負けヒロイン側のアラサーを描くと聞いたときは死ぬかと思った 『ハイスコアガールDASH』28歳教師・日高小春の輝き

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2021年09月25日 20:42  ねとらぼ

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写真9月25日発売の『ハイスコアガール DASH』2巻  (C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX
9月25日発売の『ハイスコアガール DASH』2巻  (C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX

 何度でも言う。人類はかつてから「女の子の二択」で苦しむ性質がある。ティファとエアリスとか。ビアンカとフローラとか。



【画像】孤独……やめて! つらい!! 泣いちゃう!!!(『ハイスコアガール DASH』1巻より)



 マンガ『ハイスコアガール』本編は、ゲームセンターを中心に大野晶と日高小春への恋愛で悩む少年・矢口春雄(ハルオ)を描いた作品だった。当時のファンは大野派と小春派に分かれ、連載が進むたびにもん絶していたものだ。



 ハルオは大野を選んだ。小春は壮絶な失恋をした。本編ではハルオへの恋心にさよならを言うかのような爽やかなシーンで幕を閉じた。ぼくは圧倒的小春派だったので、そりゃ大野さんにいくだろうよとうすうす分かりながらも応援していたが、諦めた小春のすがすがしい顔で涙して、全てを受け入れようとしたものだ。



 ところが続編のマンガ『ハイスコアガール DASH』の連載開始告知が出たとき、よもや小春が28歳になって誰とも付き合わないまま教師になるという内容だと明かされ、傷口に唐辛子を練り込むような新展開に驚き。負けヒロインをつるし上げる悪魔の所業! 押切蓮介は修羅か羅刹か! そういうの好き。



 スタート時しばらくは大人には世知辛すぎる、教師の泣くに泣けない厳しい仕事の日々が続く。ムードがリアルでどんより暗い。大人社会は理不尽だ。



 しかし1巻後半くらいになると、小春の力強さと迫力が一気に溢れ出す。かなり読み応えと心地よさあふれる「ゲーム」と「教育」と「魅力あふれる大人の女性」の物語に大化けする。実際にあるゲームと彼女の教員生活を、鬱屈を溜めに溜めて爆発させて一気にシンクロさせるんだから、本当に感服するしかない。今回は「アラサー女教師の魅力」と「内なるガーディアン・フォボス」の2つの見どころポイントについて書いていきたい。



 ちなみに『ハイスコアガール』本編を見ておくのは前提となっている作品ではあるが、読んでいなくても「日高小春は高校時代に振られたことがある」とだけ知っていればちゃんと楽しめる作品になっている。



●アラサー女教師属性



 現在は結構多くのマンガ作品に「20代後半で独身の女性教師キャラクター」がサブヒロイン的に存在する。年上お姉さんキャラとしてのビジュアルもいいし、人間味あふれる素の一面を見せてくれたら大人のかわいさが引き立つ。大人社会の苦くやりきれない話も見せてくれるし、時々頼れる存在としてのかっこよさに振り切ることもできる。20代後半独身というオプションがつくことで、ちょい苦な現実味と安定しきっていない迷いがより強く表現できる上に、学生にとって少し年齢の近い友人的存在にもなりうる。魅力が凝縮されている、大事なポジションだ。ただなかなかメインキャラにはなりづらい。



 今作の日高小春はそのような枠の、おいしい要素かつ苦い要素を、うまく包含しているキャラクターになっている。しかもメインキャラだ。



 日高小春が高校生のときに大失恋をしてから、10年近くたった28歳の春。彼女は自身に対してあまりにも無関心。仕事もマニュアル的、恋愛に興味ゼロ、家に帰ってもすることなしの無気力人間になっている。好きだったゲームもやっていない。



 もともと、中学生時代の彼女はこういう夢中になれない性格だったのを思い出す。中高生の恋愛中に燃え上がり、片思い相手の好きなゲームで勝てるようにと自分を鍛え、そこで格ゲーにハマっていたわけで、振られてからきっぱりやめてしまうのも無理はない(ここは間になにかあるっぽいですね)。また無趣味に戻って、淡々とこなす人間になっただけ。ただ大人になってからの無趣味は結構厳しい。



 「ただ卒なく…課題をこなして… ……そんな普通でいいのかな…私みたいな人間が…生徒を引っ張っていくことなんて可能なのかしら…」特に教育に情熱があったわけでもない彼女が教員をやるのは意外すぎて、かつてのクラスメイトですらも「想像できないな…」と語るほど。



 アンニュイな小春を通じて見える現実の理不尽な光景は、切なさ増幅でとてもヘビー。厄介なセクハラに苦しめられ、生徒に舐められ、校長にいびられ、それを黙々と卒なくこなそうとしてストレスがたまる一方。辛い。だからこそ読者視点だと、迷走する彼女がいとしく見え応援したくなる。だからこそだからこそ、心のわだかまりが後述する格闘ゲームで一気に弾けるシーンでは、まぶしい大人ならではの成長が見える。もう誰かの助けを必要とするまでもない圧倒感。このアップダウンがアラサー女教師である小春の最大の魅力かもしれない。



(C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX



●ガーディアン・フォボス



 前作『ハイスコアガール』では、メインキャラにそれぞれ魂のキャラが存在していた。ハルオはガイル(「ストリートファイター2」)。何が何でも勝つために向き合う、勝利への執念を表したキャラだ。大野晶はザンギエフ(「ストリートファイター2」)。みんなに弱いと虐げられ苦しみ続けていた当時のザンギエフの姿に、抑圧された生活を送っていた彼女の思いがシンクロし、耐えつつ粉砕するキャラとして表現された。



 そして高校生小春に芽生えたのはフォボス(「ヴァンパイアハンター」)だ。フォボスは複雑な操作を要求されるテクニカルキャラで、あの手この手と技術を駆使し、遠距離近距離問わず対応し戦うキャラクター。中でも「コンフュ―ジョナー」という技は、相手を浮かせることで有利を取り即死コンボをたたき込むことができる(とはいえ難しいです)。この技術を駆使しながら多角的に攻め、つかんだら一気に押し切るスタイルは彼女の恋愛での姿勢に完全にシンクロ。



 前作でハルオとの大切な試合に負けた後、手段ではなく心からゲームに夢中になったことで、フォボスが彼女の心に目覚めた演出はうまいなーと思ったものだが、今回10年を経てよみがったフォボスは「押す」ためのキャラクターではなくなった。この覚醒シーンがマンガらしい表現を駆使しどえらいかっこいいのでぜひ作品で見てほしい。「ヴァンパイア」シリーズで初めて登場したフォボスを見た人なら、当時の衝撃を思い出すであろう「圧」を感じる象徴的なシーンだ。



 「ヴァンパイアハンター」のフォボスは、古代マヤ人によって作られた究極の番人、ガーディアンという設定だ。超必殺技にも「ファイナルガーディアン」という技があるほど。



 今回彼女がスティックを握ったのは1巻のラスト。ゲーセンで自分の生徒が、他の人間に絡まれたときだ。どんな格ゲーでもいいから勝負をして、負けたら痛い目に遭わせると言われた生徒。それを見た小春に炎が宿り、心のフォボスが目を覚ます。



 今までコンフュを駆使した「攻めのフォボス」だった小春は、今回生徒を守るためのフォボス、ガーディアンになった。相手の攻撃をことごとくガードキャンセル(フォボスの場合は壁を前に出して押し返す特殊なもの)で弾き返す鬼の防御は、「私の生徒に指一本ふれさせない」という彼女の意思の表れたプレイスタイル。しかもここで彼女、自身の最大の強みであるコンフュからの即死コンボを使わないでたたきのめしている。相手の単発攻撃を全てガードキャンセルしまくって一切攻めさせず、心をボキボキに折るのはもう「指導」の領域。



 このフォボス戦の一連の「ガーディアン」として生徒を守るというネタ、前作『ハイスコアガール』執筆時から仕込んでいたのだとしたら、小春のキャラクターの作り込みにかなりゾクリとくる。



 加えて彼女の、ハルオや大野以上に修羅になる鬼のような憤怒の感情のシーンでは、豪鬼(『スーパーストリートファイター2』)が心に登場している。これもかつて彼女が、大野に意地でも勝ちたくて使っていたキャラクターだ。その試合自体は一瞬の心の揺らぎで大野が勝ったのだが、鬼の気持ちはしっかり根付いていたらしい。



 鬼攻めの豪鬼の怒りと、冷静な守りのフォボスがそろった小春。ゲームが人生を変えるのは子どもだけじゃない、大人もだと証明してくれる熱すぎるシーン。ただ変えたのが「生徒のため」だったのが、今回の作品らしいところだ。男子中高生キラー感のあった前作の恋愛女子小春像とは別の、大人の女性としての魅力がさく裂する。



●教師日高小春の輝き



 実は途中、小春がゲームに関して後悔するほどに距離を置いてしまう瞬間が描かれている。生徒が学校に持ってきたPSPを見て、彼女は「こんなもの」と言ってしまうのだ。子どもが一番嫌悪する、好きなものの価値をさげすむ簡単で残酷な言葉! ゲームが中高生のころ大好きだった小春、こんなこと絶対言いたくなかったはずだ。「こんなものって…言っちゃう人間になったんだなぁ」。



 本当にそう思っていないのが分かるがゆえに、大人が読むと息苦しくなるようなシーン。でもその後の対応で、きちんと生徒にPSPを返しに行くシーンがとてもいい。父親を見てやばさを本能で判断し、大事な宝であろうPSPをそこでは渡さず、ちゃんと本人を探して手渡している。ここはゲームを愛した人だから分かる勘だ。



 学校ではトラブルを起こしがちで、どうやら家庭に問題がありそうで、そしてPSPでこっそりゲームをし続けている片桐美和。おとなしくいじめられやすい体質だが、芯は通っていて、ゲームセンターで才能を開花する山井真治。普段は欠席気味、学校にくるとフリーダムでなにをしでかすか分からない星奈未来など、放っておくわけにはいかない生徒が続出。1巻では小春はまだ覚醒しておらずぼんやりしているので、まともな会話はできていない。ただフォボスと豪鬼が心によみがった彼女は、恋をしていた中高生のときよりはるかに強くなっているはず。



 もう二度と負けヒロインとは言わせない、という強烈なオーラを感じる『ハイスコアガール DASH』。



 9月25日に発売された2巻では、さらに小春の情熱とかつてから持っていた「鬼」の部分が、今度は生徒たちに向けて発揮されはじめていてテンションが上がる。とあるシーンでのやらかしは、多分ハルオや大野でもできないくらい激しい。加えて彼女は、1巻では自分がガーディアンとして戦ったけど、2巻では自分が戦わず、次世代の子供自身に引き継がせる選択を取っているのも注目してほしいポイント。暴走しがちだけど、理性も育ったステキな女になっている。それでいて中高生時代からのように、勢いで言い出したもののどうすればいいか分からず戸惑っちゃう部分は変わっていないのが、人としてとてもキュート。主人公としての物語的な感情振り幅の充実度合いが前作よりすごい。



 「大丈夫…春麗(チュンリー)だって、まだ30代だもん――。」という胃が痛くなるような初期の公式キャッチコピーはブルースすぎて強烈だったが、現在「この教師、妙齢のコンフュ―ジョナー」という勝ち確が見える力強いキャッチコピーが追加された。イケてるぜ小春。「婚期」という社会の決めた嫌らしい言葉なんてぶっとばせ。



(C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX



【ライター:たまごまご】



道民ライター。マンガ・アニメ・VTuber・サブカルチャー中心に活動中。「MoguraVR」「クイックジャパンウェブ」「コミスペ!」「PASH!」「コンプティーク」などで執筆中。萌え系学習書を数冊出してます。好きなマンガは女の子が殴り合うやつ。Twitter:https://twitter.com/tamagomago ブログ:https://makaronisan.hatenablog.com/


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  • 「押切蓮介は修羅か羅刹か! そういうの好き。」→(笑)
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