車いす生活を送る滝川英治さん 口にペンをくわえて描いた絵本に託す想い

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2021年09月24日 10:00  AERA dot.

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写真滝川英治(たきがわ・えいじ)/1979年、大阪府出身。ミュージカル「テニスの王子様」などで活躍。著書に『歩』。滝川クリステルさんはいとこ(写真:本人提供)
滝川英治(たきがわ・えいじ)/1979年、大阪府出身。ミュージカル「テニスの王子様」などで活躍。著書に『歩』。滝川クリステルさんはいとこ(写真:本人提供)
 俳優の滝川英治さんは撮影中の事故が原因で現在は車いす生活を送っている。その滝川さんが絵本を作り上げた。AERA 2021年9月20日号では、今までにない発想から生まれた滝川英治さんの絵本『ボッチャの大きなりんごの木』制作までの過程を取材した。


【写真】口にペンをくわえて表紙絵を描く滝川英治さん
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 ドラマ撮影中の自転車事故で俳優の滝川英治さん(42)が脊髄損傷を負ったのは2017年のことだった。


 車いす生活となるもリハビリに励み、この夏、『ボッチャの大きなりんごの木』(朝日新聞出版)で絵本作家デビューを果たした。


 手足の自由が利かない滝川さんが口にペンをくわえて携帯を操作するようになったのは、事故から半年後のこと。


■主人公がわからない


「一日中なにもしていないと、つらいことや苦しいことばかり考えてしまう。はじめは気をまぎらわすために看護師さんの似顔絵や聞こえてくるセミの声を聞いて、セミの絵を描いたりしていました。ある時、天井の染みが犬のダルメシアンの柄に見えて、そのダルメシアンが僕を空から見守ってくれているような気がしたんです。そんなきっかけから物語も考えるようになりました。最初は自分の心を落ち着かせるために絵や物語を作っていたのですが、結果的にそういう時間が自分の生きがいになっていたんです」


 物づくりに没頭することで、つらい時間も忘れられることに気づいた滝川さんは、その思いを絵本にして子どもたちに伝えたいと決意する。以来、何百という絵本を読み漁った。『100万回生きたねこ』『介助犬レスキューとジェシカ』『さっちゃんのまほうのて』──数々の滝川さんの心を震わせた絵本たち。


「どれも素晴らしい作品です。でも僕は、それを参考に絵本を作ろうとは思わなくて、今までにない絵本を作りたいと思いました。絵本はこうでないといけないよというのをとっぱらいたかったのです」


『ボッチャの大きなりんごの木』の表紙は、カラフルな色彩にあふれ、たくさんの動物たちがこれでもかと描かれている。




「普通絵本は、主人公が表紙の中央にどーんといるものが多いんです(笑)。僕はあえて最初の数ページは、どの子が主人公なのかなかなかわからないようにしました。正解をこれですって言ってしまうと、そこからそれ以上広がらなくなってしまう。いろんな捉え方があると思うし、それは読んでいる方の自由だと思っているので」


■自分をほめてあげた


 本書は主人公のゾウがロードバイクの大会で事故に遭い、再び立ち上がるまでを描いた物語だ。


「主人公のボッチャの名前はパラリンピック競技の『ボッチャ』から名づけました。ボッチャは重度障碍者の僕でも参加できるスポーツ。競技で使用する長いスロープは、まるでゾウの鼻のようなんです。僕自身も背も高くて大きな身体を持っていますしね」 


 この夏、滝川さんはふたつの悲願を成し遂げた。ひとつは、この絵本発売。そうしてもうひとつは、東京2020パラリンピック開会式に映像出演し、管制塔から全体に号令を出すクルー役として始まりのホイッスルを鳴らすという大役を果たしたことだ。どちらも所属事務所の力を借りず、自ら働きかけて手に入れたものだった。


「自分はただケガしただけで特に何かを努力して成し遂げたわけでもない。誇れるものがないのに、『滝川さんはすごい。勇気をもらいました』とか言っていただいていました。それは嬉しいけれども自分で努力をして、自分の力で何かを成し遂げたかった。その一つが絵本だったんです。自分で出版社に電話をかけ、何社も回りました。ダメ出しすらも自分のプラスになったと思います。ようやくこの4年間ではじめて俺、頑張ったなって。アトランタ五輪の時の有森裕子選手の言葉ではないけど自分をほめてあげました(笑)」


(編集部・三島恵美子)

※AERA 2021年9月20日号


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