池井戸潤、『民王』11年ぶり新作が売り上げ1位に 文芸書ランキングは続編だらけ?

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2021年10月19日 10:01  リアルサウンド

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池井戸潤、『民王』11年ぶり新作が1位に
週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(10月5日トーハン調べ)

1位 『民王 シベリアの陰謀』 池井戸潤/著 KADOKAWA
2位 『月が導く異世界道中 17』 あずみ圭/〔著〕 アルファポリス
3位 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』 ブレイディみかこ/著 新潮社
4位 『異世界のんびり農家 11』 内藤騎之介/著 KADOKAWA
5位 『透明な螺旋 』 東野圭吾/著 文藝春秋
6位 『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』 佐藤愛子/著 小学館
7位 『ペッパーズ・ゴースト』 伊坂幸太郎/著 朝日新聞出版
8位 『さよならも言えないうちに』 川口俊和/著 サンマーク出版
9位 『アラフォー賢者の異世界生活日記 15』 寿安清/著 KADOKAWA
10位 『純猥談 私もただの女の子なんだ』 純猥談編集部/編 河出書房新社


『民王 シベリアの陰謀』

 10月第一週の文芸書週間ランキング、第1位は、2015年にドラマ化された池井戸潤『民王』の、なんと11年ぶりの続編である。『民王』は、あることがきっかけで、内閣総理大臣の武藤泰山と、息子で大学生の翔の人格が入れ替わり、国会での漢字読み間違いや大臣の泥酔会見などを引き起こしてしまうという、風刺のきいた社会派コメディ。最近では小説野性時代新人賞を受賞した君嶋彼方『君の顔では泣けない』が話題だが、入れ替わりモノは小説における人気ジャンルのひとつ。2015年には遠藤憲一&菅田将暉主演でドラマ化され、あまりの人気に次々とスピンオフドラマが展開されるなど、話題を呼んだ。


 続編となる『民王 シベリアの陰謀』は、誰も入れ替わったりしない。第二次内閣を発足させた武藤泰山が指名した環境大臣が、発症すると凶暴化する謎のウイルスに冒されてしまうのだ。急速な感染拡大に緊急事態宣言を発令するなど、泰山が対応に追われている一方、息子の翔は「狼男化」した教授に襲われる……。不安が吹き荒れる世間では、いわゆる陰謀論が支持を集めやすいのはなぜなのか? など、やはり時勢を反映したテーマがぎっしり詰まった本作。


 〈今回の作品の読み方は読者にゆだねているので、できるだけ先入観を与えないように、インタビューもほとんど受けず、版元にもあまり宣伝しないでくれと釘をさしました〉と池井戸はインタビューで答えているが(「WEB好書好日」より)、それなのに堂々の1位獲得はさすがである。コメディタッチなので思わず笑ってしまう部分はありつつも、ふとした瞬間にはっと冷や水を浴びせられる、池井戸潤ならではの筆致を存分に味わってほしい。


 『民王』を筆頭に、今月は10作中9作が続編モノなので、シリーズタイトルがついていないものをここでは紹介しておこう。先月からランクインし続けている『透明な螺旋』は、東野圭吾ガリレオシリーズ。『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』は、2016年に刊行され130万部を突破した『九十歳。何がめでたい』から続く佐藤愛子のエッセイシリーズ。『さよならも言えないうちに』は累計130万部を突破したシリーズで、第1作『コーヒーが冷めないうちに』は有村架純主演で映画化もされたので記憶に残っている人も多いだろう。


 そんななか、異彩を放っているのが10位 『純猥談 私もただの女の子なんだ』。衝撃的なタイトルで話題をさらった『純猥談 一度寝ただけの女になりたくなかった』の第2弾で、シリーズ累計12万部を突破。どちらも〈できれば一生共感したくなかった、知らない誰かの恋愛体験談。5分で切ないショートストーリー〉というコンセプトは同じ。読んでみると性愛の香りが満ちているのにどこかピュアな気持ちにさせられる不思議な作品である。


『純猥談 私もただの女の子なんだ』

 純猥談の発起人は佐伯ポインティ。2018年に日本初の完全会員制「猥談バー」をオープンした元マンガ編集者で、Twitterのフォロワー数は24万人超、YouTube「佐伯ポインティのwaidanTV」のチャンネル登録者数は73.5万人(2021年10月時点)。実店舗だけでなく、インターネット上でも読者の体験談を集めているが、タイトルに反してそこに猥雑な雰囲気は、あまりない。理由のひとつは佐伯がいつも朗らかで笑顔、どんな体験も笑顔で受けとめ、ときに愛あるツッコミをまじえていくスタイルを貫いているから、そして、エロのハードルがさがることで、深刻な悩みを抱いている人たちも「これでも大丈夫なんだ」とほっとできるからではないだろうか。


 書籍のほうはインターネット上のコンテンツに比べ、しっとりした文章で、ときに痛みや後悔を喚起させるつくりになっているが、恋愛の傷を癒すのにはおそらく、笑い飛ばしてネタにしてしまうことと、どっぷり感情に浸りきることの両方が必要なのだろう。ちなみにネット上には前作に引き続き、同タイトルの短編映画も公開されている。文字と映像、両方の視点から楽しめる新しいコンテンツの誕生として、注目したい。


 なお、唯一の単発作品は7位の伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』で、1年半ぶりの新刊にして、作家生活20周年超の集大成となる一題エンターテインメントと銘打たれている。〈今回は、得意パターン全部乗せなんですよね。自分の家の冷蔵庫にあるものを全部使いました、という感じで(笑)。〉(公式サイトより)と伊坂自身が述べる本作にもぜひ注目を。


『ペッパーズ・ゴースト』

このニュースに関するつぶやき

  • 民王は1作目が最高だっただけに期待し過ぎてしまった。2作目は悪くないんだけど完全に1作目より面白くない。それでも続編を書いてくれた事に感謝しつつも読み返す事はない
    • イイネ!1
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