テレビ・映画から「肝っ玉かあさん」が消えた!? 昭和から令和まで“母親役”の変遷

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2021年10月17日 21:10  週刊女性PRIME

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写真左から、泉ピン子、薬師丸ひろ子、黒木瞳、森光子さん
左から、泉ピン子、薬師丸ひろ子、黒木瞳、森光子さん

 長年、表現のテーマとなってきたのが、母である女性の立ち居振る舞い。これまでいろんな女優さんたちが印象的な「お母さん」を演じてきました。そんな「お母さん」とお母さん俳優たちを振り返り、その構造や裏話、変遷を検証しました──。

 10月11日スタートの新ドラマ『サムライカアサン』(日本テレビ系)で、TOKIOの城島茂が“大阪のオカン”役を演じる。お母さん役といえば、これまでにさまざまな女優が演じてきた役どころ。そこで今回は、時代の移り変わりによるドラマのお母さん像の変遷をたどっていきたい。

自分より“下”を見て励みにした

 日本が復興期だった終戦後、“お母さんもの”の映画を「泣くために見る装置だった」と語るのは、NHK大河ドラマ『秀吉』('96年)や『利家とまつ』('02年)など数々の映画やドラマを手がけてきた脚本家の竹山洋さんだ。

「明日の米もないという時代だったから、子どもは母がどれだけ苦労しているか知っているんです。だから、三益愛子さんや水戸光子さんが演じるつらい境遇のお母さんを見ては『なんてかわいそうなんだろう』と家族で泣いたものでした。当時のお母さん、もとい女性たちの境遇は本当に悲惨だった。だから、映画に対して自分たちの境遇と重ねて泣きつつも、同時に『うちのほうがまだまし』と、自分たちよりもっとつらい状況の人を見にいくことで励みにしていたんです」(竹山さん)

 別の意味で代表的なのは、松本清張の小説『鬼畜』に登場する母親。映画版は岩下志麻が、テレビ版は黒木瞳や常盤貴子が演じた母親像は昭和初期のもうひとつの典型だった。常盤版『松本清張 鬼畜』('17年 テレビ朝日系)の脚本も担当した竹山さんは語る。

「昭和初期当時の日本には、自分のために子どもを殺してしまう親がかなりいました。昔は今よりも“生き死に”が近くにあったから、大事な後継ぎだと思えばむやみやたらに可愛がるし、不遇があれば『この子を殺せば私は楽になる』と一気に憎しみへと変わった。大人も子どもも、生き延びることに必死でしたから」(竹山さん)

 その後、1964年の東京オリンピックを経て日本の景気は上向きに。そのときに現れたのは、京塚昌子や森光子に代表される強くて明るいお母さん像だった。

「このころはもう、映画よりもテレビが主導の時代。テレビは映画と違って地獄を見せる媒体ではありません。以前、テレビプロデューサーの石井ふく子さんから『視聴者に“明日も楽しいことがある”と思ってもらえるように書いて』と言われたことを覚えています」(竹山さん)

 どんなことがあっても笑い飛ばして生きる昭和のお母さん像は、実は石井ふく子氏の志向とリンクしていた。女優の川上麻衣子さんは、このころのホームドラマについて以下のように考察する。

「当時、京塚さんが演じられていたようなお母さんって本当は少なかったかもしれないですよね。でも、ドラマがヒットしたらああいうお母さんに憧れる人が増え、実際に社会に生まれたところはあると思います」(川上さん)

 興味深いのは、京塚昌子や森光子、山岡久乃といった“お母さん女優”が、プライベートでは一様に独身を貫いていたという事実だ。近年、母親役が増えたという川上さんも現実にはお子さんを授かっていない。

「基本的に芝居って想像力なので、子どもがいない、逆の立場のほうが自分の家庭に発想が限定されないし、イメージは膨らみやすいかもしれないです。『悪役が多い役者さんは実は人間的にいい人』というのに似ていて(笑)。あと、本当にお母さんだったら『私はこんな母じゃない』『このドラマを子どもたちに見られたくない』と、演じるときに邪念が生まれるかもしれません。子どもがいないほうが母親らしさをキチッと形にしやすいかもしれないですね」(川上さん)

 ということは、想像力のみでお母さん役を演じる城島は、もしかしたら吹っ切れていいお母さんっぷりを見せてくれる可能性があるわけだ。

現代の“お母さん女優”大本命は

 現在も、多くの女優がお母さん役に挑戦している。ドラマウォッチャーとしても知られる漫画家のかなつ久美さんがお母さん女優として太鼓判を押したのは薬師丸ひろ子だった。

「『1リットルの涙』('05年 フジテレビ系)で娘を亡くす母を演じる薬師丸さんを見たとき、『こんないいお母さん役ができるんだ! 』と驚きました。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』('05年)での母親役もそうでしたが、子どもを思う母の愛を表現させると本当にうまい。ふっくらしたルックスも手伝って、本当にいそうな理想のお母さんになっていたと思います」(かなつさん)

 では、出色な“お母さんもの”のドラマといえばどの作品になるだろう?  近年の秀作としてかなつさんが挙げたのは、松雪泰子主演『Mother』('10年 日本テレビ系)だった。松雪演じる小学校教師が両親に虐待される児童に気づき、その子を誘拐してMotherになる決意をする─。坂元裕二脚本の傑作だ。

「あの役は松雪さんが持つシャープな雰囲気にぴったりでした。彼女の表現するひと癖あるお母さん像は素晴らしかったです」(かなつさん)

 竹山さんも、脚本家の立場から『Mother』を絶賛する。

「あのドラマの松雪さんはよかったですね。坂元さんの表現もとても素晴らしかった。どちらかというと自分の愛情のおもむくままに子どもを抱きしめるタイプの母ではなく、“冷静な母親”がドラマでは描かれていました。コロナ禍は『帰省しなくていいから、無理しないで東京にいなさい』という時代。だから、ああいう感じこそが今なんですよね」(竹山さん)

お母さん役を断ってほしい!?

 さて、今後“お母さん女優”の系譜に入ってくる存在としてどんな女優がいるだろう?

 川上さんが女優の視点から挙げたのは貫地谷しほりだった。2人は『3人のシングルマザー』('20年 フジテレビ系)で母娘を演じており、シングルマザー役は貫地谷、川上さんは貫地谷の母親役で、なんとおばあちゃんの役でもあった。

「すごく落ち着いていて、母親役を演じるのにまったく違和感はなかったですよ。たくましさもあったし、しっくり来ていました。貫地谷さんはいいと思います」(川上さん)

 かなつさんが挙げた“お母さん女優”の有望株は2人。1人目は綾瀬はるかだ。

「綾瀬さんってルックスから母性があふれているじゃないですか。あと、ものすごくキレイなのにどこか庶民的なんです。家事をしながらたまにドジをしそうで、そこもいいんですよね(笑)。だから、40代になったら立派な“お母さん女優”になるかも。将来に期待です」(かなつさん)

 2人目は大島優子だ。

「大島さんも洗練されすぎない庶民的な雰囲気があるし、結婚もされたので、今後はお母さん役も増えそうですよね」(かなつさん)

 竹山さんは脚本家ならではのこんな見解を示してくれた。

「今、お母さん役でいいと思うのは薬師丸さんかな。でも、本当はもっと違った役をやったほうがいいと思うんです。彼女には、そこはかとない妖しさがあるから。だから、子どもの成長を微笑ましく見守る母親役があまり板についてほしくないなというのが正直なところですね」(竹山さん)

 竹山さんは、今の時代女優はお母さん役を定番にしないほうがいいと提言する。「『時間ですよ』('70年 TBS系)の森光子さんや『渡る世間は鬼ばかり』('90年 TBS系)の泉ピン子さんみたいに、今の時代ではその人の金看板になるわけではないし、もったいないと思うんです。今の女優さんたちは、年をとったからといって安易にアットホームな母親役を引き受けなくてもいいと思うんですよ。もっと自分を大事にして、『この母親役はできません』ってちゃんと言ってほしいです。

 綾瀬さんも、雰囲気を買われて庶民的な母親役をやってもいいと思うけど、可能性を広げるために『もっと違う役をやりたい』と毅然としてもいいと思います」(竹山さん)

ホームドラマは今後どうなる?

 京塚昌子、森光子、山岡久乃、加藤治子らが“日本のお母さん”として活躍した時代と比べ、ホームドラマはめっきり少なくなった。前出の石井ふく子氏とのタッグでも知られる『渡鬼』の脚本家だった橋田壽賀子も、今年4月に95歳で亡くなった。いかにもな日本の家庭を伝える作品として、現在も残っているのはアニメの『サザエさん』('69年 フジテレビ系)くらいだろうか。この流れについて川上さんは以下のように分析する。

「現実の世の中が、もうそうじゃないじゃないですか。今の50〜60代のお母さんってみなさん元気でキレイだし、『男は外で働く、女は家を守る』という時代ではないですものね。だから、お母さんのイメージはどんどん変わっていくし、すでにひとつではないでしょう。現代のお母さんを描く作品に、京塚さんのようなお母さんが出てきたら、ドラマとしておかしくなってしまいますよね。

 これからのホームドラマに出てくるお母さんは、昔のお母さん像とはまったく違っていないといけない。『今どきのお母さんらしいなあ』という人が何人も、何種類も出てくるのではないでしょうか」(川上さん)

 竹山さんの見解はいたってクールだった。

「今、『サザエさん』みたいな家族というのはほぼないし、だからこそ時代劇やSFのような感覚で見られているんでしょうね。今回の城島茂さんの“お母さん役”も、おそらくそうでしょう。そして、典型的な母親像を創り上げてきたともいえる橋田壽賀子という巨人がもういなくなった。これからは、時代に受け入れられやすい脚本家が、時代に合った“お母さん像”を創り上げていくのかもしれない。“日本のお母さん像”がこれからどう枝分かれしていくか、実に興味深いですね」

お母さん役が印象的だったおもな女優&代表的な作品

京塚昌子
・『肝っ玉かあさん』シリーズ('68年 TBS系)
・『ありがとう』〈第4シリーズ〉('74年 TBS系)
森光子
・『時間ですよ』シリーズ('70年 TBS系)
山岡久乃
・『ありがとう』('70年 TBS系)
・『渡る世間は鬼ばかり』('90年 TBS系)
赤木春恵
・『おんな太閤記』('81年 NHK)
・『渡る世間は鬼ばかり』('90年 TBS系)
岩下志麻
・『独眼竜政宗』('87年 NHK)
高畑淳子
・『昼顔』('14年 フジテレビ系)
泉ピン子
・『おしん』('83年 NHK)
・『渡る世間は鬼ばかり』('90年 TBS系)
黒木瞳
・『過保護のカホコ』('17年 日本テレビ系)
薬師丸ひろ子
・『1リットルの涙』('05年 フジテレビ系)
・『エール』('20年 NHK)

斉藤由貴
・『いつかこの雨がやむ日まで』('18年 フジテレビ系)
小泉今日子
・『あまちゃん』('13年 NHK)
富田靖子
・『スカーレット』('19年 NHK)
永作博美
・『ダーティ・ママ!! 』('12年 日本テレビ系)
石田ひかり
・『監察医 朝顔』('19年 フジテレビ系)
香里奈
・『だいすき!! 』('08年 TBS系)
菅野美穂
・『ウチの娘は、彼氏が出来ない!! 』('21年 日本テレビ系)
吉田羊
・映画『ビリギャル』('15年)
綾瀬はるか
・『義母と娘のブルース』('18年 TBS系)
小雪
・映画『ラストサムライ』('03年)
■長澤まさみ
・映画『MOTHER マザー』('20年)

お話を聞いたのは……



川上麻衣子さん

(かわかみ・まいこ)


1966年スウェーデン生まれ。1980年女優デビュー。『3年B組金八先生』(TBS系)で人気に。セレクトショップ「SWEDEN GRACE」(東京・谷中)オーナーの顔も。10月27日より、銀座松屋7Fで手描きグラスが中心の個展を開催。



かなつ久美さん

(かなつ・くみ)


1990年漫画家デビュー。代表作はドラマ化もされた『OLヴィジュアル系』など。趣味は美容と保護犬ボランティア。LINE漫画『OLヴィジュアル系』、Kindle『緋色』ほか配信中。最新刊は『もしボクにしっぽがなかったら』(みなみ出版刊)。



竹山洋さん

(たけやま・よう)


1946年埼玉県生まれ。テレビ局演出部を経て脚本家に。1994年に第2回橋田壽賀子賞、2001年に『菜の花の沖』で第51回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2007年に紫綬褒章、2017年に旭日小綬章受章。

(取材・文/寺西ジャジューカ)

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