iPhone SEが「一括10円」で販売 上限2万円を超える値引きのカラクリとは?

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2021年10月20日 06:11  ITmedia Mobile

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写真都内のとある量販店のPOP
都内のとある量販店のPOP

 携帯キャリアによる「iPhone SE(第2世代)」の値引き合戦が過熱している。ある家電量販店では、9月の土日限定の値引きとして「MNPで一括10円」のキャンペーンをドコモ、au、ソフトバンクの各キャリアが実施していた。



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 興味深いのは、このiPhone SEの割引は「通信契約なしでの単体購入」でも一部が適用されることだ。そして、昨今のiPhone SEを対象としたキャンペーンでは、端末単体購入の場合でも3万円程度の値引きが適用されていることが多い。一見、大手キャリアにとってメリットがないような販売形態のカラクリを探った。



●過熱するiPhone SEの大幅値引き



 2021年7月ごろから、土日を中心にiPhone SEなど一部機種を対象として「端末単体で3万円引き」といった大幅な値引き販売をする店舗が散見される。



 この割引は2段構成になっていて、ある店舗では、端末単体購入でも3万円程度の割引を実施し、さらにMNP転入をすれば割引額が上乗せされて、最終的にiPhone SEの本体価格が「一括10円」といった価格まで値下げ販売といった案内が行われる。



 実は端末単体で販売する場合、販売する携帯キャリア側に値引きするメリットはほとんどない。携帯キャリアがスマホを値引き販売するのは、新規契約を獲得して、継続的な収益を得ることにあるからだ。端末単体で値引き販売したとしても、回線を使ってもらえなければ、ただ赤字を積み増すだけになるだろう。



 そうした意味で、iPhone SEの「端末単体で3万円引き」という値引き条件は、販売側にメリットのない奇妙なキャンペーンに見える。



●「端末単体購入」とは



 上述した通り、大手キャリアの販売店では回線契約なしで、スマートフォンだけを購入することができる。これは「移動機物品販売」や「端末単体販売」、または「白ロム販売」と呼ばれる手続きで、従来の機種変更とは違うものだ。以下で実際の手順を簡単に説明しよう。



 購入の手順は大手キャリアで携帯を買う場合と大きくは変わらない。端末単体で購入したい旨を伝えると、在庫の有無を確認した後、カウンターで重要事項の説明を聞き、申込書類を書くことになる。



 ドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアでは一括販売と、割賦契約(分割支払い)の両方に対応し、購入時の手数料は無料。希望すれば無料でロック解除も行える。



 具体的な手続き方法は各社で異なるが、通常の携帯電話契約よりも時間がかからず完了する。最もシンプルなのはauで一括払いをする場合で、購入者の情報を求められず、通常の家電製品を購入するような感覚でスマホを購入できる。



 ソフトバンクでは、携帯電話番号の「契約管理番号」という番号が発行され、My Softbankで契約書類のダウンロードなどが可能となる。このために本人確認が必要だ。



 NTTドコモも、端末単体購入のために専用の手続きを用意している。ただし、一部の割引が適用される場合は「新規契約」の形式を取り、割引適用後に回線契約をキャンセルするという内部的な処理が行われる。ドコモ広報部によると、この対応はシステム整備の都合による暫定的な対応で、今後解消に向けた早期のシステム対応を検討しているという。



【訂正:2021年10月21日9時00分 初出時、「割引適用後に回線契約をするという内部的な処理」としていましたが、正しくは「割引適用後に回線契約をキャンセルするという内部的な処理」でした。おわびして訂正いたします。】



 なお、この移動機物品販売という手続きは、総務省が各キャリアに整備するように求めたもので、原則として携帯キャリアはこの手続きを拒否することはできない。



●iPhone SE大幅値引きのカラクリ



 では、なぜiPhone SEがここまで安く売られているのか。大手キャリアがiPhone SEを値引き販売するのは、やはり新規契約やMNP転入を獲得するためだ。キャリアや販売店にとって、端末単体購入で割引するメリットは本来存在しない。



 このカラクリが生まれた背景は、総務省による「通信と端末の分離」という政策にある。他社から携帯番号を引き継いで乗り換えられるMNP制度が生まれて以来、携帯電話業界では顧客の引き抜き合戦が盛んに行われていた。販売店ではスマホと回線のセット契約で大きな割引をつけ、他社からのMNP転入の獲得を狙った。一部の店舗では「家族で乗り換えて30万円還元」といったような過剰とも思える還元が行われていたこともあった。



 この過熱する新規ユーザー優遇を、総務省は問題視した。そのときの総務省のロジックは「大手キャリアは長期ユーザーに対して公平でない扱いをしている」というものだった。ユーザーが毎月支払っている通信料を値引きの原資としているが、この原資を通信料金の低減やサービス拡充に充てるべきところ、新規ユーザーの獲得に費やしている。この還元を減らせば、通信料金を値下げできるのではないか、という理屈だ。



 新規契約者への過剰な優遇は、セット販売での割引を規制すれば解消できる。そう考えた総務省は2020年10月、「通信と端末の分離」の方針を携帯業界の販売ガイドラインとして法制化した。大手キャリアと販売店への実質的な規制を課したかたちだ。



 この規制は「回線契約を条件とした端末の割引は、上限2万円まで」というものだった。通信契約をセットとする場合、2万円以上の値引きはできない――はずだった。



 しかしこれには例外があった。「回線契約を伴わない場合は、値引き額に制限はない」というものだ。回線契約を条件としない場合なら、2万円以上の値引きでも許容されている。これは家電製品のように“型落ち”の製品をメーカーが自主的に値下げする場合などに妨げとならないように定められている。



 大手キャリアは「回線契約なしでも値引きし、回線契約があれば割引を上乗せする」という販売手法を編み出した。これが今回のiPhone SEの“一括10円”のスキームだ。



●販売側にはメリットなし



 この値引き販売は、販売代理店の立場から見ると、新たな課題を引き起こしている。大手携帯電話キャリアのショップ店員に、匿名を条件で実情を聞いた。



 店員の証言によると、iPhone SEの販売の値引きはキャリア側が主導するものであるという。キャンペーンは土日を中心に実施されており、値引きの原資は大手キャリアが負担する。対象機種はいくつかあるが、iPhone SEは特に好調な売れ行きだという。



 一方で、端末単体購入は、販売店側にはほとんど利益がない販売形態となっている実情もある。



 一般的に、携帯電話販売店は仕入れ値とほぼ同等の価格でスマートフォンを販売しており、スマホを売るだけでは収益はほとんど得られないとされる。販売店の重要な収益源は、回線契約の獲得や端末を販売した数に応じて、携帯キャリアが支払う販売奨励金だ。



 回線契約なしの端末単体購入で販売した場合は、契約数に応じて支払われ、大手キャリア側の販売奨励金の対象外となり、販売実績としてもカウントされないという。端末単体での利益はほとんどないため、利益を生むことなく在庫が減り、販売時の接客応対の負担だけが残る形となるという。



 ただし、端末単体購入を希望する購入者は多くはないという。多くの来店者は新規契約や機種変更などで購入していく。そもそも「キャリアショップで回線契約なしで購入できる」ということ自体が認知されていないからだ。端末単体での販売は携帯キャリア側にとってはメリットがなく、CMや店頭などで大きく訴求されることもない。



 その状況が、新たなゆがみを引き起こしている。話を聞いた店員が務める店舗では、端末単体での購入を希望する客はほとんどおらず、多くの来店者は新規契約や機種変更などで購入していく。一方で、単体購入を希望していく客はもっぱら「転売目的と思われる人」だという。



 この販売条件では、端末単体で購入して、他のキャリアで使う人が増えると成り立たなくなる。しかし、実際には回線契約を伴わない購入者は多くはない。転売目的の人など、情報収集に積極的な人だけが利用しているというわけだ。



●値引き規制が生んだ新たなゆがみ



 iPhone SEの不思議な値引きのカラクリをひもとくと、「知っている人だけが得する」という従来の携帯電話販売制度の性質がそのまま引き継がれていることが分かる。



 この不公平な構図は、かつて総務省が「同じデータ通信容量等のプランであるにもかかわらず、購入する端末によって通信料金が異なるという不公平や、通信料金の割引等が特定の端末の利用者に限定されるという不公平があること」(モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言(案)※PDF)と問題視したものとうり二つに見える。



 もっとも、大手キャリアの端末が回線契約なしで購入可能となったことで、消費者にとっては自由に選択できる余地ができたのもまた事実だろう。



 そして、新しい市場環境に適応する動きがあるのも徐々に現れつつある。例えば、大手キャリアがオンライン専用で割安な料金プランを発表したり、端末の単体購入時も有料補償サービスが利用できるように改定したりといった動きがある。



 さらに、MVNOであり販売代理店でもあるイオンがキャリア端末と自社MVNOのセット販売を展開した例のように、端末単体購入制度を戦略的に活用する動きもでてきている。



 一方で、以前からの販売代理店制度において、新しい環境にそぐわない部分があり、そのしわ寄せが販売の現場に出ている側面があることも指摘すべきだろう。総務省にとっては政策の効果検証が、大手キャリアにとっては販売代理店制度の見直しが求められるだろう。


このニュースに関するつぶやき

  • SEは5万くらいだからiPhoneとしてはエントリーモデルだろうけど、買ってみたけどカメラがエクスペリアのハイエンドの手前くらいの機種より綺麗に印刷できるんだよね。2L版くらいはなめらか。それくらいかな。
    • イイネ!1
    • コメント 1件
  • この記事では触れられていないけど、Docomo、au、Softbankはアップルと一定数のiPhoneを売らないと契約が打ち切られる奴隷契約を結んでいるので、台数稼ぎのためにこれをやっているという事情もあります。
    • イイネ!23
    • コメント 0件

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