「任命拒否」が示した傲慢「学問の多様性を尊重せよ」 日本学術会議前会長が苦言

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2021年09月29日 08:00  AERA dot.

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写真山極壽一(やまぎわ・じゅいち)/ゴリラ研究の世界的権威。京都大学総長、日本学術会議会長などを歴任した後、現在は総合地球環境学研究所所長 (c)朝日新聞社
山極壽一(やまぎわ・じゅいち)/ゴリラ研究の世界的権威。京都大学総長、日本学術会議会長などを歴任した後、現在は総合地球環境学研究所所長 (c)朝日新聞社
 菅首相は昨年9月、日本学術会議が推薦した会員候補を任命拒否という異例の判断を下した。その問題点とは何か、新しい総裁に何を求めるのか。AERA 2021年10月4日号で、霊長類学者の山極壽一氏が語った。


【写真】出陣式で笑顔を見せる高市氏
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 昨年9月、菅義偉総理は、私が当時会長だった日本学術会議が推薦した6人の会員候補に対し、任命を拒否しました。このことこそ、いまの政治の課題を象徴的に示しています。


 最大の問題は、拒否するにあたり「理由を言わなかった」こと。多くの場面で「説明しない」という、安倍晋三前総理から菅さんに引き継がれた手法は、もはや民主主義ではなく全体主義です。民主主義とはその判断について理由を説明し、すべての人を納得させる合意形成の場を作り、結論を導き出すこと。それを無視し、選挙で選ばれたのだから何をやってもいいとする傲慢(ごうまん)さは、目に余ります。


 一方で、「理由をはっきり言わずに、人を切る」ことから生まれているのが「忖度政治」でしょう。権威の顔色をうかがう傾向が強くなり、各派閥もその頂点である総裁や次の総裁候補に忖度し、すべてが決まっていく。これでは全体主義国家への道を着実に進んでしまいます。


 また、時の政権や時代の風潮に物申す「批判精神」が不可欠な人文・社会科学系の6人が排除されたことからは、「学問の軽視、科学の軽視」という政権の姿勢も見えてきます。


 学問とは、本来、「いまの政治」に関係なく、未来を見つめ人間の幸福を考える作業です。大切なのは多様性であり、それが確保されていればこそ、新しいことが生まれてくる。多様性の重要さを理解できていないことは、政治の硬直化も招いています。政治はむしろ多様性を自ら求め、意見を自由に言えるような雰囲気を、学問の世界にも社会にも作らないといけません。


 そもそも、日本という国のいちばんの「強み」は何か。「科学技術、学問、教育」です。明治以降、日本の政治の最も悪いところは、たとえば軍備の増強など、世界の先進国の後追いをするばかりで、自らの「本当の強み」を生かして世界の先端に立とうとしないことだと思います。




 私は安倍さんが「アフリカ開発会議(TICAD)」を実現させた外交手腕は、評価しています。諸国の政策には口を出さず、科学技術や人材育成を移転し、日本への評価を大きく上げました。日本はこうした「教育」や「科学技術の人材育成」の蓄積を国の強みとしてもっと前面に出し、世界と渡り合うべきです。


 ところが、2004年の国立大学法人化以来の流れとして、その予算は削減され、日本の学問は疲弊する一方です。日本の大学の研究力は、今では世界で引用される論文の数で世界10位に後退しました。政策が間違っていたことは明らかなのに、いまだに政府は間違いを認めず、大学にその失敗を押し付けようとしています。


 新しい総裁には、もっと学問を信頼し、「学問の多様性」を確保する政策をとっていくことを強く求めたい。加えて、たとえば高度成長期の夢を引きずり続け、低成長時代に見合った経済政策ができていない点など、過去の政権の過ちはきちんと指摘して反省し、説明責任を果たしつつ正すこと。そして、「新しいことを始める」という強い気概を示すこと。前の政権をヨイショするような候補は、その時点でダメです。


(構成/編集部・小長光哲郎)

※AERA 2021年9月4日号


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  • 指摘の通りだが、間違いなく岸田政権は安倍菅の流れを継ぎ反知性国家として日本を貶めるだろう。日本の論文総数が世界主要国の中でも減少し続けている現実を見れば間違いない。
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