「Yahoo!への抗議」も辞さない、デジタルでも勝つ『週刊文春』貫くスクープ主義と稼ぎ方

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2021年10月14日 08:40  ORICON NEWS

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写真『週刊文春』前編集長の新谷学氏 、現在は『文藝春秋』編集長 (C)oricon ME inc.
『週刊文春』前編集長の新谷学氏 、現在は『文藝春秋』編集長 (C)oricon ME inc.
 『文春オンライン』が8月、初めての6億PV超えを達成した。端的に言えば、同サイトの記事が6億ページ読まれたということになる。このほか、今年3月には『週刊文春電子版』も開設。先日、『週刊文春』が電車の中吊り広告を廃止したというニュースが話題になったが、同誌はデジタルへの移行に成功し、なおかつ収益面でも堅調だという。コロナ禍で多くの出版社が苦戦する中、なぜ『週刊文春』は“強い”のか。前『週刊文春』編集長で、現在は、『文藝春秋』編集長の新谷学氏に「文春ブランド」の強さの秘訣を聞いた。

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■「NHKに受信料を払うくらいなら、文春に払う」、デジタル化成功の裏に読者の声

 昨今、しきりと「DX=デジタルへのシフト」という言葉が言われている。現在はネット上でニュースも読めれば、銀行取引も行える。さらにスマートフォンという形で小型化され、すべては指先ひとつで行うことが当たり前となった。「この流れに抗うという選択肢はあり得ません。自分の欲しい情報をスマホで、リアルタイムに受け取れる時代において、週刊誌や月刊誌よりも、より早くて便利でリーズナブルな方向にユーザーが流れていくというのは当然です」(新谷学氏/以下同)

 そんな影響をもろに受けて、さまざまな老舗雑誌が休刊。書店の数もコンビニの雑誌売場の面積も、縮小の一途をたどる。逆境といえる状況の中で、『週刊文春』はどう動いたのか。

 「このままでは、取材経費も記者の数も減っていくしかないですが、紙の雑誌と心中することも、紙の雑誌から撤退することも毛頭考えていません。大事なのは、デジタル化したからといって、“対価をいただく”という道は放棄しないし、『お金を払ってでも読みたい』と思わせる価値は失ってはいけないということです。だからこそ、『週刊文春』のスクープ主義をしっかり貫きながら、他の収益構造を考える必要がありました」。

 その“価値”とは、バイアスも忖度もない“ファクト”=真実の力だと新谷氏は語る。「文春ならば信頼できる」「文春はチェックしておきたい」とユーザーに思ってもらうことで、スマホの中にあるさまざまな情報の中から選んでもらう。これが「文春」のブランディングだ。

 「ネットで記事を出すと紙(雑誌)が食われるといいますが、その議論はとうの昔に終わっています。『週刊文春』は木曜発売なので、前日の夕方4時に目玉記事のダイジェストを『文春オンライン』で掲載。その先はYahoo!やLINE上で、記事単位で購入して読めますよという導線を引く。1本の記事で、まず速報でPVを稼ぎ、記事のバラ売りで直接課金をしてもらう。トータルで読みたい方にはサブスクの『電子版』に誘導と、ワンソース・マルチユースでマネタイズしていく。もちろん、『お金を払ってでも読みたい』と思ってもらうためには、菅前総理の長男のスクープなど、社会的意義の高い内容を報道し、媒体としての価値を上げることも大切です。これらの取り組みが功を奏したのか、大変ありがたいことに、最近では『NHKに受信料を払うくらいなら、文春に払って取材費にしてもらいたい』といった応援の書き込みが増えました」。

 速報は『文春オンライン』のみならず、ニュース記事としてYahoo!など各社に配信されている。より多くの読者に読まれるためには、これら巨大プラットフォームの中の「TOP」と呼ばれるメインページに選ばれ、掲出されることが有効である。

 「Yahoo!からたまたま選ばれるのではなく、自信を持って選んでもらえる記事を書かなければならないと思っています。そのためには、ニュースサイトというプラットフォームから主導権を取り戻すことも必要。例えば、『文春』が第一報を出したのに、ORICON NEWSの第二報がYahoo! TOPに上がっていたら、Yahoo!に『なぜウチじゃないんだ!』と抗議します。社会的意義のある記事にも関わらずTOPに上がらない場合も、『合理的な説明をしてほしい』と伝える。大事なのは、プラットフォームにもうちのコンテンツの価値をしっかりと理解してもらうことです」。

 これまで、プラットフォームとコンテンツメーカーの間には、“不平等条約”が結ばれていたと新谷氏は明かす。選ぶ側は、選ばれる側より上になる。そこに『文春』が一石を投じた。

 「どっちが上ということではなく、対等な関係にしたいのです。その上で、『文春の記事はいらない』と言えないようなコンテンツの強さを、社会的な意義を、しっかりと相手に伝えていく。我々のスクープの“本当の価値”をわかってもらう努力をしてきました」。

 しかしながら、スクープ主義はときとして下世話な方へと傾きがちだ。芸能人の不倫、スキャンダルの記事はよく読まれるし、稼げる。だが、そこに特化しすぎると『文春』ブランドの価値が下がる。「芸能人の不倫専門誌ですか?」と言われかねない。

 「“ブランド価値を磨くこと”と“稼ぐこと”は、必ずしも両立しないわけではないと考えます。報道の世界では、以前は、『意義のある良い記事を出すことこそが我々の社会的役割だ』として、稼ぐことを下に見る風潮が強かった。ですが、デジタルが主戦場となった現在ではそうも言っていられない。稼ぐことに消極的では、新聞もテレビも出版社も生き残っていけない。まさに渋沢栄一の『論語と算盤』の精神です。ジャーナリズムと稼げる記事、この2つをいかにバランスよく回していくかが大事です」。

 新谷氏によれば、スクープには4種類あるという。売れるスクープと売れないスクープ。社会的に意義のあるスクープと意義のないスクープだ。

 「難しいのは、『売れるけど意義はない』という記事と、『意義はないかも知れないが売れる』という記事、このどちらを取るか、どちらの見出しを大きくするか。これは世の中の風向きを見て行うセンシティブな判断となるため、AIやマニュアルではできません。もちろん政治家の記事でも芸能人の記事でも、『文春』としての譲れない“一線”は、常に守っています」。

■ポリコレ、コンプラ…そんな日本のど真ん中で「本音を叫ぶ」

 このように、現在の潮流を見極め、デジタル化を成功させた『文春』。だが、ネット媒体も増え、フェイクニュースなども問題視されている昨今。SNSで誰でも発信できるようになって来たことから、より“情報の信頼性”が問われるようにもなった。ネットニュースのひとつである『文春オンライン』が、そうした記事と一緒くたに見られてしまう懸念はないのだろうか。

 「主戦場がネットになれば、玉石混交になるのは仕方がない。読者の皆さんのメディアリテラシーも、問われる時代になったと思います。一方でメディアにとっては、信頼こそが生命線です。そしてそのためには、開かれた存在でないといけない。『文春』は特定の権力、組織の代弁者になることはありません。また自らの記事が問題になったり、炎上しても、すぐに記事を取り下げたり、謝罪するのではなく、記事掲載に至るプロセスを読者にきちんと説明します。そうした姿勢こそが信頼につながると信じています」。

 そんな新谷氏の信念は現在、編集長を務める『文藝春秋』にも反映されている。

 「ポリィティカルコレクトが重んじられ、コンプライアンス至上主義が幅をきかせる世の中において、私が目指しているのは、日本のど真ん中で本音を叫ぶ雑誌です。もちろん炎上上等と開き直るのではなく、今こそ、作家や学者やジャーナリストといった、言葉のプロフェッショナルたちが、研ぎ澄まされ、磨き抜かれた言葉の力で、正々堂々と本音を伝えていくべきだと考えています。例えば、大河ドラマの影響で渋沢栄一が話題になりましたが、『文藝春秋』では大河では触れないであろうお妾さんの存在に焦点を当てた鹿島茂さんの原稿を掲載しました。彼女たちの存在が陰ながら渋沢の偉業を支えたことは厳然たる事実ですし、その存在、人生をなかったことにしてしまったら、かわいそう。世の中はきれいごとばかりではありません。本音を叫ぶというのは、つまりこういうことです」。

 「スクープ」という言葉を借りながら、人間の光と陰にスポットを当ててきた新谷氏。その挑戦については、近著『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)に詳しい。妙に潔癖になってしまっている世の中の真ん中で、きれいごとではない真実を伝える。デジタル化を成功させた『週刊文春』と、新たに手掛ける『文藝春秋』。これから日本の社会、人々にどんな影響を与えていくかを見守りたい。

(文/衣輪晋一)

このニュースに関するつぶやき

  • 週刊文春の価値は記事だけじゃない。コラムもグラビアも連載小説他もたっぷりあって440円は安い。バランスとるために週刊新潮も年間購読している。
    • イイネ!3
    • コメント 0件
  • 「紙の雑誌から撤退することも毛頭考えていません」とありますが、ご自身の髪のほうは後ろに撤退してるような気がするので、少しは毛頭の事も考えてあげて下さいね! デジタルでも勝つ『週刊文春』貫くスクープ主義と稼ぎ方
    • イイネ!14
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