「芝居の勉強はしないほうがいい」と言われ…岸部一徳の役へのアプローチとは?

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2021年09月25日 11:30  AERA dot.

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写真岸部一徳 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
岸部一徳 (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
 新作映画「総理の夫」で、初の女性総理と連立を組む政界のドンを演じる俳優の岸部一徳さん。作家の林真理子さんが、口数が少なかった子ども時代のこと、ザ・タイガース時代の記憶や演技への思いなどをうかがいました。


【林真理子さんとのツーショット写真はこちら】
*  *  *


岸部:林さんのこの対談、もう長いんでしょう?


林:はい。去年のはじめに1千回を超えました。岸部さんには、10年前に一度出ていただいたんですよね。


岸部:あ、そんなに前になりますか?


林:映画「大鹿村騒動記」のときでした。あれはあの年の映画の賞を総なめにしましたよね。


岸部:そうでした。あの作品は、原田(芳雄)さんの遺作になったんですよ。


林:そうだったんですね。今度の「総理の夫」という映画(9月23日全国公開)で、岸部さんは、日本初の女性総理(中谷美紀)と連立を組む政界のドンの役をなさってますね。私、野田聖子さんと親しくて、このあいだこの映画のことを話したら、野田さん、「原作(『総理の夫 First Gentleman』原田マハ)を読んでるから、映画、見てみたいな」と言っていましたよ。


岸部:そうですか。


林:この映画みたいな夫(田中圭)がいてくれたらどんなに素晴らしいかと思いますよ。奥さんの成功を自分のことのように思って、愛しながらサポートをしていて。


岸部:はい。政治が題材なので、マジメといえばマジメな映画ですけど、ちょっとコメディーっぽいところもあるから、楽しく見られると思いますね。


林:この作品には、基本的にいい人ばっかり出てくるなかで、いかにも政界の奥深い闇をあらわしているのが岸部さんですよね。岸部さんが出てくると、それだけで存在感があって、「政界の鵺(ぬえ)」と言われている二階(俊博=自民党幹事長)さんを想像してしまいましたよ(笑)。


岸部:そうですか(笑)。まあ、実際の政界では、むしろフィクション以上にいろんなことがあるんでしょうけどね。


林:そうですね。映画に出てくる、総理の記者会見場とか、国会議事堂の中の委員会室とかがとてもリアルで、映像がよくできていますよね。あれは学士会館で撮ったんですか。




岸部:そうです。でも、本当に議事堂の中にいるように見えますよね。首相公邸の外観については、周辺のビル群などCGも使っていると聞きましたけどね。


林:政治や経済には、やっぱりご興味がありますか。


岸部:まあ、ふつうに、ね。たとえば金融関係の映画に出るとしたら、金融って一体どういう仕組みなんだろうと思って、日経新聞をしばらく読んでみるとかね。そういうことから、見えてくるものもあると思っています。今度の映画は、政治の世界について、ちょっと見方を変えて考える機会になりましたしね。安倍(晋三)さんが総理になる前は、食事会や勉強会にときどき誘われることがあったんですよ。


林:あ、そうなんですか。


岸部:総理大臣になってからは、会う機会もなくなりましたけどね。芸能人が総理大臣と仲良くするのは、変だな、と思いましてね。安倍さんは意外と、映画にかかわる人が好きらしいんですよ。津川雅彦さんと仲がよかったそうですしね。


林:朝日新聞の「首相動静」を見ても、安倍さんはわりと映画をごらんになったりしてるので、映画がお好きなんだろうなとは思っていました。


岸部:そうみたいですね。


林:津川雅彦さんは、3年ぐらい前、私も参加させていただいたジャポニスムの「日本の美」総合プロジェクト懇談会の座長をなさって、日本の文化をフランスに持っていく活動に尽力なさっていました。そういう方だから、安倍さんとも親しかったんでしょうね。


岸部:僕がザ・タイガースのとき、そのころは佐藤(栄作)総理でしたけど、軽井沢で年に一度、芸能人がたくさん集まる「佐藤さんをたたえる会」というのがありましてね。


林:ああ、その話、聞いたことがあります。


岸部:みんなで集まって佐藤さんをたたえるんです。そして、会の最後になると、そこにいる全員で「佐藤さんをたたえる歌」というのを歌うんですよ。昔の歌の歌詞を変えて、「♪佐藤さんありがとう」って。



林:それってちょっとヤな感じですね(笑)。


岸部:芸能界と政界とをつなぐ象徴的な出来事ですよね。僕はまだ19かハタチぐらいでしたけどね。ザ・タイガースのメンバーも当時、京都や大阪から出てきた子どもたちですから、「政治家ってすごいな」「見たことあるな、あの人」って感じで、まるで「真夏の夜の夢」ですよ。


林:おもしろい話ですね。


岸部:ともかく、こういう映画をとっかかりにして、政治に関心を持つ人が少しでも増えてくれればいいですよね。


林:そうですね。私は、早く女性に総理大臣になってもらいたいと思っているんです。女性総理が誕生したら、日本はものすごく変わると思いますよ。早くその日が来ればいいなと思ってます。


岸部:そうですね。でも、いまのところ、日本ではなかなか難しいんじゃないでしょうか。やっぱり、いま上にいる長老の人たちが引退してからじゃないと、簡単に状況は変わらないんじゃないかと思います。


林:たしかに、そうかもしれませんね。ところで、話が変わりますけど、岸部さんの昔のインタビュー記事を読んだら「演技は勉強することでもない」とおっしゃっていたのが印象に残っています。そうなんですか。


岸部:僕は30歳ぐらいになってから、TBSの久世(光彦=プロデューサー)さんという人に俳優の道に進むことをすすめられて、樹木希林さんの事務所を紹介されたんです。そこで、面接を受けて入ったんですが、久世さんからも希林さんからも、早坂(暁)さんという脚本家の方からも「今から芝居の勉強はしないほうがいい」って言われたんです。


林:そうだったんですね。


岸部:だから、あえてというか、本格的に芝居の勉強はしたことがないんです。映画というものは、監督によって何を大事にするかがそれぞれ違うんですよね。僕みたいに、いわゆる芝居の基礎を学んでいない俳優は起用しない監督もいます。ちゃんとした芝居の技術を、体系的に学んだ俳優を好む監督もいれば、むしろそういう人ばかりでなく、いろんな背景を持つ俳優を好む監督もいるという感じですね。



林:「ちゃんとした芝居」って、俳優座とか文学座とか、そういうところから来たような人ですか。仲代達矢さんの無名塾とか。


岸部:うーん、それは難しいところですね。僕は音楽から来ている人間ですから、脚本を読むと、リズムがいいとか悪いとか、「音楽のほうから見ると、こういうことかな」っていう感覚があるんですよね。


林:ああ、音楽のほうから見るんですか。


岸部:はい。芝居を始めたころからいままで、ずっとそういう感覚でやってきたので、まあこれでいいかな、とは思っているんですけどね。僕、小学校のころ親の都合で4回ぐらい引っ越ししているんですよ。


林:そうなんですか。


岸部:京都で生まれて、熊本に行って、友達ができるころには転校するんですね。そういう状況を繰り返すうちに、何となく人としゃべらない子どもになっていったんです。そういうこともあって、とくに子どものころは、言葉を使って人に何かを伝えることが苦手なほうだったんです。


林:ええ。


岸部:今でも、「言葉に代えたらこういうことかな」という、その言葉が見つからないときがあるんです。たとえば音楽では、作詞をするときに、「これにぴったりの言葉がないかな」と思っても、思いつかないんです。芝居でも同じで、心の中では言葉に代わる何かが生まれているんですけど、それを伝えにくい。だから黙っていると、「それがいい」と言う監督もいるんですよね。たとえば小栗康平さんだと、「言葉を使うと感情が小さくなる。言葉を使わないで、感情が体に残っているほうがいいんだ」と言うんです。


林:なるほど。


岸部:希林さんも「私は変わった子どもで、コミュニケーションがうまくとれなかった」みたいなことを言っていましたけど、そういう人は意外と多いんです。


林:そういう人が「名優」と言われる人になっていくんですね。多弁じゃなく、心の中に感情を残して、その余白が私たちに伝わってくるという……。



岸部:今まで一緒に仕事をした映画監督は、そういうのが大事なんだ、という人が多かったように思いますね。今はあんまり考えなくなりましたけど、希林さんの事務所で一緒にやっていた若いころは、四六時中そんなことを考えてました。脚本家の早坂さんと一緒にやっているころ、彼に「一日中バスに乗って、外を歩いてる人をずっと見る。それが本当の勉強じゃないの?」って言われたことがあったんです。そういう人と出会えたことが大きかったなと思いますね。希林さんも含めて。


(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)


岸部一徳(きしべ・いっとく)/1947年、京都府生まれ。67年、ザ・タイガースのベーシストとしてデビュー。グループ解散後、PYGや井上堯之バンドを経て、75年にドラマ「悪魔のようなあいつ」で俳優に転身。90年にカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した「死の棘」で、第14回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。ドラマ「相棒」シリーズ、「医龍」シリーズ、「ドクターX」シリーズ、映画「必死剣鳥刺し」「舞妓はレディ」「一度も撃ってません」など出演多数。映画「総理の夫」が9月23日全国公開。


>>【沢田研二は「どんなときでもプライドを貫く」 岸部一徳が語る人となり】へ続く

※週刊朝日  2021年10月1日号より抜粋


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  • あー今日は相棒じゃなくてドクターXだったぜ。大門未知子に包茎手術してもらいたい(^0^)
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