横浜F・マリノスの前田大然「自分はうまい選手じゃない」。驚異のスピードで走り続ける理由

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2021年10月24日 16:22  webスポルティーバ

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 川崎フロンターレと首位争いを演じ、逆転優勝を目指す横浜F・マリノス。

 そのチームにあってゴールを量産し、レアンドロ・ダミアン(川崎フロンターレ)と得点王争いをしているのが前田大然である。F・マリノスに移籍して2年目、東京五輪にも出場した若きストライカーは、個人の記録よりも「チームの勝利」を優先し、攻守に労を惜しまず走り続ける。

 前田のすごさは、まず50mを5秒台前半でかける圧倒的なスピードとスプリントの回数だ。

 初速からトップスピードに入るまでの時間が短く、フォームにもムダがない。あの走りは、どこから生まれてきたのだろうか。

「子どもの頃から足は速かったです。2位とかとった記憶がないぐらい、ずっと1位でした。たぶん、両親がスポーツ万能だったので、その遺伝もあったのだと思います。実際、父はまぁまぁ足が速かったです。でも、僕が保育園の頃には父に走りで勝っていました(笑)」

 スピードは100mの陸上選手を目指せるほどだったが、ボールを追いかけながら走るサッカーを始めた。走り方は、誰かに指導を受けたことがなく、フォームは自己流。暑さのなかでもスピードがまったく落ちない。

「1年中、夏でも走れるのが自分の持ち味ですけど、その体力やスピードはたぶん子どもの頃に培われたのだと思います。僕が通っていた大阪の太子町の保育園は、『ここは大阪なんか?』というぐらいめちゃくちゃ自然なところだったんです。そのなかで靴を履かず、裸足で走り回ったり、山に登ったりしていました。それが今の自分のベースになっているのかなと思います」

 まるで野生児のようだが、自然環境で育まれた走力と体力が前田のプレーのベースになっている。実際、その特徴は数字からも見てとれる。Jリーグはスプリント回数という、1試合で時速24km以上で1秒以上ダッシュした回数のデータをとっている。前田は、1試合64回というスプリント回数トップの記録を持つ。10位内で言うと4位の古橋亨梧(ヴィッセル神戸/現セルティックス)、7位の小泉慶(サガン鳥栖)以外は、すべて前田の名前で占められている(10月22日現在)。

「スプリントの回数は、最初は意識していませんでしたが、サポーターからJリーグ公式のスプリント回数のデータが送られてきたんですよ。それを見てからですね。今は、どうせなら10位まで全部、自分の名前で埋めたいと思っています」

 外見の特徴でいえば、スキンヘッド、整えられたヒゲもアイコンになっている。

「頭は、以前は試合の前日に剃っていましたけど、今は2日に1回、かみそりで剃っています。ヒゲも整えていますし、足も脱毛しています。肌は年とってんなぁと言われるけど、けっこういい化粧水を使ってケアしています。匂いも気になるので、いい香りをつけていますね。もともと自分はきれいに見せたいというのがあるので、美意識は高いと思います」

 サッカーも自分を魅せるところにも手抜きはない。前田らしいこだわりである。

 スプリントの回数に見られるように、前田のプレーは、スピードとフィジカルが生命線だ。それは他チームに警戒され、相手は対策を講じてくるようになった。

 だが、相手の脅威となる存在になるまで、前田は順風満帆できたわけではない。山梨学院高校時代にスピードを活かしてゴールを量産し、松本山雅FCに入団した。ところがチームでは自分のよさを活かせず、1年目は9試合無得点という結果に終わった。翌年、水戸ホーリーホックに移籍し、西ヶ谷隆之監督の下でプレーした。

「水戸への移籍は大きかったです。そこで、自分は初めて試合に出ることの楽しさ、厳しさ、いろんなことを感じることができた。監督には感謝しかないですね。僕より試合に出てもいい選手がいるなか、自分を成長させるために我慢強く、試合に出していただきました」

 水戸で試合に出て実戦経験を積めたことは大きかった。だが、一番の収穫は、自分のよさを再認識し、ストライカーとしての自信を取り戻せたことだった。

「高校の時はたくさんゴールを決めていたけど、プロ1年目は点がとれなくなったんです。ゴールの嗅覚はあるはずなのに、それを出せなくて......。水戸で点がとれるようになって、自分はこういうスタイルの選手だと再認識できました。小学校の時から独自の得点パターンで点をとってきましたが、それが自分の持ち味なんだというのを改めて感じることができたので、それはすごく大きかったですね」

 水戸というチーム、そして西ヶ谷監督との出会いが前田を成長させてくれた。人との出会いで人生が変わることはアスリートの場合よくあることだ。前田がプロサッカー選手として結果を出すべく日々努力しているのは、そうした人への感謝の気持ちを忘れずにいるからでもある。

「今の自分があるのは、いろんな人の支えがあるからだと思います。特に家族の存在はすごく大きいですね。自分は嫁さんだけではなく、両親にたくさん迷惑をかけてきた。特に、母はだいぶ泣かせたというか、僕のために涙を流してきているし、ずっと応援してくれてきた。そこに対してはもう感謝ですね。僕は、両親だけではなく、嫁さんや子供はもちろん、自分に関わる人はみんな家族だと思っているので、そこはこれからも大事にしていかないといけないと思っています」

 前田を応援してくれる人たちに恩返しをするには、活躍して、結果を出すことが一番だ。リーグ戦では現在、18点をとり(10月22日現在)、得点ランキングはトップ。第24節の大分トリニータ戦では、ハットトリックを決め、その後もコンスタントに得点を奪っている。

「自分としては、まだまだですね。たくさんチャンスがありましたし、もっといろんなパターンで点をとれるシーンがあったんですけど、そこで決められなかった。外したあとは、あまり考えないようにしていますけど、悪夢がよぎることがあるので、いかに最初のチャンスで決められるかですね。自分は、そこを大事にしています」

 自分がシュートを外しても誰かが点をとってチームが勝てば、気持ちはラクだが、自分が外して負けてしまうと、さすがに引きずることもある。

シーズンの序盤はセンターFWとしてゴールに近いところでプレーし、シュートチャンスは多かった。今は左サイドが主戦場となり、ゴールを狙いつつ、チャンスメイクの仕事もある。

「ゴールを狙うには遠いなというのは感じますけど、与えられた場所で結果を出すのがプロ。今は、自分がやりやすいようにやろうというのを意識しています。相手のマークもキツくなっていますけど、それはゴールをとっているからだと思っています。そのなかでどれくらいできるか。それが自分の試練であり、勝負だなと思っています」

 前田のよさは、スピードを活かした裏抜けのタイミングやゴール感覚だけではない。スプリントでのチェイシングやプレスバックも持ち味になっている。

「守備は、意識するというよりも当たり前ですね。『自分のよさって何?』と聞かれたらチームのために走ること、がむしゃらにやること。それをなくしたら自分は終わりやと思っています。自分はうまい選手じゃないので、常に一生懸命にやらないとうまい選手にかなわないですからね」

 自分のプレーヤーとして価値を過大評価せず、現実を見て、やれることを最大限にやる。簡単そうに見えて、なかなかできないことだ。

「自分は現実を見ています。それは昔からなんですよ。自分はバーンって一気に上にあがっていくのは無理なんです。ひとつひとつ、目の前のことをこなしていく。それができるのが強みだと思っています」

 スピードが特徴ゆえに、成長の段階もかけ足で上がっていくタイプかと思ったが、一歩ずつ前に進んでいく姿勢は、リアリストで慎重な前田らしい。成長のために欠かせないもののひとつが国際舞台での経験だろう。東京五輪ではU―24 日本代表として戦ったが、このあとの日本代表、そしてカタールW杯はどう考えているのだろうか。

「五輪もそうでしたが、W杯も出たいというよりも、ひとつひとつ成長していった過程にあるものだと思うんです。だから今は、代表は見ていないですね。F・マリノスの優勝しか見ていないですし、そのために結果を出すことしか考えていない。それができた先に代表やW杯が見えてくると思います」

 今は、F・マリノス優勝のために、ゴールを奪って勝たせることしか考えていない。前田らしい男気に満ちた言葉だ。このままゴールをコンスタントに決め続け、チームが勝ち続けていけば、最終節の川崎戦で何かが起こるかもしれない。

「僕が点をとって勝って、最終的に優勝するのが理想的ですね」

 優勝を決めるゴールパフォーマンスは、娘のためにアンパンマンシリーズになりそうだ。

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