『キングダム』は史実を知らなくても面白い 未読の人に伝えたい「とりあえず5巻まで!」

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2021年09月26日 09:01  リアルサウンド

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『キングダム』は史実を知らなくても面白い

 山田風太郎の『甲賀忍法帖』を、せがわまさきがコミカライズした『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』がヒットしてから、横文字タイトルの歴史・時代漫画が増加した。今ではあまりにも多く、いささか食傷気味である。だが中には、内容とマッチした素晴らしいタイトルも存在する。一例を挙げれば、原泰久の『キングダム』だ。


 秦王の嬴政(後の始皇帝)の中華統一を題材としたこの物語に、キングダムほど相応しいタイトルはない。などと書くと嬴政が主人公のようだが、彼は準主役。主人公は嬴政の覇業を助けた信(後の李信)である。


 『キングダム』の人気については、あらためて述べる必要もないだろう。2006年から「週刊ヤングジャンプ」で始まった連載は、現在も継続中。既刊62巻。2019年には実写映画が公開された。また、テレビアニメもNHK総合で、第3シーズンが放送中である。こうしたメディアミックスにより、幅広い層に知られているのだ。


 しかし興味を覚えながら、なかなか作品に取りかかれない人もいるのではないか。理由はふたつ、考えられる。ひとつは巻数。すでに62巻まで行っており、これからどれほど増えていくのか分からない。ただ読むだけで、かなりの時間を費やすことになるはずだ。だが、それで躊躇してはもったいない。とりあえず5巻、5巻まで読んでほしい。ストーリーの面白さに魅了され、続く巻も読むことになるはずだ。


 さて、もうひとつの躊躇する理由が、扱っている時代である。古代中国の春秋時代末期といって、どれだけの人が知っているのか。俗に中国4000年といわれるが、日本で突出して人気があるのは「三国志」の時代。次いで「水滸伝」の時代。それ以外の時代に関しては、ガクッと興味を抱く人が減っている。始皇帝は有名人だが、注目されるのは中華統一後の事跡だ。ある程度の歴史の知識がなければ、中華統一の過程を楽しめないと思われてもおかしくない。


 でも、そういう人に訴えたいのだ。春秋時代末期の歴史など知らなくても、まったく問題ないと。異世界を舞台にしたファンタジー戦記のことを考えてみてほしい。事前に物語世界の歴史を知らないからと、読むことを躊躇することはないだろう。実在の歴史を題材とした物語も、これと同じことである。分からない史実は、とりあえず無視して、主人公の信と仲間たちの活躍や、激しい戦争描写を堪能すればいいのである。


 人物に関しても、実在か架空か、気にする必要はない。秦に協力する楊端和や、信の仲間になる羌廆は実在人物だが、経歴に不明な点が多い。作者はそれを利用して、ふたりを女性にしているのだ。しかも楊端和は山の民の王、羌廆は伝説の暗殺者の一族の出である。作者は歴史上の人物を、自由奔放に弄っているのだ。


 これは信にもいえる。彼もまた、経歴不明な点が多い。そこを逆手に取って、作者は信を奴隷同然の出自とした。共に天下の大将軍を夢見ていた親友の漂が、秦の権力闘争に巻き込まれ死亡。これが縁になり、命を狙われる嬴政と知り合い、仲間になる河了貂とも出会う。逃亡した嬴政が玉座に戻るまでの展開はアクションの連続であり、それだけで面白い漫画を読んだという満足感を覚える。


 しかしストーリーは、ここからが本番。秦軍の一兵卒となった信が、相次ぐ戦で死闘を繰り広げながら、飛信隊を率いるようになり、大将軍目指して出世していくのだ。しだいに集まる飛信隊の仲間たちとの絆。偉大なる先達たちの教え。同年代のライバルたちとの切磋琢磨。何巻もかけて戦の全貌を描きながら、その渦中にある個人の戦いと想いも、余すところなく活写する。いったい何度、血を滾らせればいいのかと思うほど、物語のテンションは高い。


 その一方で、秦の権力闘争も、ガッチリ取り上げられている。特に、秦王の座を目指す嬴政と、一介の商人から秦の相国になった呂不韋の権力闘争は長く激しく、決着するのはなんと40巻である。必要なエピソードをじっくりと積み重ねているので、史実を知らなくてもページを捲る手が止まらなくなるのだ。


 もちろん知識があったほうが、より深く作品を味わえる。戦乱の時代に人物が澎湃と現れるのは、洋の東西を問わないようだ。とにかく後から後から、魅力的な実在人物が登場する。なるほど、この人物をこう描くのかと感心したり驚いたりできるのは、知識があればこそである(個人的には、龐煖のキャラクターに仰天した)。


 だから、春秋時代末期の知識がない人は、最低でも2度、『キングダム』が楽しめるのだ。一度は何も知らない、真っ新な状態でストーリーを追う。そして史実や人物に興味を覚えたなら調べ、知識を蓄えた状態で2度目のストーリーを体験できる。ここまできたら、以後も、繰り返し読む人が続出することだろう。それほどに本作は面白い。何度でも再読できる、歴史漫画の爛ングダム瓩、ここにあるのだ。


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  • 古代中国史は好きなんだけど、絵が受け付けない……。
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