森口将之のカーデザイン解体新書 第46回 あくまで機能重視? 新型「ランドクルーザー」のデザイン

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2021年09月27日 11:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車の新型「ランドクルーザー」が人気だ。「どこへでも行き、生きて帰って来られる」というメッセージに象徴される絶大な信頼性と耐久性が、世界的に支持を集めているのだろう。あらゆる造形に機能の裏付けがある最強SUVのデザインを詳しく見ていこう。


○フロントマスクの秘密



まずは顔つきだ。先代のバンパーがマイナーチェンジ前までほぼ一直線だったのに対し、新型はU字型とし、グリルとバンパーとの間にインテークを設けた。存在感の強さは圧倒的だ。


押し出しの強さのみでこの造形を選んでいるわけではない。バンパーには障害物をいなす造形を取り入れるなど、ランクルらしくオフロード走行も重視した形なのだ。エンジンフード中央を凹ませたことも特徴といえる。先代にはなかったこの処理は、衝突安全性能を高めるとともに、前方視界を良好にするためのものだ。


ボディサイドでは台形に張り出した前後のフェンダーが目立つ。過去2世代は「ブリスターフェンダー」で乗用車っぽさをアピールしていたが、本物志向のSUVを望むユーザーが増えてきたこともあって、たくましさを前面に押し出したのかもしれない。そういえば、サイドウインドー後端も長方形から台形になった。


ボディサイズに大きな変化はない。前輪が乗り越えられる角度を示す「アプローチアングル」、床下が乗り越えられる角度を表す「デパーチャーアングル」、リアエンドがクリアできる角度である「ランプブレークアングル」といった対地障害角を確保すると、似たようなフォルムに落ち着くのだろう。ただしプロポーションは、キャビンが先代よりやや後方に寄せられた。ヘリテージ性を追求する意味で「50系」の雰囲気を継承したそうだ。


リアについてはコンビランプが横長のスリムな形状になった。先代モデルではナンバープレート上にあったクロームメッキのバーが消えていることにも気づく。 よく目立つフロントとは対照的に、こちらは今風のスムーズな処理だ。

○ついに「ランクル」にも「GR」が!

スタイリングでもっとも驚いたのは、「GRスポーツ」(GR SPORT)の設定だ。GRはオンロードのスポーツブランドだと思い込んでいたので意外だったが、「TOYOTA GAZOO Racing」がダカールラリーに参戦していることからラインアップに加えたのだろう。


「TOYOTA」のロゴを大きく掲げたブラックのメッシュグリルは精悍そのもの。ドアハンドルやホイールもブラック仕上げとするなど手が込んでいる。ちなみに、こちらの顔つきも迫力重視というわけではなく、バンパーはオフロード走行時に破損しにくい形状となっている。


インテリアも機能を重視した仕立てだ。車両姿勢を把握しやすい水平基調のインパネと、豊富な快適装備を備えた幅広いセンターコンソールの組み合わせは先代譲り。メーターパネルは中央にマルチインフォメーションディスプレイを備えつつ、速度計とエンジン回転計はアナログ式として残している。


センターパネルは12.3インチものタッチディスプレイが目立つが、すべてのスイッチをタッチ式とせず、扱いやすい形状を残したうえで機能ごとに分けてレイアウトした。過酷な悪路を走行中でも確実に操作できることを狙ったという思想が伝わってくる。


キャビンは2列シート5人乗りと3列シート7人乗りを用意。前席は先代より後方に移動したそうだが、2〜3列目の構造や配置を見直し、居住性や荷室容量はむしろ向上させたとのことだ。


メカニズムでは、ボディと別体のラダーフレームを受け継ぎつつ、TNGAの考えに基づく新開発プラットフォームを採用。エンジンはガソリン/ディーゼルともにV型6気筒ターボになり、ATは6速から10速へと一挙に多段化した。時代に合わせたアップデートが目立つ。


ランクルはやっぱり、機能で売り機能で買うSUVなので、これまでのモデルチェンジではメカニズムが話題の中心となり、デザインに注目が集まることはあまりなかった。それだけに、新型のGRスポーツは新鮮だ。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)
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