渋沢栄一が説いた「ただ王道あるのみ」 新総理誕生前に意味を考えた

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2021年09月26日 17:00  AERA dot.

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写真481社の創業にたずさわったという渋沢栄一(渋沢栄一記念館提供)
481社の創業にたずさわったという渋沢栄一(渋沢栄一記念館提供)
 NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公で「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一。渋沢家五代目の渋沢健氏が衝撃を受けたご先祖様の言葉、代々伝わる家訓を綴ります。


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【写真】自民党総裁選で最後に勝つのは誰か?
 自民党総裁選が注目を集めています。野党は不満を漏らしていますが、日本の次期総理大臣を実施上、決める流れになるでしょう。4人の候補の内、二人が女性であるということは新しい時代の到来に目を引きます。そして、今回は派閥の縛りも過去と比べると影響が少ないという声も上がっています。


 ただ、今までの自民党内部の力学(数)の方式で決まるのか。それとも、多くの国民の意向を反映する様に決まるのか。自民党が変わっているという兆しが見えてくるのか、それとも、今までのあり方をやり通すのか。これが、今回の自民党総裁選の見どころです。


 いずれにしても、現在の世の中の情勢は有事です。次期自民党総裁、日本総理大臣は王道を行く人物が選ばれることを痛切に願っています。


 渋沢栄一は『論語と算盤』で「ただ王道あるのみ」と提唱しています。


「もしそれ富豪も貧民も王道をもって立ち、王道はすなわち人間行為の定規であるという  考をもって世に処すならば、百の法文、千の規則あるよりも遥かに勝った事と思う。」


「定規」とは線を描くときに用いる道具でありますが、要は真っすぐ進む規範という意味でもありましょう。渋沢栄一は、法律や規則は万能薬ではないと指摘しています。人間が真っすぐ進む王道が大事である、と。


 もちろん、栄一は完全な自由主義の無法地帯を呼びかけている訳ではありません。現在でも、社会秩序が目まぐるしく変化する昨今において法制が欠落しているという意見があります。健全たる社会には法制が不可欠な設備であることを確かです。


 ただ、栄一が懸念していたことは、法律や規則の存在によって人々が思考停止になることではないでしょうか。


 「余の希望を述ぶれば、法の制定はもとよりよいが、法が制定されておるからと云って、一も二もなくそれに裁断を仰ぐということは、なるべくせぬようにしたい。」


 したがって、社会における問題を法律や規制だけで解決することに渋沢栄一は疑問を抱いていました。


「社会問題とか労働問題等のごときは、たんに法律の力ばかりをもって解決されるものではない。」


 現在、所得格差が大きな社会問題になっています。ただ、栄一の時代の貧富の格差は現在と比べにならないほど顕著でした。また、今のように働き手が年金などを通じて会社の株主になれることもなく、資本家階級と労働者階級を分ける線がはっきりと引かれていました。そのような時代である1896年に、渋沢栄一は「工場法」の施行に反対を示しています。その理由は外国の法律の丸写しは、当時の日本社会に弊害もあり得ることの懸念でした。


「かの資本家と労働者の間は、従来家族的の関係をもって成立し来ったものであったが、  にわかに法を制定してこれのみをもって取締ろうとするようにしたのは、一応もっともなる思い立ちではあろうけれども、これが実施の結果、はたして当局の理想通りに行くであろうか。」


 幼い女子の過労な労働を阻止すること等を目的としている法律でしたが、当時の日本社会の経済状況では、職を失うことで生活が更に困窮に陥る現状もあったのです。およそ20年後の1919年になると日本の経済社会の状況も向上し、栄一は労使関係の融和を目指す団体「調和会」を設立しています。


「資本家は王道をもって労働者に対し、労働者もまた王道をもって資本家に対し、その関係しつつある事業の利害得失はすなわち両者に共通なるゆえんを悟り、相互に同情をもって始終するの心掛ありてこそ、始めて真の調和を得らるるのである。」


 勝ち負けという「か」に留まることなく、Win−Winが生じる「と」を常に目指していたのが渋沢栄一の思想の源です。栄一が描いていた新しい時代とは、みんなが豊かになる社会、今風にいえば、インクルーシブな社会です。


 ただ、栄一が描いていたインクルージョンとは、みんなが同じになる「結果平等」ではありませんでした。


「もちろん国民の全部がことごとく富豪になることは望ましいことではあるが、人に賢不肖の別、能不能の差があって、誰も彼も一様に富まんとするがごときは望むべからざるところ。したがって富の分配平均などとは思いも寄らぬ空想である。」


 才能、能力、そして努力を度外に富を分配する社会設計に渋沢栄一は明らかに反対でした。


 ただ、500社ぐらいの会社のみならず、渋沢栄一が設立・運営に関与した教育機関、病院、社会福祉施設、今でいうNPO・NGOという社会的事業は600件と云われています。ここから明らかなのは、渋沢栄一が目指していた日本の新しい時代の豊かな社会では、どのような生まれの立場であっても、仮に社会の「弱者」と云われるようでも、自分が与えられている才能、能力、可能性をフルに活かせて参画できる、「機会平等」というインクルーシブな社会でした。


 ただ、このように機会平等・能力主義性について述べると、それは「勝者側の視点の話」と吐き捨てる意見が少なくありません。そして、現在の多くの若手が昭和時代に築いた「成長」という成功体験に疑念を抱いていることも確かです。


 次期自民党総裁、日本の総理大臣は、日本の新しい時代の成功体験を導く責務を背負います。その新しい時代の成功体験に必要なのは、富の分配型社会を促す法制なのか、それとも、新陳代謝を高める構造改革なのか。いずれにしても、不可欠なのは王道であることに間違いありません。


(渋沢健)


しぶさわ・けん シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。近著は「SDGs投資」(朝日新聞出版)


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  • マルクスの「能力に応じて生産し、必要に応じて配分する」は人間が神にでもならなければ無理。「市場原理・一物一価」M・ウェーバー競争原理と協調原理が資本主義の根幹に必要。日本に有・無?
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  • #かまどの煙は上がっているかhttps://twitter.com/KKIOtpxqoKpYHUb/status/1441165842394148871 総裁選に浮かれる裏で…  https://twitter.com/tanakaryusaku/status/1440970225218772997
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