『ときめきトゥナイト』市橋なるみはなぜ第2部のヒロインに? その重要な役割を考察

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2021年10月21日 08:01  リアルサウンド

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 「りぼん」で連載されていた異世界ロマンス少女漫画『ときめきトゥナイト』。人間界に住む魔界人の人生を描いた本作は3部作構成で、第1部は少女漫画界屈指の絶対的ヒロインの江藤蘭世、第2部は江藤蘭世の弟 江藤鈴世のガールフレンドである市橋なるみ、第3部は真壁(江藤)蘭世と真壁俊の娘である真壁愛良が主役となっています。 


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 本シリーズのオリジナルを牽引した江藤蘭世が少女漫画を代表する伝説の存在であることは、すでに過去のコラムで何度か触れました。そんなヒロインの後をついだのは、魔界人でなく、単なる人間の少女でした。市橋なるみは幼い頃に重い心臓病を患って入院していたところ、そこに訪れた江藤鈴世と知り合って意気投合し、恋仲に。このエピソード以降、目立った展開はなく、おとなしいガールフレンドの位置付けでしかありませんでした。


 そんな市橋なるみが、なぜヒロインに抜擢されたのか? 彼女は『ときめきトゥナイト』ユニバースにどんな空気を送り込んだのかーー。今回は、オリジナルのファンからバッシングを受けた不遇なヒロインを掘り下げたいと思います。


■大人の事情でスポットライトがあたった


 『ときめきトゥナイト』の第2部が始まったのは、大人の事情があったからだそうです(「ときめきまんが道 ―池野恋40周年本― 下」参照)。蘭世と俊の物語を描き終えた池野恋先生に「続編を」と連絡が入りました。先生は鈴世を主役にした物語を提案したのですが、読者の大半が少女であり、鈴世には共感できないだろうと却下されてしまいます。そこで生まれたのが、なるみ主役案でした。


 ところが冒頭で触れた通り、市橋なるみは主役として物語を引っ張る性格をしていません。そこで、池野恋先生は、市橋なるみが幼い頃、死の間際に死神ジョルジュの手によって魂の手術を受けていたことを思い出しました。彼女は、「殺しても死なない」と言われた神谷曜子の魂の一部を体内に取り込んだことで命を繋いだのです。臓器移植した人が、臓器の持ち主の記憶や性格を受け継ぐことがあることから、市橋なるみが神谷曜子の元気で活発な性格を一部受け継いだ可能性があるのではと、第2部連載開始時になるみの性格を活発に方向転換したそうなのです。


■歓迎されないヒロイン


 蘭世と俊の結婚式で幕を開けたなるみ編ですが、ファンからは辛辣な言葉がかけられたそうです。ファンにとって「ときめき」=蘭世だからということもありますが、彼女が共感されにくいヒロインだからという面も否めません。


 というのも、読者の大半が恋心というものを理解し始めたばかりといった年齢の少女にもかかわらず、市橋なるみはすでに鈴世と両思いで、恋を成就させるまでのドキドキハラハラを読者と一緒に経験していくことができないのです。


 また、彼女には主役としての華やかさが不足しています。サブキャラとして生まれた市橋なるみは、名前からしてしっかりと練られた印象がありません。江藤蘭世の場合、フランス語のエトランゼという「異国の人」や「旅人」という意味からきていますし、彼女の永遠のライバル 神谷曜子ですら、声優 神谷明氏の神谷と曜の字を使いたかったという池野恋先生の思いが込められているのです。


 学校でもどちらかというと地味キャラで、むしろ注目されるのは彼氏である鈴世。乱暴な言い方をして仕舞えば「学園のアイドル 江藤鈴世が選んだ地味な女」が市橋なるみなのです。


■人間と魔界人の違いを強調させる


 しかし、彼女には重要な役割がありました。それが、人間界に住む魔界人を受け入れ、人間視点で魔界人を語ること。魔界人の能力や行動、人間界で暮らしていく上での工夫や苦労を人間の第三者がキャプチャーして読者に届けているのです。周囲に魔界人がいるからこそ発生する問題も、彼女が客観的に伝えています。


 例えば、トップアイドルの安西二葉が転入してきて、鈴世に思いを寄せるようになります。二葉はアイドルでありながら恋心を隠さずオープンにするタイプだったため、鈴世は瞬く間にマスコミに注目されるように。その結果、鈴世の秘密が暴露され、江藤家は人間界を去らざるをえなくなります。なるみはどうすることもできず、ただひたすら状況を見守り、待つしかありません。人間と魔界人の埋めようにも埋められない差を強調する上でも、非常に重要なキャラクターなのです。


 また、人間と魔界人の恋愛を成就させるために、乗り越えなければならない課題を掘り下げたのもなるみでした。この件に関しては蘭世編でも語られていますが、永遠の命を持つ魔界人と命に限りのある人間では共に時を重ねることができないため、人間が魔界人になるか、別れるかの選択を迫られることになるのです。


 蘭世と鈴世の母親である狼女のシーラは、子どもたちが人間に恋することに反対していました。魔界人としての血を絶やしてしまう可能性があるだけでなく、子どもたちが傷つくことを恐れていたからです。そして、鈴世はなるみと共に生きることを選び、シーラが恐れていた決断を下してしまいます。


 どうしようもない状況だったとはいえ、結果的に鈴世に大きな決断を下させるきっかけとなったなるみは、その先、責任と重圧を背負いながら生きるのです。番外編の「星のゆくえ(江藤家編)」では鈴世は再び魔界人に戻った可能性が示唆されていますが、なるみは人間のままのはず。これからも魔界人と人間が共に生きる苦労を描くキーマンとして、物語に深みと新たな視点を与えてくれるはず。


 市橋なるみは大切な江藤家の一員として、『ときめきトゥナイト それから』にも登場しています。蘭世との絡みもすでに出てきているので、これからも活躍していく姿を見られることでしょう。


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