『ゆびさきと恋々』真っ白な純粋さから、アラサーが少女漫画の扉を開く

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2021年09月22日 08:01  リアルサウンド

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アラサーがときめく少女漫画『ゆび恋』

 これまで少年漫画の友情・努力・勝利みたいな作品が好きだった筆者が、35歳を前にして少女漫画にハマりこんでしまった。そのきっかけとなった作品が森下suuの『ゆびさきと恋々』だ。


 ヒロインである大学生の雪は、生まれたときから耳が聞こえない。そこに現れたのが、同じ大学に通う逸臣。語学が堪能で世界中あちこち旅をするバックパッカー、雪に新しい世界を感じさせてくれる存在である。物語はある日の電車内で、雪が困っているところを逸臣に助けてもらうところからはじまる……。


 本作を読むきっかけとなったのは、表紙の美しさに惹かれて。王道の少女漫画は展開が読めてしまってあまり好きではなかったが、読み進めていくと雪の表情の豊かさ、名前の通り真っ白で純粋な可愛らしさがまず印象に残った。なにより、自分の心のなかに少女漫画できゅんきゅんする気持ちがあったことに驚いた。大人が読んでも現実離れしておらず、優しい気持ちになる。以下、この作品の好きなポイントを紹介しよう。


手話だけでなく、雪の表情や身体の動かし方にも注目

 耳が聞こえない人にとってのコミュニケーションは、なにも手話だけではない。慣れ親しんだコミュニケーションの方法は人それぞれ。年代や付き合っている友達、家族、地域環境などによっても違う。作中での雪は手話や口語、筆談、スマホなどを使って、相手と会話することが多い。なかでも印象的なのは、手話でやりとりをする際に表情も大事だということ。手話は面と向かってやりとりするのが基本だが、声から感情が読み取れないために、表情や身体を使って相手に伝えるような雪の姿勢に惹きつけられる。


 例えば、「もっと」仲良くなりたいと雪が逸臣に伝えるシーンでは、親指と人差し指を曲げてコの字を作り、左右の手を上に重ねる動きをする。その手がどんどん上にあがっていく様子には、雪の「もっと、もっと……」という気持ちの強さが溢れている。


 他にも、逸臣が『俺なら大丈夫ってどこまで?』と聞くシーンでは、雪は頭より上から両手で円を描くような動きをして「ぜんぶ」と答える。これは、「ぜーんぶ」という乙女心のこもったニュアンスの描写にしたと、2巻末の解説にも書かれている。同じ言葉であっても、手話の動きの強弱などで、こうして多彩な表現もできるらしい。漫画では手話の動きと表情、身体の動かし方からも雪の心情を読み取ってみてほしい。とにかく身体をめいっぱい使って想いを伝える、そんな彼女が可愛いのだ。


相手の意思を尊重できる逸臣の魅力

 逸臣と雪が出会ったばかりの頃は、目線が合うタイミングがずれてしまって相手に言いたいことが届かない、相手の言いたいことすべてが読み取れないというもどかしさもあった。「ちゅーしたい」を「ぎゅーしたい」とかわいい勘違いのシーンも……。カタカナや英単語は口語では伝わりにくいので、指文字で一文字ずつ伝えるようにするなど、2人にとってのコミュニケーションをすり合わせていく様子が描かれている。


 逸臣が雪とやりとりする上で印象的なのは、「〜する?〜しない?」「〜嫌?〜嫌じゃない?」と雪が答えやすいように聞いたり、声をかけるときにも驚かせないように先に視界に入るようにしたりするシーン。相手が不安にならないように、先に伝えてくれる。なんてことのないような行動かもしれないけど、相手の目を見て意思を尊重できる逸臣の歩み寄り方は、大人からみても素敵だなと思う。そして、「俺を雪の世界に入れて」と、シンプルにストレートに伝える逸臣。しっかりと伴う行動にもきゅんとする。


 コミュニケーションの基本ともいえる、相手に興味を持つこと、相手のことを知りたい、相手に伝えたいという気持ち。大人になると、殺伐とした日常でこうした気持ちは忘れてしまいそうになるかもしれない。嬉しいと言ったときに笑えているだろうか、わくわくするような気持ちを素直に表現できているだろうか。『ゆびさきと恋々』を読んで改めて、自分も雪と逸臣のようでありたいという気持ちに気づかされる。


 「ゆびさきと恋々」は現在5巻まで発売中。今後の二人を、引き続き見守りたい。


■書誌情報
『ゆびさきと恋々』1〜5巻(デザートコミックス)
作者:森下suu
出版社:講談社


ゆびさきと恋々(1) (デザートコミックス)

462円

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