫌なものは嫌、好きなものは好き」 俳優としてシンガーとして嘘のない自分

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2021年09月21日 11:30  AERA dot.

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写真※写真はイメージ(gettyimages)
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 俳優として、シンガーとして、年齢を重ねてもしなやかな躍動感で見る人を魅了してきた「国民的スター」、木村拓哉。主演映画「マスカレード・ナイト」で再び扮するのは、犯人逮捕を優先し、すべてを疑う腕利きの潜入捜査官だ。自らを「オールドルーキー」と呼び、フローイングし続ける。AERA 2021年9月20日号に掲載された記事を紹介する。


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 大ヒットした前作「マスカレード・ホテル」に続く映画「マスカレード・ナイト」は、高級ホテル「コルテシア東京」が再び舞台になる。カウントダウンパーティーが開かれる大みそか、殺人犯がホテルに現れるという密告情報が警察に届く。多くの客が行き交い、華やかな仮面パーティーの準備が進むなか、木村拓哉(48)が演じる敏腕刑事、新田浩介は鋭い観察眼と推理力で事件の解明に挑む。


──2019年公開の「マスカレード・ホテル」に続き、新田浩介を演じることになりました。


 前の事件から2年くらい経過して、もう一度、同じホテルに身を置くことは、新鮮な感覚ではありましたね。同じ役に変身するのも、ちょっとした醍醐味でしたし。年越しが迫る24時間のなかで物語が展開する設定も、時間感覚を意識する演技をすることになって、刺激がありました。


──前作と同じく、共演の長澤まさみさんとのバディ関係も映画の見どころです。長澤さんが演じる山岸尚美はホテルパーソンとして、すべてのお客様を信じようとしますが、逆に新田は犯人逮捕のために疑いの目を向けます。そんな対立する立場の違いを超えて、信頼しあう関係に変わっていくところは魅力的です


 長澤さんが山岸尚美という人物をしっかり掴んで現場にいてくださるので、僕もセッションを楽しむことができました。相手役が長澤さんだから、という部分はすごく大きかったです。


 新田は前回、ホテルという特殊な環境で行動を制限されながら捜査をしていたので、「またですか」というモチベーションで、ホテル・コルテシア東京に向かうんです。でも、行ってみたら、フロントクラークの山岸がいない。彼女はコンシェルジュに昇格していて、以前のようにフロントにいつもいるわけではない。それが2人の距離感に影響して、離れて行動することも多くなった。



 前作で築いた信頼があるからこそ、「今、彼女は何をしているんだろう」「彼女に話しかけたあいつは誰だろう?」という、今作ならではの新田の行動になっていると思いますね。


■関係に余白がある


──今回は、恋愛への発展を想像させるシーンもあります。


 新田も男性なので、あれほど魅力的な山岸尚美は、一人の女性として見ているでしょうね。でも、ド直球な恋愛でもない。原作者の東野圭吾さんが描くマスカレードシリーズの男女関係には余白がある。大人の空気感というか。


 恋愛感情よりも先に彼女へのリスペクトがあるから、ホテルでの振る舞いを口うるさく指摘されても、「ああ、だよな」と新田は受け入れられる。お互いの理解があって成り立っている男女だよなぁ、と思います。


 今回は彼女に危険が迫る瞬間があって、そのときに新田がめぐらせた思いは、前作にはない感情だった気がしますね。


──華やかな仮面舞踏会になるパーティー会場にも新田は捜査のために乗り込みますね。


 新田の趣味とも関係するシーンです。原作にもあるんですけど、台本を読んだときも、「なんで急にアルゼンチンタンゴなんだ。父親からどんな教育を受けていたんだ、お前は」と(笑)。


 刑事らしからぬ余暇の過ごし方に、新田にそんな面があったのかという驚きは、正直、大きかったです。


 アルゼンチンタンゴは初めての経験だったんですけど、踊りのルールをストーリーにもっと反映できると気づいて、鈴木雅之監督に伝えたこともありました。撮影現場では、そんなふうに、サッカーで言えばパスから次のパスにつながるような、ストーリーをふくらませる演技のアイデアがたくさん浮かんで。監督承認で、めいっぱいやらせてもらいました。


■思いやりのベクトル


──アルゼンチンタンゴのレッスンも初体験だったんですね。


 いろいろなダンスをかじってはきているから、なんとかなるだろうと、すごくカジュアルなモチベーションでレッスンに行ったら、反動がでかくて。「今、お持ちの物、ぜんぶ必要ないのですべて置いてください」って感じでスタートしたんです。あまりにも踊れなくて、この年になっても、まだこんな思いをするんだ、と。本当に久々に落ち込みました。



──麻生久美子さんとの初共演はいかがでしたか。


 初対面がダンス教室だったので、共演者ではあるんですが、ダンスの先輩という関係から始まりました。華奢な方ですけど、芯がしっかりしていて、信頼と安心をすごく感じさせてくれる方ですね。


──コロナ禍での撮影は、かなり気を使われたのでは?


 共演者やスタッフ、エキストラの皆さんも含めて、思いやりのベクトルをそれまで以上に多めに持っていてくれたなあ、というのは、今、思い返しても、うん、ありますね。


──前作DVDのオーディオコメンタリーでは、新田がホテルに着任して早々、理容室で身なりを整えさせられるところが観客に受けていた、という話をされていました。


 今回も脚本には理容室に行くシーンがあって、新田は拒否することになっていたんです。でも、「この期に及んで拒否るのはおかしいよね、ちょっと変えるね」って、鈴木監督に相談して演じたら、「そういうことね、オッケー」と言ってくれて。監督は、おおまかな作戦は立てるけど、「一挙手一投足、間違えるんじゃねぇよ」とすべてを操るのではなく、俳優の考えを尊重してくれる。演技のアイデアが出しやすかったですね。


■待っててくれてるんだ


──テレビドラマ「教場」「グランメゾン東京」で俳優としての存在感を示しつつ、昨年1月からシンガーとしても活躍中です。初アルバム「Go with the Flow」と、東京と大阪でのライブツアーは印象的でした。音楽とはどう向き合っていきたいですか。


 マイクを持つことにすごく距離を取っていたし、やるとはまったく思っていなかった。なんだけど、周囲のアーティストの方たちが「なんでやらないの?」と言ってくれたんです。それも押しつけるのではなく、みんながマイクを差し出す感じで。


 あの頃はInstagramもまだやっていなくて、中国のウェイボーでやってたんですけど、そこでもたくさんのファンが待っててくれた。皆さんの気持ちを文字として目視したとき、ようやく「そっか、待っててくれてるんだ」っていうのを自覚できて。それで、初めてマイクを持てたかな、という感じです。



──明石家さんまさんにも背中を押されたそうですね。


「なぜ歌わないの?」「やれよ」と言われるたびに、「いやいや、タイミングがあったら」と、ずっとかわしていたんです。でも、さんまさんの「まさしくオールドルーキーやんけ」の言葉はかわせなかった。「オールドルーキーかぁ。そのモチベーション、いいなぁ」って、みごとに当たってしまって。


──その気持ちはアルバム制作にも表れたのでしょうか。


 ですね。自分の物差しから見た木村拓哉というより、支えてくれる側から見た「拓哉ならこれでしょ」という曲を提供していただいたので、皆さんが思う等身大の木村拓哉の音になった。「これが今の俺かぁ」と理解しながらアルバムを作るのは楽しかったですね、やっぱり。


■好きなものは好き


──アルバムにもラジオ番組にもタイトルに「Flow」の言葉が入っています。サーフィンを愛する木村さんらしい言葉ですが、「Flow」に込めた思いは?


「Flow」は、絶え間なく流れて循環するって意味なんです。フットワークよくできないと、やっぱり濁るじゃないですか。自分がそうなったらまわりの方によくないだろうし、自分にとっても一番苦手なこと。海の上で、流れに乗りながらフローイングできているというのは、その場その瞬間、しっかりと立っていないとできないことでもあるし。


 その現実感も大切で、虚像では成り立たない。絶対に僕は虚像ではないし、嫌なものは嫌、好きなものは好きっていうリアルな感覚、そういう嘘のない感じが、うん、いいんです。


(ライター・角田奈穂子)

※AERA 2021年9月20日号


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