成長のために不幸を選ばなくてもいい 『3月のライオン』が教えてくれる気付き

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2021年10月18日 09:01  リアルサウンド

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『3月のライオン』が教えてくれる気付き

 「ヤングアニマル」にて連載中の『3月のライオン』16巻が10月5日に発売となった。家族を交通事故で亡くし、父の友人である棋士の幸田の家に内弟子として引き取られた桐山零。15歳でプロ棋士になり、中学卒業後は東京にある六月町で一人暮らしを始める。精神的に荒み、投げやりな生活を送っていた零だが、隣町に住む川本家の三姉妹や、高校での出会いを経て、少しずつ周りに心を開いていくようになる。


 15巻では、川本家の次女、ひなたに想いを告げ、幸せな時間を送る零だったが、一方で将棋には行き詰まりを感じていた。幸せなあの空間の中にいたら、がむしゃらに将棋に向かえなくなるのではないか。そんな零の心が動いていく16巻について考察する。


幸せな川本家との年末年始

 クリスマスにはひなたと一緒に買い物に行き、年越しは三日月堂を手伝い、1月2日と3日は川本家と一緒に“ジクソウパズル祭”に参加する。誰がどう見ても幸せな団らんだ。


 さらに驚かされたのは、ひなたとの距離感だ。“ジクソウパズル祭”の最中、おやつが足りなくなったからと零はひなたと一緒に買い出しに出かける。そこでひなたは、零と手をつなぎながらぽつぽつと自分がこれからやりたいことについて語り出す。三日月堂を手伝いたいこと。どんなお店にしたいかということ。できないことはたくさんあるけれど、それでもあきらめたくないという気持ちがあるということ。だからこそ、零がこれまで将棋に向かってがんばってきたことを無駄にしたくない、自分たちのせいで零が弱くなってしまうのは嫌だと。一緒にどうしたらいいのか考えよう、と言うのだ。


 零には長く、一緒に考えてくれる人がいなかった。いや、零がそれを拒んでいたのかもしれない。零は一度大切なものを失って、いま大切だと思っているものも失くしてしまうかもしれない、と感じている。一緒に考えてくれる人ができれば、それは大切な人だ。いつか失くしてしまうなら――。でも、零は失くしたくないものがあることも知ってしまった。


 ひなたや、川本家との時間は幸せそうだけれど、どこか切ない。それは、零に「なくしたくない」という強い思いが根底に流れているのを、読者が感じ取っているからかもしれない。


苦しみがなくても、強くなってみせたいという想い

 親友の二階堂は懸念していた。零が幸せになることで、将棋だけに没頭できなくなるのではないか。幸せになることによって強さを手放すのではないか。


 「苦しみをバネに」は、将棋に限らずいろんな場面で考えられがちなことだ。不幸なほうが強い。不幸や憎しみを戦う原動力に変えることができるから。しかし、二階堂は考える。苦しみをバネにしないと強くなれないのなら、それまでの実力。全力で別のルートを探して強くなって見せる、と。そして気がつくのだ。零もまた、別ルートを探し始めたのだということを。


 二階堂の気づきと共に、読者もようやく「それでいいんだ」と息をつくことができる。16巻を読みながら、ずっと「どうか不幸を選ばないで」と願っていた。人は幸せになったら、そのまま幸せでいていい。不幸を選ぶ必要はない。幸せなまま、強くなる方法を探せばいいのだ。


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