日本のレストランはなぜ子連れに優しくない? アメリカ・シアトルと比べて見えるひとつの理由

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2021年10月19日 07:00  AERA dot.

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写真アメリカ、シアトル。本格的な地ビールを造るブルワリーも子連れで賑わう。(画像/著者提供)
アメリカ、シアトル。本格的な地ビールを造るブルワリーも子連れで賑わう。(画像/著者提供)
 「逆カルチャーショック」というものがあります。外国生活になじんでから母国へ帰ってきて、逆に生まれ育った国の文化に違和感を覚える心理ですが、約5年間のアメリカ生活ののち日本へ帰ってきたわたしもこの逆カルチャーショックを日々体験しています。そのうちのひとつが、子連れでの外食です。


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 近所で評判のピザ屋さんに行ったときのことです。創業50年超の老舗で、価格帯も手頃。中でもチーズピザが絶品だとかでわくわくしながらお店のドアを開けると、店主らしき人が出てきてこう言いました。「お子さん連れですか?」明らかに渋い顔をしています。はい、子どもふたりです。入れますか? と尋ねると、「お子さん、じっとしてられますか?」とのこと。5歳の娘はまだしも2歳の息子は活発で「じっとしてる」と言い切ることはできません。というか、これはもう遠まわしに「子連れは困る」と言われているんだろうなと感じて泣く泣く店を出てきました。そのときに遅まきながら思い出したのです。ああ、日本で子連れ外食をするには事前リサーチが必要なんだった、と。


 アメリカに住んでいるとき、何回か日本に一時帰国したことがありました。「お互いの子どもを連れて久々に会おう!」と、同じくママになった女友だちに連絡すると、いつもこんな答えが返ってきました。「わかった、子連れでもよさそうなお店を探して予約しておくね」。それが当時のわたしには不思議でなりませんでした。子連れでもよさそうなところって、わざわざ探して予約しておかなきゃいけないもんなんだろうか? と。そう、いけないもんなんですよね。


 日本に本帰国した今ならわかりますが、特に都市部で子連れ3組以上で集まろうとしたら、お店のリサーチは必須といっていいでしょう。ベビーカーを置くスペースやキッズメニュー、ハイチェア、おむつ交換台の有無もですが、そもそも子連れで入ってもよさそうな雰囲気なのか否かがとても重要になります。たとえ店内が狭くても、価格帯が高めでも、子連れ歓迎な雰囲気のお店もあれば、前述のピザ店のように一見気楽なお店なのになんとなく子連れ向きではない場所もあるからです。ですから事前にネットの口コミを見るなりお店に問い合わせるなりして、雰囲気を確かめなければなりません。わたしの女友だちは、そうやって手間をかけて子連れOKの店を探してくれていたのでした。


 対してアメリカでは、そんな苦労をすることがありませんでした。アメリカといっても広いですが、地方はもちろんのこと、わたしが住んでいた比較的大都市であるシアトルもそうでした。シアトルはアメリカのなかでも人口密度が高いし、狭いお店も多いし、ファミリー層から子どもがそんなに好きではない層までさまざまな人が暮らしているしで、日本に近い環境にあります。それでも大抵のお店は子連れで入れるので、事前リサーチなど不要でした。ピザ釜がある本格的なピッツェリアとか、地ビールが評判のブルワリーとか、高級志向の南部料理店とか、日本なら大人向きカテゴリーに入る類のお店も子連れ客で賑わっていました。その理由をひとつ挙げるなら、「飲食店にとっていちばんの上客が子連れだから」ではないかと思います。



 以前、シアトルの飲食店経営者複数名にインタビューをしたことがありました。お店のジャンルは違えど、皆さん一様に口にしていたのが「シアトルではファミリー層を締め出すと経営が成り立たない」という言葉でした。シアトル周辺の大きな産業はなんといってもITであり、アマゾンやマイクロソフトなどに勤める30代前後の若手会社員たちがいちばんお金を持ち、使っている。彼らはイコール子育て現役世代でもあり、いいお店があったらママ友パパ友を誘うなり、ソーシャルメディアで発信するなりして新たなお客さんを呼んでくれる。シアトルの人はメディアや飲食店発信の情報に常にアンテナを張って流行を追いかけるタイプではないこともあり、飲食店繁盛のカギはとにかく口コミ。横のつながりの強いファミリー層の胃袋をつかめば経営は順調になるとのことでした。ですからお店はハイチェアやおむつ交換台を完備し、時には子どもが遊べるスペースなども設けて、ファミリー層を呼び込もうと苦心しているのです。


 悲しいかな、この事情は日本にはあてはまりません。日本では、年齢が上がるほど平均年収も手取り額も貯蓄額も上がる傾向にあります。お金をもっているのは仕事や育児から解放されたリタイヤ世代で、子育て現役世代は毎日の生活をこなすだけで精一杯。将来しっかり年金がもらえる保障もないから、貯金もしておかないといけない。いいレストランになんて行かないし、お店でもあまりお金を使おうとしないので、飲食店側も無理にファミリー層を呼ぼうとしない……という悪循環になっているのではないでしょうか。


 子育て中の家事は、どうしても家族以外の人の手が必要になります。買い物は宅配業者さんに、掃除はハウスクリーニング業者さんに、などと誰かに頼る必要が出てきます。そんな日々の家事の中で、もっともアウトソーシングしやすいのが「食」ではないかと思うのです。家で調理・片付けをするのはひと苦労、それにたまには誰か人の作ったごはんが食べたい。そんなとき、家族で頼れる場所が増えたら子育てはもっとラクになります。子育て現役世代としては、しっかり外食産業にお金を落としてこちらのほうを向いてもらわないと、と思います。そうはいっても日々の出費が厳しいのですが。


〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi


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このニュースに関するつぶやき

  • アメリカのレストランはお子様歓迎だの子供向けメニューありだの書いてないところは基本成人しか入れないって学生時代のマナー講座で習ったのだが時代が変わったかな
    • イイネ!1
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  • アメリカは「ちゃんとしたレストラン」は男性は上着必須で子供はお断りです。「ちゃんとした」レストランでないならピンからキリまであります。
    • イイネ!21
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