コロナ転職先がブラックだった。それでも「前職よりマシ」と思えるワケ

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2021年09月25日 09:21  日刊SPA!

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 コロナ不況に伴い転職する人が増えている。今まさに転職を考えているものの、二の足を踏んでいる人も多いだろう。実際に転職した人たちは、その後をどう過ごしているのだろうか。

 まったく違う職種へ転身した元アパレル店員に“コロナ転職”のリアルを聞いたところ、アパレル系ブラック企業の闇まで見えてきた——。

◆ファッションの衰退で即日解雇に

 昨年話題となった、レディースブランド『CECIL McBEE(セシルマクビー)』の店舗事業撤退。平成のギャル文化を支えたブランドの衰退に、多くの人が衝撃を受けた。オンワードホールディングス、ワールド、レナウンといった総合アパレル大手の百貨店からの撤退も続き、アパレル業界は苦境に立たされている。

 不況の背景にあるのは、長引く外出自粛やリモートワークの普及による、衣料品の需要低下・購買欲の消失だ。
 
 元ベテラン販売員の透子さん(30代・仮名)は、長年勤めたアパレル業界を去り、コロナ禍で広告代理店の事務員に転職した。思いきって異業種へと移った理由は、不況だけではない。

 話はコロナ前の2019年までさかのぼる。

「一昨年の5月まで、モード系のブランドで働いていました。でもある日出勤すると、会社が倒産していたんです。業績が悪化しているとは聞いていましたが……。スタッフ全員、その場で解雇です。店舗の撤退作業をしながら泣きそうになったのを覚えています」

 突然仕事を失った透子さん。足を運んだハローワークでは職業訓練を勧められたものの、焦りや不安から転職活動を選んだという。

「今思えば、職業訓練を選んでおけばよかったんですが……急に仕事が無くなったから、『働かなきゃ!』って気持ちが強かったんですよね。転職先も販売職で探しました。ただ実は、前にも勤めていたブランドの倒産を経験しているんです。その時もモード系のお店で。二度も同じことを味わい、『モードはもう流行らないんだな』と悟りました」

 次は大きめの会社で、簡単に倒産しないブランドにしよう——。そう決意した透子さんは、解雇から3ヵ月後、高級婦人服の店に転職を決めた。自分の好みではなかったが、流行に左右されないデザインの服で、ここならば大丈夫だろうと思ったそうだ。しかし、この会社こそが透子さんの「販売員離れ」を後押ししてしまう。

◆転職先は体育会系のブラック企業

「入社してすぐ『すっげークソな会社に入ってしまった』と後悔しました(笑)。中小企業の悪いところを煮詰めた感じで、ノリが体育会系。残業代も出ないどころか、そもそも残業代という概念が無い。典型的なブラック企業だったんです」

 朝10時半から夜19時半までと知らされていた就労時間。しかし実際に働きだすと、始業30分前からの掃除・朝礼への参加が義務付けられていた。閉店作業は勤務時間に入っておらず、退社はいつも20時過ぎ。前の職場ではゆとりある働き方ができていた分、透子さんの疲労やストレスは溜まっていく一方だった。

「高価格の服を売っているのに、バックヤードが汚くて商品管理がずさんだったり、上司の指示や同僚の働き方に合理性が無かったり。不満を挙げるとキリがありません。それでも『転職続きでは印象が悪い』と耐えていましたが……コロナがきっかけで、会社の時代遅れな対応を見てしまったんです」

◆コロナ禍でも「ノーマスク接客」を強いられ…

 国内でコロナ感染者が増えだした昨年2月、転職を決定づける出来事がふたつ起こった。ひとつは、会社のコロナ対策への姿勢だ。

「まず、マスク着用が“実質禁止”でした。もともと販売員はマスク禁止のルールがあったんですね。なのでコロナが流行り始めた頃は、ノーマスクで接客しなければいけませんでした」

 今でこそ接客業でも当たり前になっているマスクの着用。しかし昨年初頭はまだ「マスクをしての接客は失礼だ」という風潮が強かった。彼女が働いていた店も、例に漏れずそうだったという。

「感染者が増えてきて、周りの店では接客時のマスク着用が広がりました。そこでやっと会社の上層部から、『マスクを付けたい人は付けてもいいですよ』とお達しがあったんです。

 でもその頃には、マスクも消毒液も品薄で買えない状態。会社から1箱だけマスクが支給されましたが、スタッフの人数を考えても足りるわけがありません。そして何より、エリアマネージャーが猛反対していたんです。顔が見えないのはお客様に失礼だからって」

 透子さんは「会社としてもマスクはやっぱり反対だけど、気遣っていますよって姿勢を見せなければいけない。マスクが足りない状況なら、『お客様に失礼だからスタッフが自主的にマスク着用を控えている』ってことにできると考えたんでしょう」と振り返る。

 コロナに対する会社の見解も楽観的なもので、不信感は募っていった。そしてある日、退職の決め手となる通達が届く。

◆ありえない個人情報集め

「新入社員キャンペーンが課されたんです。それは『スタッフ1人につき、ブランドのインスタへのフォローとメルマガの登録を100人集める』というものでした。お客様はもちろん、家族や友人に声をかけてとにかく登録してもらえと。

 それだけならまだしも、登録してくれた人のインスタID・名前・メールアドレス・電話番号をExcelで提出するよう言われました。不備があればカウントされませんよ、と。個人のSNSアカウントと本名を結びつけるなんて、ヤバいじゃないですか」

 企業の個人情報管理が厳しい時代に、考えられないような方針。登録を1件ずつ確認するためのスタッフまで配備されたそうだ。百貨店での勤務経験があり、個人情報の取扱いについて厳しく指導されていた透子さんにとっては、目を疑うものだった。

「キャンペーンの趣旨自体が、会社への忠誠心を示すためのものでした。『会社がやれと言ったことをちゃんとできる社員なのか、それを見るために実施する』と、人事から明言されましたから」

 透子さんは「この内容は法律的にもまずい」と先輩社員や上司に訴えたが、「これの何が問題なの?」とまったく取り合ってもらえなかった。

「今までも毎年、新入社員に対して似たような内容のノルマを与えていたそうです。過去には新入社員の保護者から苦情が入り、会議にも上がっていたそうですが……慣例だからと続けられていました。

 今いる社員はこの洗礼を乗り越えてきた人ばかりなので、後輩がやらなくて済むようになるのは気に食わなかったんでしょうね。会社に絶対服従する人間のみを残すためだとも考えられます。ブラック体質全開の行事ですよ」

 別企業で販売員をしている友人に相談した透子さん。友人からは、「それはおかしい。もし登録してってお願いされていたら、私は友達をやめていた」と返ってきた。

 百貨店にも出店しているブランドでありながら、個人情報取扱いに対する意識の希薄さと、危機感のなさ。透子さんは違和感を持つと同時に、絶望感すら覚えた。

「それが決定打となって会社に見切りを付け、今年3月末に退職しました。もともと不満も溜まっていたし、『人間関係を壊してまで、この会社にしがみつく理由はない』と思って。ただ、継続勤務日数が足りず、失業保険は下りませんでした」

◆緊急事態宣言でハローワークが休業

 それまでの貯金があったため、失業保険が無くとも生活は維持できた。しかしお金よりも問題だったのが、転職先だ。

「辞めてすぐに緊急事態宣言で、ハローワークの窓口も休業してしまって。リクナビや転職エージェントに登録しましたが、エージェントからは営業職しか紹介がありませんでした。その頃はまだ販売職がしたくて、モード系やセレクトショップ以外で探していましたが、求人が全然無かったんですよね……」

 転職先が決まらないまま時間だけが過ぎていき、気が付けば6月になっていた。コロナの影響でさまざまな業種がダメージを受けているのを見て、「販売系もこの先厳しいかもしれない……」と悩むようになったそうだ。

「そんな時、たまたま前の職場の先輩に街でばったり会ったんです。旦那さんが百貨店の紳士服売り場で働いていて、『撤退したブランドも多い』と話を聞いて。それならいっそ、安全そうな事務で探そうと方向性をシフトしました」

 今まで事務職の経験は無かったが、「事務の職歴を持てば、何か今後の役に立つかも」と考えたという。

 そして昨年の7月、運よく中小の広告代理店の事務に採用された。

 転職前と比べて、環境や待遇は良くなったのだろうか。

◆残業代は出るものの…

「ブラックはブラックです(笑)。ただ、前の職場と違って残業代が出るのは嬉しいですね。勤務時間は9時から18時で、残業はたまに。給料は明らかに減りました。基本給だけで、アパレル時代と3万円は違います」

 事務職として入社した透子さんだが、今は営業も兼任させられている。人手が足りないこともあり、観光系プロジェクトの営業を割り当てられたそうだ。

「営業もやっているのに、給料は事務職のままなんですよ。それがストレスですね……。頑張って受注を取っても、給料は変わらないので。ただ観光業には興味を持つようになりました。営業していると元気が出るので、やっぱり喋るのは向いているんだなって分かりましたし」

「今広告を出しても、誰も旅行に来てくれないだろう」「業績が悪化し、広告費にまわす予算がない」といった理由で、広告出稿を断られることも多い。そのため広告代理店としての業績は決して良いとは言えないが、「販売員の頃よりは鈍感でいられる」という。

「販売員は店先に立つので、お客さんの少なさから会社の先行きをヒリヒリと感じてしまうんですよね。そうしたプレッシャーや不安を感じながら仕事するよりは、鈍感でいられます。ずっと今の会社で働こうとは思っていませんが、店が明日無くなるかもって不安が無いのは楽です」

◆「アパレルには戻りたくない」

 彼女にとって、今回の転職は成功だったのか失敗だったのか。「辞めてよかった」と前置きした上で、こう語ってくれた。

「ブラックではあるけど、今回の選択で合っている気がします。前回の転職は焦って失敗したので。今は“人生の休憩中”に近いです。年齢的に休憩している場合じゃないんですけど(笑)。販売員のままだったら、毎日同じルーティンを繰り返して、走り続けなきゃいけなかった。転職してから、販売員だけをしていたら考えないようなことを仕事で考えられています」

 アパレル業界で辛酸を舐め続け、異業種へと飛び込んだ透子さん。いつかまた販売員に戻りたい気持ちはあるのだろうか。

「アパレルはもうしたくないです。もう嫌になっちゃった。特に婦人服は絶対にイヤです。でもバッグや靴やアクセサリー販売なら楽しいから、もし戻るならそこかな」

 一長一短な別業界への転職。しかし不況で転職先が見つけにくくなっている今、スキルアップのために働く業界を変えてみるのは一手かもしれない。

<取材・文/倉本菜生>

―[「コロナ転職」のその後]―

【倉本菜生】
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:

このニュースに関するつぶやき

  • この令和の時代に未だブラック企業は会社名晒せや!無論どんな会社だったか事実の体験も併せてな!!
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