BTSを生んだ韓国の壮絶な競争社会 「努力、努力」と「レベルが違う」パフォーマンス

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2021年10月22日 11:30  AERA dot.

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写真BTSは国連総会特別イベント「SDGモーメント」に出席、若い世代に向けて未来への希望を訴えた。(写真左から V、SUGA、JIN、RM、JUNG KOOK、JIMIN、J−HOPE)photo:gettyimages
BTSは国連総会特別イベント「SDGモーメント」に出席、若い世代に向けて未来への希望を訴えた。(写真左から V、SUGA、JIN、RM、JUNG KOOK、JIMIN、J−HOPE)photo:gettyimages
 世界を席巻する人気グループBTS。ファンは彼らについて「努力、努力で有名」だと話すが、その背景には韓国の熾烈な競争社会がある。AERA 2021年10月25日号から。


【写真の続き】国連総会でスピーチとパフォーマンスを行ったBTS
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 3048万回。BTS(防弾少年団)が9月20日朝に米ニューヨークの国連総会特別イベントで行った記念演説とパフォーマンスの、10月13日現在でのユーチューブ再生回数だ。


 米ワシントン近郊に住む30代のコリアンアメリカン(韓国系米国人)男性は、演説直後の夜、このユーチューブを何度か再生した。「再生するたび、爆発的に回数が伸びていた。周囲の米国人でBTSを知らない人は誰もいない」と語る。


 米メディアは演説の内容を次々に報道。ABCテレビは、BTSと文在寅韓国大統領をスタジオに招いてインタビューを行った。米フォックスニュースは10月3日、BTSが国連児童基金(ユニセフ)と提携した4年間で、360万ドル(約4億円)と何百万ものツイートを獲得したと報じた。BTSと所属事務所はユニセフとのパートナーシップを結び、2017年11月から韓国で「LOVE MYSELF」(私自身を愛そう)キャンペーンを展開してきた。あまりの反響に、韓国野党から「文在寅政権がBTSを政治外交ショーに利用した」というやっかみの声まで上がったほどだ。


■勉強にもスポーツにも熾烈な競争がある


 BTSは今回、若い世代に新型コロナウイルスのワクチン接種を呼びかけた。都内の私立高校に通う男子生徒(16)は、「国連という世界的な場所で、自分の好きなグループが自分に近い考えを語ってくれて感動した」と話す。都立高校に通う女子生徒(16)は9月20日夜、ユーチューブのライブ中継を見ていた。「バンタン(BTS)のパフォーマンスが終わった瞬間、視聴者の数が3分の1くらいになってびっくりした。それくらいの影響力。国連でスピーチした意味があったなと感じた。若者に人気があるグローバルスターがワクチンを打っていて、さらに勧められたら打つしかない」と話す。




 この生徒にBTSの魅力を尋ねると、「グク(JUNG KOOK)とテテ(V)の圧倒的ビジュアル」「ホソク(J−HOPE)とJIMINの人を惹きつける圧倒的なダンス。基礎がありすぎてレベルが違う」と、立て板に水を流すように答えてくれた。そして「やっぱり、何より、努力、努力で有名なのがバンタンだから」と話す。


「努力」の意味は、韓国と日本では天と地ほども違う。韓国では勉強、スポーツ、芸能など、あらゆる世界が競争の場と化している。小学校高学年になれば夜10時くらいまでの学院(塾)通いは当たり前。多くの自治体が「深夜11時から朝6時まで塾の営業禁止」という条例を設けているほどだ。韓国統計庁によれば、韓国の高校生の1日の平均課外学習時間は8時間以上にも及ぶ。BTSのリーダーRMも母親が熱心に語学教育を施した結果、ネイティブ並みの英語力を身につけたという。


 スポーツも、日本のような「学校教育の一環」「生涯スポーツ」という文化はない。運動部は一握りのエリートが、プロを目指して切磋琢磨する場になっている。


 2010年3月、日本の文部科学省関係者が韓国を視察した。同年のバンクーバー冬季五輪で韓国チームが金メダル6個などの好成績を収めたからだ。だが、関係者は「とても日本では真似ができない」とため息をついた。韓国が五輪メダリストらに最高月額100万ウォン(約10万円)の生涯年金を支給するなどしていたからだ。


 そんな競争文化を芸能分野に持ち込めばどうなるか。筆者は10年ほど前、当時最も勢いがあった4人組女性グループ「SISTAR」が所属する「STARSHIPエンターテインメント」を取材する機会があった。当時、この事務所には中学1年生から21歳までの男女15人の練習生が、合宿所と呼ばれるアパートで共同生活を送りながら、デビューの日を待ち続けていた。学校が終わるとダンスや歌の練習を午前零時ごろまで続ける。納得できなければ朝までやる。休みは平均で月1回ほどだという。それでも、デビューできずに事務所を去る子も大勢いる。デビューしても、成功するとは限らない。当時の事務所関係者は「芸能界で成功する確率は1%にも満たないかもしれない」と語っていた。



■韓国のソフトパワーは米韓関係にも影響


 こうした徹底した管理によるスター育成方法は「インキュベイティング・システム(孵化装置)」と呼ばれる。まさに、学校教育の1年から2年先を教える学院(塾)や、韓国エリートスポーツ制度そっくりだ。BTSの「レベルが違う」ダンスもこうした苦労の賜物と言える。


 そして、K−POPは、海外市場を大切に扱ってきた。韓国大手紙の芸能担当記者は、その理由について「韓国市場は小さいし、国内の競争も激しいからだ」と語る。


 この記者によれば、重要な海外市場は日本、中国、タイを中心とした東南アジア諸国になるという。


 中国には巨大な市場がある。日本人は「一度ファンになると10年間は裏切らない」と言われるほど忠誠心が高く、CDやコンサートの関連グッズの売り上げも大きい。東南アジアの若い世代はソーシャルメディアでの貢献度が高い。BTSも数年前までは、ユーチューブの再生回数の多くを東南アジアの人々に頼っていた。


 このため、韓国の各芸能事務所は競うように練習生に英語や日本語、中国語を学ばせている。BTSは元々、RM以外のメンバーは外国語に堪能ではなかった。数年前、米国のテレビに出演した際、ほとんどRMだけが発言していたほどだ。


 しかし、BTSの成功で、韓国の各芸能事務所の「外国語熱」が更に過熱したことは間違いない。日本人や中国人、タイ人らのメンバーを加えているK−POPグループもある。


 こうした海外戦略に支えられ、韓流文化は世界を席巻している。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が10月5日に開いたオンラインセミナーでは、BTSのほか、世界中で大ヒットしているNetflixのオリジナル韓国ドラマ「イカゲーム」や、昨年のアカデミー作品賞や監督賞などを獲得した映画「パラサイト 半地下の家族」が話題になった。セミナーに出席したクリントン政権で国防次官補を務めたハーバード大学のジョセフ・ナイ特別功労教授は、「韓国のソフトパワーは米韓関係や金正恩(朝鮮労働党総書記)にも影響を及ぼすだろう」とまで語った。(朝日新聞記者・牧野愛博)

※AERA 2021年10月25日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • 兵役免除特例がでるかもしれないから必死。
    • イイネ!1
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  • 国連ってパフォーマンスを見せる場じゃないはずなんだけどなぁ。そういうことも言えないで持ち上げてるバカがこの人たちを勘違いさせているのではないので?
    • イイネ!22
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