『鬼滅の刃』柱合会議の前後で変化したものとは? 群像劇へのシフトを考察

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2021年09月22日 18:11  リアルサウンド

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『鬼滅の刃(6)』

※本稿には『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の内容について触れている箇所がございます。原作を未読の方はご注意ください。(筆者)


 社会現象的な大ヒットを記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のテレビ初放送(9月25日)に先がけて、5夜にわたり放送されている『「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編 特別編集版』(フジテレビ系)。これは、『鬼滅の刃』のテレビアニメシリーズ第1期を5回に分けて編集したものだが、明日(9月23日)、そのクライマックスともいうべき“第5夜”――「柱合会議・蝶屋敷編」が放送される。


 そこで、本稿ではあらためて、その「柱合会議」(厳密にいえば、会議の前に行われた「柱合裁判」)の様子が描かれている、原作の第6巻について論じてみたいと思う。


 吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』は、鬼にされた妹・禰󠄀豆子を人間に戻すため、政府非公認の組織「鬼殺隊」の剣士となって、悪しき鬼たちと戦う少年・竈門炭治郎の成長を描いた物語である。


 第5巻までは、その炭治郎が、「育手(そだて)」と呼ばれる育成者のもとで剣の修行を積み、過酷な試験を経たのちに鬼殺隊に入隊――そして、我妻善逸・嘴平伊之助という同期の仲間たちとともに、命を賭して鬼と戦っていく様子がおもに「主人公目線」で描かれていくのだが、第6巻以降は、それまで基本的には一本だった物語全体を見渡す「目線」が、いくつかに枝分かれしていく。つまり、そこまでは炭治郎の主観で進んでいた物語が、徐々に、複数のキャラクターの視点を織り交ぜながら描かれるようになっていくのだ。


 むろん、それでもなお、「主人公の成長」が物語の大きなテーマであるということに変わりはないのだが、複数のキャラの視点が加わることにより、当然、ある種の読者は第6巻を境にして、炭治郎以外のキャラクターにも“肩入れ”しながら、物語を読み進めていくことになるだろう。


 具体的にいえば、それは、そこから先の『鬼滅の刃』が、(「少年ジャンプ」の“お家芸”ともいうべき)「複数の主役級のキャラたちによるチームバトルの物語」へとシフトしていったということである。そしてその大きな“方向転換”は、結果的に読者それぞれにとっての(主人公以外の)“推し”のキャラを複数生み出すことに成功し、それは、作品全体の人気の底上げにもつながっていった。


 たとえば、第6巻収録の第44話のラストシーン、あるいは、第45話の扉ページを見られたい。そこでいきなり、見開きの大ゴマでずらりと並んで登場した「柱」たちの姿を見て、“ここからはじまる何か”を期待して、ドキドキしない漫画ファンが果たしているだろうか。


 ちなみに「柱」とは、鬼殺隊最強の剣士に与えられる称号のことであり、第45話の扉ページの段階では全部で9名いるのだが、そのうちの7名については、そこに至るまでなんの説明もなされてはいない。だが、“説明がない”からこその迫力や期待感というものはたしかにあるだろう。


関連:『鬼滅の刃』竈門炭治郎は王道の主人公ではない? 捻りを効かせたキャラクターをあらためて考察


 いずれにせよ、この瞬間から、『鬼滅の刃』は、主人公の竈門炭治郎だけでなく、9人の「柱」と同期の隊士たち全員が、ほぼ同格の存在として物語を動かしていくことになる。そしてそれに伴い、“敵役”となる鬼の側でも、主人公サイドのキャラに匹敵するような“個性”を持った魅力的なヒールたちが作られていった(それにより、悪の側にも多くのファンがついていくことになる)。


 なお、私は先ほど、こうした物語(ないしキャラクター)の作り方を「『少年ジャンプ』の“お家芸”」だと書いたが、ルーツを辿ればそれは車田正美の『リングにかけろ』ということになるだろう。そしてその「複数のキャラによるチームバトル」を描いた作品のヒットが、少年漫画の新しい方法論(ヒットの法則?)のひとつを生み、それはのちに車田の『風魔の小次郎』や『聖闘士星矢』でより強化されただけでなく、他の著者によるジャンプ系作品――たとえば、『キン肉マン』(ゆでたまご)や『DRAGON BALL』(鳥山明)、『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)といった作品でも、多かれ少なかれ活かされていったわけである。


 さらには、その“現在進行形”が芥見下々の『呪術廻戦』だといえるだろうし、「少年ジャンプ」連載作ではないが、いま最も漫画界で注目を集めている作品のひとつである『東京卍リベンジャーズ』(和久井健)もまた、キャラ作りのうえではこの方法論を大きく取り入れているといっていいだろう。(ちなみに、厳密にいえば、この種の「チームバトル物」のルーツは、山田風太郎の「忍法帖シリーズ」――特に『甲賀忍法帖』だといわれており、それに影響されたとおぼしき横山光輝の『伊賀の影丸』や、また、「チーム」という点では、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』なども忘れてはならない存在だろうが、文字数の関係で、ここではそれらのタイトルを挙げるにとどめておく[注])。


[注]……山田風太郎自身は、『甲賀忍法帖』を書くにあたり、『水滸伝』を意識したと語っている。(参考:『幻想文学講義――「幻想文学」インタビュー集成』東雅夫 編・国書刊行会)


 さて、話を『鬼滅の刃』に戻すと、前述の「柱合会議」とは、文字通り「柱」たちが「お館様」(=産屋敷家当主)のもとに集合して開く会議のことだが、第45話の段階では、約半数の「柱」が竈門兄妹のことを認めていない。


 簡単に書けば、それは、こういうことになるだろう(あくまでも以下は私見によるものである。読み手によっては、少々異なる印象を各キャラの言動に抱いているかもしれない)。


●「水柱」冨岡義勇……竈門兄妹のことを信じている。万が一、禰󠄀豆子が人を襲った場合は、腹を切る覚悟を決めている。


● 「蟲柱」胡蝶しのぶ……中立的な立場をとっているが、本心ではおそらく同情的。


●「恋柱」甘露寺蜜璃……同情的。


●「霞柱」時透無一郎……ほとんど関心がない。


●「岩柱」悲鳴嶼行冥……同情的ではあるが、炭治郎のことを、鬼に取り憑かれているから「殺して解き放ってあげよう」ともいっている。


●「炎柱」煉󠄁獄杏寿郎……私情はないが、鬼である禰󠄀豆子も、隊律違反である炭治郎も斬首すべきだと考えている。


●「音柱」宇髄天元……煉󠄁獄と同意見(本来は型破りなキャラだが、もともとは忍だったせいか、隊律を重んじる一面もあるようだ)。


●「蛇柱」伊黒小芭内……鬼である禰󠄀豆子に憎しみを抱いている。炭治郎のことも認めていない。


●「風柱」不死川実弥……伊黒とほぼ同じ考えだが、態度としてはより凶暴。


 この段階ですでに、ヴィジュアル面も含め、作者は見事に9人のキャラを立てているといっていいが、こうした竈門兄妹に対する(約半数の)「柱」たちの憎しみや不信感は、のちに炭治郎と禰󠄀豆子が命を賭して鬼と戦い、人々を守っていく姿を目の当たりにすることで、180度変わっていく。そこに読み手にとっての大きなカタルシスがあるのは間違いないだろう(特に物語の終盤で、伊黒が炭治郎のことを自分と同格の剣士として認め、不死川が禰󠄀豆子のことを妹のように扱う描写は感動的だ)。


 いずれにせよ、『鬼滅の刃』という物語は、第6巻を境にして、主人公の成長だけでなく、複数のキャラクターの想いをも描いたある種の群像劇へとシフトしていった。そして、そののち、第8巻で描かれた「炎柱」煉󠄁獄杏寿郎の熱き生き様が、この物語で作者が伝えようとしているテーマをより明確にしたといっても過言ではないのだが、そのことについてはまた、別の機会に書いてみたいと思う。


■書籍情報
『鬼滅の刃(6)』
吾峠呼世晴 著
定価:440円(税込)
出版社: 集英社


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  • ライターさんが鬼滅にハマっているのがよく分かった����ʴ򤷤����
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