漫画ならではの空白の描き方に注目。SF青春漫画『ブランクスペース』

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2021年09月28日 20:41  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『ブランクスペース』(熊倉献/ヒーローズ)
『ブランクスペース』(熊倉献/ヒーローズ)

 2021年9月15日に熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)の最新2巻が発売された。本作は、Twitterのマンガ読みの中でも「とんでもないものが生まれつつある」「早く次が読みたい」などと話題になっているSFガール・ミーツ・ガール作品である。

 ある雨の日、高校生の狛江ショーコは、見えない透明な傘を差すクラスメイトの片桐スイに遭遇する。なんとスイは、想像したものを現実に作ることができるエスパーだった。ただし、それはスイ以外の人間には見えないもので、手で触れることはできるが完全に透明なのだ。その日から2人の距離は縮まっていく。スイの能力でトースターを作ったり見えない踏み台を作って空中浮遊ごっこをしたりして楽しく過ごしていた。しかし、学年が上がり2人は別々のクラスに。楽しかった日々は一変し、スイは新しいクラスでつらい目にあってしまう。スイの作るものもナイフや銃などと少しずつ不穏に……。スイの異変に気づいたショーコはスイに「スイの彼氏を作って」と頼む。そうして、スイは「人体を生成」することに……。素直でまっすぐなショーコはスイを救うことができるのか。

 コミックス最新2巻では、空白の彼氏が描かれる他、1巻にも登場した『わが空白』という本を巡る群像劇が描かれる。

「空白」をテーマにする難しさ

 本作のタイトルを直訳すれば「空白」。作中では重要な役割を果たす「空白」だが、ここでひとつ問題。「傘を描かずに、傘を絵で表現してください。制限時間は1分間」。……できただろうか?

 空白で何かを表現するためには、例えばその形をくり抜くように周りに何かを描くのが簡単。点線を書いて表現した人もいたのでは? 目に見えないけれど、そこに確かに存在するモノ。そのモノを描くために、本作では外側を描いて空白を浮かび上がらせたりはしない。

ブランクスペース

 作中に、ショーコがスイの不思議な能力について語るセリフがある。

何もないのに…空白なのに でも…あるんだ
クッキーのくり抜いた生地の方とかドーナツの穴みたい…

 本作ではスイの想像力と読者の想像力によって、空白であるはずの何かが形を持つ。

ブランクスペース

現実と想像との接触面によって空白を描く

 本作での空白の描き方は、本当に多様だ。例えば、ショーコとスイが最初に出会った時に登場した透明な傘は、雨を弾く様子だけで表現される。次に、スイがイライラした時や緊張した時に自然とできてしまう風船。これを表現するのは、風船を割る音。透明なトースターは、パンだけが時間経過とともに焼けていく様子で描かれる。空白の中に存在するモノが、バリエーション豊かに、リアルに描かれていく。

 空白と現実との接触面だけを抽出して描く様子はタンジブルという概念に通ずるところがある。タンジブルとはヒューマンインターフェース・インタラクション(HCI)分野で使われる用語で、「触れて感知できる実体がある」ことを指す。例えば、画面を指で触って操作できるスマホやペンタブレットなどはタンジブル。アナログとデジタルをつなぐ架け橋として製品に落とし込まれている。

 想像力とリアルな空白との接続を果たすスイの能力はタンジブルそのものであり、触ること、存在することへの意思が感じられる。

もっとシンプルな 触り心地のある暴力ーー

ブランクスペース

ブランクスペース

ブランクスペース

 これはスイが武器づくりに夢中になっている時のセリフである。スイは常に触り心地を求める。それは武器づくりだけでなく、「人体生成」を行う時も同様だ。

ブランクスペース

 描かずに描いて、読者の想像力を刺激する。だんだんと不穏な展開を見せていく本作から目が離せない。

©︎熊倉献/ヒーローズ

文=村治けい


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