身に付けると仕事に役立つ「抽象化」思考のススメ

0

2021年10月18日 07:12  @IT

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

@IT

写真写真

 先日、フリーランスエンジニアの単価記事が話題になりました。それぞれの単価に対して、エンジニアのスキル感が提示されていました。



【その他の画像】



 その中に、「抽象的な概念を理解し始めたエンジニア」「抽象的な概念をしっかり理解し、比較検討ができる」といった表記があったのですが、そのスキルが、基本的か、高度かといったら、どちらかと言えば基本的なスキルとして書かれていました。



 しかし、「抽象的な概念を理解する」という一文を読んで、「基本的なスキルのように書かれているけれど、実は、かなり高度なスキルなのではないか?」と思ったのです。



 というのも、Javaをはじめとしたオブジェクト指向ができるプログラミング言語を学んだことがある人ならきっとお分かりいただけると思いますが、「抽象化」というのは、なかなか理解しにくい概念です。私自身「抽象化」が理解できず、挫折しそうになりながら、何とか理解できたタイプです。



 一方で、抽象化の概念が理解できたら、「つまり、こういうことね」のように、物事の特徴をざっくりと捉え、本質を理解できるようになりましたし、「なぜ、それをするのか?」という目的が明確になり、やるべきことが整理しやすくなりました。今では、抽象化思考が大好きになりました。



 そこで今回は、「抽象化」のお話をしたくなりました。



●抽象化は「具体化の逆」



 「抽象的な概念を理解する」とは、物事を「大きな視点で俯瞰(ふかん)的に捉えられる」ことです。また、大きな視点で俯瞰的に捉えることによって、「全体の構造を把握する」ことができます。



 「抽象化」を理解するためには、「具体化」を理解する必要があります。なぜなら、抽象化とは、「具体化の逆」だからです。



 具体化とは、「物事を具体的にする」「詳細にする」ことですね。「○○を具体的にしましょう」といった会話は日常でもよく出てくるので、説明するまでもないでしょう。



 具体化を図にすると、対象を細かな要素に分解するイメージです。対象に対して「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」といった問いを立てると、具体化できます。曖昧な状況を「事実化する」といってもいいかもしれません。



 抽象化は具体化の逆なので、異なる特徴を持った事柄の共通点を見つけて「ざっくりとまとめる」イメージです。



 ざっくりまとめるというと、「曖昧にする」イメージを抱くかもしれませんが、単に「曖昧にする」というよりも、「つまり、こういうこと」「ざっくり言うと××」のように、細かなことは取りあえず脇に置いておいて、「特徴を理解しやすくする」感じです。



●「抽象化」ができると便利な2つのこと



 抽象化の面白さは、大きく分けると2つあります。



物事の目的や意味、本質を捉えられる



 1つ目の面白さは、「物事の目的や意味、本質を捉えられる」です。



 一例として、「ITエンジニアの仕事」を抽象化してみましょう。でも、突然「ITエンジニアの仕事を抽象化する」といわれても、よく分からないですよね。



 そこで、良い方法を伝授します。それは「目的や意味を明確にする」ことです。



 難しいことは置いておいて、ITエンジニアの仕事を抽象化してみましょう。まず、ITエンジニアの仕事の「目的」や「意味」を考えてみます。いろいろな言い方はありますが、ここでは「ITの技術力を生かして、情報システムを作る」としましょう。



 続けて「情報システムを作る」ことの目的や意味を考えてみます。これにも、いろいろな目的や意味がありますが、その上位には「業務を便利に、楽にする」といった意味があるように思います。



 さらに、「業務を便利に、楽にすること」の上位にある目的や意味を考えると、「生産性が高まり、時間が短縮できる」「情報伝達がスムーズにできる」など、幾つかの目的や意味があるでしょう。



 「生産性が高まり、時間が短縮できる」「情報伝達がスムーズにできる」ことの上位にある目的や意味を考えると、「早く帰れる」「チームワークが良くなる」といったものがあるはずです。



 さらに、その上位の目的や意味を考えてみると……キリがないのでこのぐらいでやめておきますが、「家族と過ごす時間が増える」「気分良く仕事ができる」などにつながっていき、最終的には「顧客の幸せ」につながるはずです。



 つまり、ITエンジニアは、顧客をはじめとした誰かを「幸せにする」のが仕事です。



 「ITの技術力を生かして、情報システムを作る」と「顧客の幸せ」を比較すると、顧客の幸せは、かなり抽象的ですよね。つまり、抽象化しています。また、「ITエンジニアの仕事は、顧客に幸福感を提供することである」という捉え方は、かなり本質的です。



 このようにある事柄の上位にある目的や意味を繰り返し明確にしていくと、比較的簡単に抽象化でき、本質的な目的や意味へと、昇華させられます。



●ストーリー立てて、分かりやすく説明できる



 抽象化の2つ目の面白さは、「ある物事をストーリー立てて、分かりやすく説明できる」ことです。



 先ほどの、「情報システムを開発するメリット」を、お客さまに説明するシーンがあると仮定した場合、抽象化を使いながら話を組み立てると、物事をストーリー立てて分かりやすく伝えられます。



 例えば、こんな感じです。



この情報システムを開発すると、御社の業務を便利に、楽にできます。その結果、生産性が上がり、時間が短縮でき、社内での情報伝達がスムーズになります。そうすると、残業代がカットできるし、今まで以上にチームワークが良くなります



 これは、先ほどの目的や意味を明確にした(つまり、抽象化した)内容をただ並べただけです。



 さらに続けると……。



社員の皆さんが早く帰宅できると、家族と過ごす時間が増えます。それは気分良く仕事ができることにつながるでしょう。そのような働き方ができる会社であれば、社員が幸福を感じ、きっと「これからもずっとこの会社で働きたい」と思い、エンゲージメントが高まるはずです



 ここまで抽象化するのはやり過ぎかもしれませんが、少なくとも目的や意味をストーリー立てて伝えた方が、「それを行う目的」が明確になり、納得感を得やすくなります。



 ストーリーを作るのは、抽象化によって見いだした目的や意味をつなげていくだけです。



●チョー簡単に「抽象化」する方法



 このように、抽象化すると物事の目的や意味、本質を捉えられ、それを行う目的や意味をストーリー立てて分かりやすく説明できるようになります。でも「まだ、難しい」という方のために、もっと簡単な方法をお伝えします。



 それは、ある事柄に対して「それによって、どうなる?」という問いを立てて、その答えを考えることです。



 ITエンジニアの仕事でやってみましょう。



ITエンジニアが仕事をすると、どうなる?→情報システムができる情報システムができると、お客さまはどうなる?→業務が便利に、楽になるお客さまの業務が便利に、楽になると、どうなる?→生産性が高まり、時間が短縮できる



 「それによって、どうなる?」を、ステップ・バイ・ステップで繰り返し考えると、抽象化ができ、上位にある目的や意味(つまり、本質)が明確になります。抽象化した内容をストーリー立てて、分かりやすく説明するためには、「それによって、どうなる?」で導いた内容を「で?」でつないでいくだけです。



この情報システムを開発すると、御社の業務を便利に、楽にできるんですよね。で、その結果、生産性が高まり、時間が短縮できるし、社内での情報伝達がスムーズになります。で、そうすると、残業代がカットできるし、今まで以上にチームワークが良くなります。で、……



 といった具合です。



●抽象化に便利な枕ことば



 ここからは、ちょっとした会話のテクニックです。抽象化することによって、チームの中でよくある「ギクシャクしたコミュニケーション」をうまくやり過ごす方法を紹介します。



AかBかの選択で割れているときの抽象化「大切なのは……」



 仕事をしていると、「AかBか」の選択で議論になる場合があります。メリットとデメリットを洗い出して戦わせても、話が発散するばかりで、なかなか会話が進まない……なんてこと、ありますよね。



 そんなときに便利なのは、「大切なのは……AかBではなく、Cなのではないですか?」のように、AやBの上位にある概念Cへと相手の意識を抽象化させる方法です。例えば、これから開発するシステムを、クラウドにするかオンプレミスにするかでもめていたら……。



大切なのはクラウド(A)かオンプレミス(B)かではなく、いかにお客さまが望むシステムを早く、効率的に、安全に作るか?(AとBを統括した、より大きな概念C)ではないですか?



 システムを開発する目的や意味、本質に立ち返ることで、どちらが良いのか判断しやすくなるかもしれません。



話が発散して集中がつかないときは「そもそも……」



 「そもそも」は、話が細かくなったり、発散したりして収拾がつかなくなって話の原点に戻るときや、物事の発端となった理由や原点を振り返る(つまり、抽象化する)ときに便利な枕ことばです。例えば、印鑑をデジタル化する、しないでもめていたら……。



そもそも、印鑑って何のために必要なんでしたっけ?



 抽象化とは、目的や意味を明確にすること。「そもそも……」という質問を使うと、相手の意識を抽象化できます。



●物事の目的や意味、本質が見えれば仕事が楽しくなる



 抽象化の利点や便利な使い方について見てきました。



 繰り返しとなりますが、「抽象的な概念を理解する」とは、物事を「大きな視点で俯瞰的に捉えられる」ことです。また、大きな視点で俯瞰的に捉えることによって、「全体の構造を把握する」ことができます。



 私は「そもそも」を考えるのが大好きです。抽象化は、物事の目的や意味、本質を見いだす思考プロセスでもあるので、普段から抽象化思考をしていると、全く関係ないような事柄の共通点を見つけられて、「あー、これはつまり、そういうことか!」と意外な発見をすることがよくあります。それが、とても楽しい。



 抽象化という言葉だけ見ると何となくとっつきにくい印象がありますが、紹介した幾つかの方法を使えば簡単です。ぜひ、抽象化思考をしてみてください。プログラミングに限らず、ビジネスにおいても、物事の目的や意味、本質を明確にできるはずです。



 「そもそも、自分は何のために……」を見いだせたら、仕事に対する動機付けにもつながるかもしれませんね。



●筆者プロフィール



しごとのみらい理事長 竹内義晴



「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。


    ニュース設定