連絡がつかなくなった夫は、「監禁」されていた!? 被害者家族の視点で描かれる、異常事態サスペンス『監禁』

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2021年10月16日 18:11  ダ・ヴィンチニュース

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写真『監禁』(秋吉理香子/双葉社)
『監禁』(秋吉理香子/双葉社)

 手のひらにあるスマホを開けば、すぐに誰かとつながれるようになった現代。親しい人とはメッセージアプリを介して手軽にやりとりできるし、SNSで呟けば顔も知らない人から思わぬ反応が返ってくることもある。でも、誰かと簡単につながれるという状況は、「つながらないときの不安」を増幅させているとも思う。

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『監禁』(秋吉理香子/双葉社)はまさに、「大切な人と連絡が取れないときの焦燥感」にスポットライトを当てた作品だ。タイトルからも連想される通り、描かれているのは異常事態だが、主人公が抱く不安や焦りは非常に身に覚えのあるものだった。

 本作の主人公を務めるのは、看護師の由紀恵。まだ幼い娘を抱える彼女は、夫があまり育児に協力的ではないこともあり、仕事と育児の両立に限界を感じていた。結果、優先したのは娘と過ごす時間。看護師の仕事にはやりがいを覚えていたものの、勤務時間が安定しないシフト制で続けていくのは厳しい。そんな由紀恵を「情けない」と一刀両断する看護師長のハラスメントにも耐えきれず、とうとう退職を決意した。

 いよいよ迎えた最終勤務日。これを乗り切れば、娘の育児に専念できる。最後の力を振り絞るように、由紀恵は夜勤業務に励む。でも、やはり気になるのは娘のことだった。夫にはどこかいい加減なところがあり、安心して任せられるわけではない。そこで由紀恵は、娘の様子を確認するためにラインを送る。しかし、なぜか夫からは返信がない。どうして? もしかしてなにかあったのではないか……。業務中にも拘らず、由紀恵の不安はどんどん膨れ上がっていく。

 ここでタイトルに戻ろう。監禁――。そう、由紀恵の知らないところで、夫は監禁されていたのだ。犯人の狙いは、由紀恵。入院時に彼女に惚れてしまった犯人は、異常な執着心を見せ、由紀恵を独占するために夫を殺害しようと企てていた。

 本作は、状況が把握できず不安に苛まれていく由紀恵の視点と、恐ろしい犯人に監禁されてしまった夫側の視点が交互に描かれていく。由紀恵のストーリーが実に日常的であるが故に、夫側のストーリーの悲惨さが際立つ。死と隣り合わせの状況にいながらも犯人と戦うシーンは、読み進めながら心拍数が上がってしまうだろう。一方で、前述した通り、由紀恵の心理状態には共感が止まらない。大切な人の身になにかあったのではないか……。そんな不安の中でも業務をこなそうとする由紀恵の姿は、とても痛ましい。

 ただし、物語はそれだけでは終わらない。なにを書いてもネタバレになってしまうので詳細は控えたいが、後半で大きなどんでん返しが待ち受けている。それを理解して初めから読み直してみると、著者の企みに見事引っかかってしまったことに唸らされるはずだ。

 監禁をテーマにした作品は決して珍しくない。しかし、その多くは監禁した側の異常心理を描いたものか、あるいは監禁されている側の絶望を描いたものだ。その点、本作のように“監禁された者の家族”を視点人物に据えたものはあまり見ない。だからこそ非常に新鮮な気持ちで読めるだろう。

 主人公・由紀恵の胸騒ぎに共感しつつ、意外なラストにしかと驚かされてほしい。

文=五十嵐 大

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