ネット投票、一番のネックは「勝ち組」議員? “ファクスはOK”の現実

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2021年10月16日 12:00  AERA dot.

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写真※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)
 新首相誕生の大騒ぎも束の間、国の行方を左右する衆院選が10月末に迫る。日本では投開票がいまだに手作業で行われているが、デジタル技術の発展により、海外ではインターネット投票を行う国が出てきている。国政のあり方をガラッと変える可能性すらある新技術の力とは──。


【写真】電子投票サービス「e投票」の使用例はこちら
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 6月11日、立憲民主党と国民民主党が、衆議院に「インターネット投票推進法案」を提出した。実現すれば従来の紙での投票に加え、スマホやパソコンなどのデジタル端末からいつでもどこでも投票できるようになる。法案が掲げるスケジュールではまず、在外投票や新型コロナの宿泊療養者・自宅療養者の投票についてインターネット投票(以下、ネット投票)を早期実施。2025年の参院選でネット投票を本格実施し、以後は地方選挙などでも順次実施するという。



 ネット投票は、単に「簡単に投票できる」という以上の変化をもたらす可能性を秘めている。同法案の筆頭提出者である立憲民主党の中谷一馬衆議院議員はこう語る。


「ネット投票というと若者の投票率が上がりそうなイメージですが、05年からネット投票が実現しているエストニアでは高齢者の投票率のほうが上がりました。足腰が悪いなどの身体的な問題や交通の不便さのせいで投票に行けなかった人たちが、どこからでも投票できるようになったからです。ネット投票ならば、全ての人が等しく投票する機会を確保でき、参政権の保障につながる。日本国憲法の精神にも則っていると考えています」


 日本人の国政選挙への投票率は下落傾向にあり、17年の衆院選では53.68%、19年参院選の投票率は48.80%。どちらも戦後2番目に悪い数字だ。ネット投票は、民主主義の危機とも言えるこの状況を打破することに一役買う可能性がある。


 電子投票サービス「e投票」を運営し、労働組合や学術学会、マンションの総会など民間団体でのネット投票を長年手がけるグラントの山崎元彰社長はこうも語る。




「指定の場所に移動して投票しなければならない今の国政選挙は、現役で働く若い世代にとっては非常に面倒。たとえ期日前投票でもリタイアする人が多い。ネット投票ならば天候などの外的要因に左右されず、休日の貴重な時間を移動で削ることもないので、今より投票率が上がるでしょう。私どものサービスでも、全年齢層の投票率が紙よりも上がる傾向にあります。私どもが運営するのはあくまで民間向けのシステムですが、国政選挙で実現すれば、民意が政治に反映されやすくなります」


 同社が行うネット投票では、投票者にQRコード付きの投票用紙を配布。投票者はスマートフォンでQRコードを読み取って、ネット上で投票できる。希望者は従来どおり紙での投票も可能だ。投票結果は全て電子化され、集計結果が瞬時にわかる(認証及び投票方法は、用途別に異なる)。


「ネット投票を導入したことで、それまで8時間かかっていた集計作業がほぼゼロになった事例もあります。集計ミスがなくなりますし、集計などのスタッフも大幅に減らせるため人件費も節約でき、投票にまつわるコストも大幅に下がります。一度導入してやめた企業・団体はほとんどありません」(山崎氏)


 デジタル庁の前身である内閣官房IT総合戦略室が行ったデジタル改革についての市民からのアイデア募集でも、「実現してほしいデジタル政策の人気ランキングの1位はネット投票の実現」(中谷議員)だったという。


 とはいえ、懸念される点もある。NECの元研究者で弁護士の宮内宏氏は、ネット投票の推進自体には賛成だと述べつつ、こう指摘する。


「ネット投票は技術的にはすでに可能ですが、不正が行われたらどうするか、という問題が残っている。一番大変なのは、投票の匿名性を担保したまま不正を暴くことです。いくら不正を暴けても、国民が誰に投票したかがわかってしまうと、憲法で定められた選挙の基本である『秘密投票の原則』が破られてしまいます」


 従来は投票の際に立会人が見ているため投票の正確性を担保できる。票は保存され、いざとなれば集計の正しさを後日確認できる。電子投票に同じことができるのか。




 長年、こうした問題に実現を阻まれてきたネット投票だが、昨今の技術の進歩により、ついに壁が打ち破られる可能性が出てきている。電子投票などデジタルシステムの研究を長年手がける早稲田大学基幹理工学部情報理工学科の佐古和恵教授はこう話す。


◆ファクスはO‌K ネットなぜ駄目


「投票データを第三者にわからないように秘匿する暗号化や、ブロックチェーンの技術を使って投票データを送信したのが匿名の有権者本人であることを証明するゼロ知識証明技術など、最新の技術を駆使すれば、投票の秘密を保ったまま不正を暴くことは可能です。すぐに完璧なシステムを構築するのは難しいかもしれませんが、少しずつあるべき理想に近づけていくことはできるはずです」


 新技術により、紙の投票以上に信頼性が保証される可能性もあるという。


「紙の投票では各候補の獲得票数を数字で確認するだけですが、最新の技術を使えば自分の1票がその中に正しく計上されていることを確認することもできます」(佐古教授)


 とはいえ、昨今は海外のハッカー集団がサイバー攻撃を仕掛けて企業を脅し、大金を奪おうとするなどのニュースも相次ぐ。大規模なシステム障害で金融機関がストップするようなトラブルもある。“デジタル不信”に陥っている人々を説得するのはたやすいことではない。それでも、前出の山崎氏はこう説明する。


「ネット投票というと多くの方が個人認証とセキュリティーを気にしますが、世の中を見渡すと、例えば銀行は基本的にカードの持参と数字4桁のパスワードで認証が行われていますし、金融のほとんどはオンライン取引で成り立っています。今でも遠洋漁業の漁師のために『洋上投票』というファクス投票の制度がある。それは電子投票ではないかと役所に聞いたら『いや、紙だから原本があるので違う』と。投票所では、投票所入場券の持参が本人の証明となる。紙による現状の本人認証はそういうレベルだということです。ネット投票ならば、求められれば指紋認証、電話認証、マイナンバーカードによる認証等、多重認証も可能です。個人認証や監査証跡の取り組みにより、不正行為そのものの根絶が可能です」




 前述の中谷議員は隣国である韓国の例を挙げる。韓国でも、まだ国政にネット投票が導入されるには至っていないが、ブロックチェーンを活用した電子投票システムがすでに開発されているという。


「韓国では政府への信用という面でのハードルが高く、日本と同じように政府に懐疑的な思いを持っている人々が多いです。そうした現状を克服すべく、ブロックチェーンを使ったネット投票システムを町内会の選挙など民間に貸し出し、使ってもらうことで信頼の醸成を試みている段階です」(中谷議員)


 ただ、どんなにセキュリティーを強化しても、簡単には防げそうにない問題もある。例えば、いつでもどこでも投票が行えるようになれば「誰かの家で集会を行い、特定の政治家に集団投票する」「息子がおばあちゃんの代わりに電子投票を行い、実質1人で複数の投票権を得てしまう」などの行動をする人が出て、新たな社会問題の温床になりかねない。


◆デジタル世代は与野党とも共感


「投票の強要やなりすましなどの行為は公職選挙法違反として、2年以下の禁錮または30万円以下の罰金が科せられますし、そうした行為をほう助した人も罪に問われます。違反が絶えないようなら、罰則を強化することも検討できます。また、本人がその投票に不満を持っているときには、後から投票を上書きできる仕様も想定しています」(同)


 数々の壁はあっても、ネット投票の導入は不可能ではないように思える。だが、実は「一番の障壁」は技術ではなく、導入に消極的な政治家たちだという。特に、強固な地盤や支持団体などの組織票を抱える政治家ほど、ネット投票を嫌がる傾向があるという。


「選挙を競技に例えるとわかりやすいかもしれませんが、ルールがガラリと変わってしまうとチャンピオンが代わるほどのインパクトがありますからね。投票率が上がると、俗に無党派層と言われる人々の票が増え、組織票が強い政治家は戦略を読み切れなくなる。組織票の強い政党ほど、低投票率のほうが選挙戦を有利に運びやすい。従来の投票方法で権力を保ってきた方はゲームチェンジを嫌悪するでしょう」(同)



 それでも、特に若手政治家の間では、与野党問わず、ネット投票の導入に積極的な議員が一定数存在するという。


「生まれたときからITが身近だったデジタルネイティブ世代が、数%ですが、やっと政界に入り始めました。そうした若い政治家たちは、与野党の垣根を越えて『ネット投票のように、良いものはすぐやったほうがいい』という感覚の人が多い。政界の意思決定権者にはデジタルに精通している人がきわめて少ないが、民主主義をアップデートしていくことは、国民にとって良いことだと信じていますので、今後もデジタル改革を推進していきます」(同)


 ネット投票の実現には、技術はさることながら人の心を変えることが肝心のようだ。(桜井恒二)

※週刊朝日  2021年10月22日号


このニュースに関するつぶやき

  • デヂタル庁はまずココから・・・「投票率が上がったらどうするんだっ!」 匿名でネット投票、不正は防ぐ・・・まあ、投票所に足を運びますので。
    • イイネ!0
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  • 電子投票は兎も角、スマホ投票は不正が怖いな…。
    • イイネ!12
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