大分の公立高からハーバード「首席卒業」廣津留すみれが語る海外大のリアル 「東京の私大より学費安い」

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2021年10月24日 10:00  AERA dot.

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写真廣津留すみれさん(撮影/戸嶋日菜乃)
廣津留すみれさん(撮影/戸嶋日菜乃)
 塾ナシ、留学経験ナシで大分の公立高校から米・ハーバード大学に現役合格した日本人女性がいる。バイオリニストの廣津留すみれさん(28)は、高校卒業後アメリカにわたり、ハーバード大を首席で卒業。さらに音楽の名門・ジュリアード音楽院に進んだ。日本から海外大に進学するために必要なものとはなにか。また海外大での生活はどのようなものなのか。話を聞いた。


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――ハーバード大学を目指そうと思ったきっかけは何ですか。


 高校2年の春、バイオリンの国際音楽コンクールに優勝して獲得した全米演奏ツアー中に、軽い気持ちでハーバード大のキャンパスツアーに立ち寄りました。そもそもハーバードって本当にあるんだ、から始まりましたね。現役生が学内をガイドしてくれましたが、演劇でもスポーツでも、課外活動に学業と同じくらいの熱量を注いでいると聞いて、学業とバイオリンの両立が目標だった私は、ここに入ったらめちゃくちゃ幸せだろうなと思いました。


■「え?あのハーバードですか?」


――すぐにハーバードを受験しようと決めたのですか?


 大分の普通の高校生からしたら、ハーバードなんてありえるのかなと思っていました。でも調べてみるとアメリカに行かずとも受験ができるのが分かり、目指してみようかなと。家族は、いいんじゃない?という反応でしたが、先生はもうびっくりして、三者面談では「え?あのハーバードですか?」と。通っていたのは進学校でしたが、あまりにも前例がない話。地方の公立高校では、海外に進学する人すらいませんでした。


―――地方からハーバードを目指すのに、苦労はありませんでしたか。 


 ハーバード大学入学後に、首都圏の有名高校出身の仲間に受験時の話を聞いてはじめて、地方にいたことのハンデがあったことを実感しましたね。首都圏だと受験のための情報が日常的に手に入るし、先輩の経験の積み重ねがあって、全く環境が違うなと。私の場合は、先生に書いてもらう推薦状も、「推薦状とはどういうものか」というところから説明しないといけなかったので。でも、情報がなかったのが逆に良かった部分もあるかもしれません。海外への恐怖や先入観など、情報の多さに迷うこともありませんでしたから。




――受験勉強では何に力を入れましたか?


 とにかく英単語を覚えました。受験には2万語レベルの単語数が必要なので、SAT(アメリカの大学進学適性試験)の過去問集に載っていた単語リストを常に持ち歩いて、5分単位のすきま時間を使って勉強しました。アメリカの過去問集だと意味も英語で書いてある。翻訳しにくいものも出てくるので、基本は英語で理解してときどき日本語を書き加える方式にしていました。 


 試験には小論文もあるのですが、これで完成というゴールがないし、英語で書くので、それはもう修正の繰り返しでしたね。ハーバード生の論文集をアメリカから取り寄せて読んでもみましたが、“多くの国にルーツを持つ自分のアイデンティティー”というような内容が多く、私には参考にならず、トピックを選ぶのも大変でした。結局、自分の存在をアピールすることに徹しました。


■終始「雑談」のようだった面接試験


――合格するためには何が必要だと思いますか。


 受験には面接試験もありまして、私の時はスカイプで受けました。かたくるしい雰囲気ではなく、終始雑談のような感じで、「人間力」が見られているのかなと思いました。


 高校まで勉強だけやってきた、という人は多分難しいと思うんですよ。勉強以外で何にパッションがあるの? みたいなところがすごく重要視されるので。ゲームでも昆虫採集でも、何か熱中したものが存在するといいと思います。


――入学後、国籍の違う相手との共同生活で、友達との関係はどう築きましたか?


 ハーバードの学生はほぼ全員寮生活で、1年生は食事も同じ食堂です。入学直前にはオリエンテーションがあり、学校側が率先して友達づくりの場を設けてくれました。孤独になる暇がないというか。そもそも勉強するときはひとりなので、自分だけの時間がほしいとも思いませんでした。私は15人ほどの寮で、フランス系とインド系のアメリカ人の学生との3人部屋でしたが、ドアは開けっ放しで自由に行き来できました。タブーな話題も全然なくて、いい意味でカルチャーショックでしたね。政治の話も宗教の話も話せるのは発見でした。地雷を踏んだらどうしようと身構えていましたが、なんでもオープンに話したほうがみんなにとってハッピーじゃないかって考える人ばかり。




 日本人はみんなが笑っているから笑っておこうって愛想よくふるまいがちで、私も最初はそうでした。でもそうすると、「すみれちゃんずっと笑ってるけど大丈夫?」と心配されてしまう。本音の突っ込んだ意見を言った方が信頼されることがわかって、だんだん変われた感じがします。


■「挙手に慣れていない日本人」を先生が手厚くケア


――授業では言葉の壁はありましたか?


 先生の早口は分からないし、予習もめちゃくちゃ苦労しました。でも先生たちがメールや授業内で手厚くケアしてくれたので救われました。先生は様々な国の学生を相手にしているので、日本人が授業中の挙手に慣れていないということも分かっていて、授業の前に、「この質問であなたを当てるから意見を言ってね」と練習させてくれるんですよ。15人程度の少人数授業が必ずあるから、何か問題があったら気づいてもらえます。「学生が落第するのは先生の責任だ」というカルチャーがあり、先生も職を失う可能性があるからか、勉強面でも周りの学生の脱落は聞きませんでした。


――忙しくて「睡眠を犠牲にした」ということですが、どのような生活スタイルだったのでしょうか?


 食堂も図書館も24時間オープン。夜10時に行ってもみんな勉強していて、朝5時に帰ろうとしても、まだほかの人がいる。課題の量も多くて常に4〜5本の宿題を抱えながら、複数の課外活動を掛け持ちしてと、まるでテトリスのブロックを次々積んでいくようにスケジュールを埋め、こなしていました。でもハーバードでは誰もが同じ状況だったので苦には思いませんでしたね。平日は寝る時間がなく、しかも金曜や土曜の夜には学生や大学主催の社交パーティーがあります。社交も非常に大事でした。今思えば、将来のリーダー候補同士の人脈作り、という意図が大学側にはあったのかもしれません。隣にいる人がいつ国連の大使や大統領になるかわかりませんから。


――学費がネックで海外大を断念する学生もいるといいます。生活費などのお金事情は?


 奨学金制度が充実しているハーバードは、学費や食費、寮費も込みで、家庭の収入に応じて正規の学費の何%を支払えばOKですよという仕組みでした。私の場合、大分から東京の私立大学に入って一人暮らしをするよりも、ずっと安かったと思います。仲の良い友人の家庭はシングルマザーで兄弟も多く経済的に厳しかったので、全て無料だったそうです。




 学生の活動への補助も充実していて、「日本でインターンをやりたい」と言うと往復の飛行機代を、冬休みに「他の国で実地調査をしたい」と言えば宿泊代を出してくれる。とにかく熱意を伝えれば援助してくれるという制度が整っていました。特にアイビーリーグ(アメリカの8つの名門私立大)では、経済的に成功した卒業生たちがその時の恩を寄付金で還元するというシステムができています。卒業翌日には私の元にも、寄付をお願いするメールが届きました。しかも「あなたのいた寮に新入生が入りましたよ」みたいなパーソナライズされたメールがくるんですよ。寄付したくなるじゃないですか。すごく上手なんです。


■環境をどう生かすかは個人にかかっている


――海外大の制度や学生生活は、理想を現実が超えていた、ということですね。


 そうですね。でも、この環境をどう生かすかは、個人にかかっているかもしれません。勉強だけを目標にするとちょっとよくないかもしれない。私は学業と別に、バイオリンという熱中できるものがあった。大学関連の様々な場面で演奏の機会を得て、それが世界的チェリストのヨーヨー・マの関係者の目に留まって共演につながりました。音楽を社会貢献のツールとしているヨーヨー・マとの出会いのおかげで、バイオリニストという道を極めたいと思うようになったんです。私の場合はバイオリンでしたが、これがスポーツの人もいる。自分が一番だと思える分野を、1学年1600人みんなが何かしら持っていると思うんですよ。在学中のどこかで、私はこれをやるんだと実感する瞬間があるんじゃないかな。


――アメリカの大学での経験から、日本の大学が変わるべきところがあるとすれば何だと思いますか?


 質問力を生かす環境ではないでしょうか。アメリカの授業では質問をしない=出席したことにならないと捉えられるので、みんなひたすら質問したがるんです。日本でも、授業をさえぎってでも質問するような人がもっと増えていい。何十年と同じ内容の授業をしている先生がいるとも言われますが、そういう環境になると、先生も学生の質問に答えるために自分をアップデートするようになると思うんですよね。私はいま成蹊大学と国際教養大学で授業を受け持っていますが、最初に、「ここはセーフスペースだから何を意見しても大丈夫よ」と言ってから始めるようにしています。




――海外大を目指す学生に、日本で準備しておいたほうがよいこと、メッセージは?


 よく言われることですが、日本のことをもっと知っておくことだと思います。私が1年生のときにアメリカではオバマが大統領に選ばれたんですが、決まった瞬間、それぞれの寮から叫び声が聞こえて、走り回っている人もいたんですよ。あまりに嬉しくて。みんな18歳で初めて得た選挙権、しかも黒人初の大統領が生まれた歴史的瞬間。そんなときにも、アメリカと日本の選挙の仕組みの違いなど、政治のシステムをもう少し分かっていたら、もっと濃いディスカッションができたのになと思います。


 また、海外の大学に行きたいと言ったら反対する親御さんもいると思います。ハーバードより東大、と考える先生もいるかもしれません。私も高校の先生から東大の試験も受けるように言われたのですが、自分の意志で決めてよかったと思っています。海外大を目指す高校生の方には、大人の言うことを聞くな、ということをメッセージとして伝えてもいいかもしれません。 


(中村さやか) 


〇廣津留すみれ/ひろつる・すみれ
バイオリニスト、成蹊大学客員講師・国際教養大学非常勤講師。1993年、大分市生まれ。2016年にハーバード大学(学士課程)、2018年にジュリアード音楽院(修士課程)をいずれも首席で卒業。世界的チェリスト、ヨーヨー・マとの共演のほか、ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズの演奏・録音などを担当。テレビの情報番組にコメンテーターとして出演も。著書に『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)など。






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