稲垣えみ子「もはやスマートな戦争 SNS運営企業に人生を差し出していた私」

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2021年09月27日 17:00  AERA dot.

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写真元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
 元朝日新聞記者でアフロヘア−がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。デジタル庁発足に逆行するかのように脱デジタル化を決意した稲垣さん。今回はスマホとの付き合い方についての考察・第3弾をお届けします。


【写真】立ち寄ったカフェに季節メニューの貼り紙!
*  *  *


 話題の『スマホ脳』を読んで何がショックだったって、我が貴重な時間とエネルギーがコッソリ誰かに抜き取られていたという事実である。


 スマホとはうまく付き合っているつもりだった。特にSNS。遠く離れた友人の近況や、オモロイ活動をしている人の現況報告を読むと、私も頑張ろうとか、なるほどその手があったかとか刺激を受けるし、もちろん私の活動に「いいね!」と言って頂けるのも嬉(うれ)しい。しかもタダ。もちろんこれは広告ビジネスってことは頭では理解していたが、そもそもモノを買わない人間なので広告をクリックすることもない。ゆえに実害なしと判断していた。


 いやいや甘かった!


 SNSを運営する企業の目的は、我らの交流や友愛の増進ではない。個人情報を吸い上げて高く広告主に売ること。つまりは我らを1分1秒でも長くスマホに惹(ひ)きつけることこそが富の源泉なのだ。ゆえに脳科学者を雇って我らの脳が本能的に喜ぶアプリを開発しているという著者の指摘に唸(うな)る。確かに赤いマークがついたり、ポンと音が聞こえたりするたびに喜々として画面を開いていた私。どこぞの誰かに時間すなわち人生を狙われて、まんまと差し出していた私。


 と思ってふと電車の乗客を見ると、ほぼ全員がスマホを見ている。作戦は着々と進行中。我らはお金を取られることにはビンカンだが、時間を取られることには案外無頓着なのだ。本当は逆なんじゃ? 時間はお金じゃ買えない。なぜって時間とは人生なのだから。


 私はすっかり恐ろしくなってしまった。




 世界中の人がコロナに人生を奪われることに怯(おび)えている。でも実は深く静かに、それと気づかぬまま、多くの人が別のものに人生を差し出している。コロナとの闘いを戦争に例える人がいるが、別の本当に恐ろしい戦争はとっくに始まっていたのかもしれない。宣戦布告もなく、目に見えて誰かを傷つけることもなく、静かに我らの脳を個別に狙い撃ちするスマートな戦争が。


稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

※AERA 2021年9月27日号


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