不安が募ると「夜」を呼んでしまう少女と、心優しい医師の物語

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2021年09月25日 15:11  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『夜の名前を呼んで』(三星たま/KADOKAWA)
『夜の名前を呼んで』(三星たま/KADOKAWA)

 不安な気持ちが強くなると、突然自分の周りにあるものが怖くなる。そういうとき、孤独はもちろん、周囲にいる人たちやその笑い声さえも凶器となり、恐怖や心の闇はどんどん深さを増していく。『夜の名前を呼んで』(三星たま/KADOKAWA)は、そんな心の中にある不安や恐怖が募ると、辺りを暗闇に染めてしまう少女の物語。

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 表紙には、暗闇=夜をイメージした背景に、強く輝きを放つ星のようなものを持った少女が浮かび上っている。また、表紙をめくるとまるで天の川のように黒くキラキラとした中表紙が現れる。ここだけでも本書の「夜」に対するこだわりや世界観が強く伝わってくる、印象的かつこだわりが詰まった一冊だ。

 主人公・ミラは、不安が募ると体から暗闇が溢れ出し、周囲のものを夜色に染めてしまう珍しい病を患っている女の子。自分の存在が周りを不幸にすると思っているミラは、人の多い場所に行くことも、1人で歩く道さえも怖く、殻に閉じこもって生きている。そんな中で、治療のために魔法医・レイとともに暮らすことになったミラ。彼女は度々夜を生み出しながらも、レイの優しさに触れて少しずつ病状を回復させていくが――。

 ミラは穏やかで少し抜けているレイに見守られ、夜型だった生活を朝方にしてみたり、一緒に「星ジャム」を作ったりしながら人と関わる楽しさ、喜びを覚えていく。そうして閉じこもっていた殻が破られることで、少しずつ自分自身とも向き合えるようになっていく。ただただ大嫌いだった自分を認めて光を取り戻していく様子を見ていると、人が誰しも持っている光と影は表裏一体で、どちらも大切なのだと改めて気づかされる。

 普段、社会に出て人と接していると、「影」の部分はどうしても隠さなければならないもの、消していかなければならないものと思ってしまいがちだ。しかし影は呪いでも悪でもない。人は影があるから優しくなれるし、相手を思いやることができる。ただ少しだけ制御できるようになればそれでいい。本書のそんな考え方にとても救われる。

 後半では、ミラの夜を生み出す病に興味を持ち、それを実験に利用しようとする男が現れる。人の多い場所には行けないと話すミラを強制的に人前に引きずり出し、彼女のトラウマを誘発し、回復の兆しを見せていた病を再び発動させてしまう。しかしその中で、ミラはある人物と対面し、自身について知ることになるのだった。

 この物語は、星をジャムにしたり夜を生み出す病や魔法があったりとファンタジー要素が強めだが、ミラの持つ不安定さは、多かれ少なかれ誰しも抱えているもの。自分に余裕がなければ、周囲を見渡すことも、人に優しくすることも難しい。疲れて心がすり減っているときや、不安に押しつぶされそうなときは、まずはこの『夜の名前を呼んで』を読んで、「影」を認めるところから始めてみるといいかもしれない。そうして自分を認めることができたなら、きっと今より少し優しい気持ちになれるはず。

文=月乃雫

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