「居酒屋で情報交換する?」“刑事ドラマあるある”の真偽を調査すると、生々しい実話が

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2021年10月24日 21:10  週刊女性PRIME

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写真イラスト/クロキタダユキ
イラスト/クロキタダユキ

 今や1クールに必ずひとつはあるといっても過言ではないのが刑事ドラマ。10月からのクールは、『相棒 season20』(テレビ朝日系)、『らせんの迷宮〜DNA科学捜査〜』(テレビ東京系)が放送され、前クールも『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)と、刑事モノは定番として多くの作品が制作されている。

 振り返れば、'60年代の『キイハンター』(日本テレビ系)、'70年代の『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)、'80年代の『西部警察』(テレビ朝日系)や『あぶない刑事』(日本テレビ系)などなど枚挙にいとまがなく、刑事ドラマはいつの時代も放送されている。

“取り調べ中にカツ丼を食べる”
行為は現在NG

 裏を返せば、何十年と同じ素材を扱っているわけで、キリがないほどこすられている──はずなのに、いまだに新しい刑事ドラマが登場しているのだ。一方、これだけ繰り返し扱われているということは、当然、ありがちなシーン、すなわち“刑事ドラマあるある”も豊富だ。

 例えば、ひと昔前の刑事ドラマの定番シーン「犯人が取り調べ中にカツ丼を食べる」。40代以上であれば1度は見たことがある“あるある”だが、実はこの行為、今では警察内でNGになっていることをご存じだろうか?

「カツ丼を提供したことによって自白を誘導した……つまり、利益供与と見なされるため、カツ丼はおろか、缶コーヒーやタバコなどの提供も禁止になりました」

 こう説明するのは、元警視庁刑事で警察ジャーナリストの北芝健さん。現在の刑事ドラマで取調室のシーンが殺風景なのは理由があるという。

「そもそも食事の提供は、留置管理課の管轄になります。以前は、刑事課が食事を提供していたのですが、医薬分業のように刑事の世界にも分業の波が押し寄せ、飲食に関しては留置管理課員(看守など)が担当するように。

 ちなみに、昔は実際に取調室でカツ丼を出すことが珍しくなかったので、昔の刑事ドラマでカツ丼が出てくるのはウソではありません(笑)」(北芝さん)

 このように、“あるある”のシーンが時代とともに変化するパターンもある。同様に、往年の刑事ドラマでちょくちょく見かけた「ガサ入れで発見した粉をなめて、刑事が“シャブだな”とつぶやく」シーンも時代の波に淘汰された“あるある”の代表例だ。

「本来であれば、鑑識が白い粉に液体をたらし、アヘン系なら赤色、覚せい剤だったら青色に変わる試薬という手順を踏みます。刑事がなめる行為は、やってはいけない。しかし、私が警察にいた時代の話になりますが、慣れている刑事の中には、直接なめてしまう人もいました(苦笑)。そういった特殊なケースが、ドラマの中では一般的なシーンとして描かれるケースもありますね」(北芝さん)

 ドラマである以上、映える演出が求められる。結果、実際にはありえないのに、“あるある”としてひとり歩きしてしまうケースが存在する。刑事ドラマは、あくまでフィクションだと割り切って楽しまなければいけない。

ホントに居酒屋に集まる
実は射撃機会が少ない

 一方で、昔も今も変わらず定番シーンとして描かれているシチュエーションもある。その代表格が、「刑事が居酒屋(または小料理店)で話す」というものだ。

 ドラマウォッチャーでコラムニストの吉田潮さんが語る。

「例えば、『特捜9』(テレビ朝日系)は事件を解決すると、メンバーで『一件楽着』という居酒屋で飲むのが定番。前クールに放送されていた天海祐希主演の『緊急取調室』(テレビ朝日系)でも、居酒屋の個室で事件について話していました」

 古くは、眞野あずさ演じる女将が切り盛りする品のよい小料理店で、藤田まことが酒を傾ける『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)などもあるように、刑事がお店で飲酒し、捜査について語るシーンは“あるある”だ。この点を北芝さんは、「普通に飲みますね」とあっけらかんと笑う。

「もちろん守秘義務がありますから、注意は払います。しかし、お酒が入って同僚と意見を交わそうものなら白熱する。“あいつが犯人だ”なんて話に発展してもおかしくない

 また、居酒屋が選ばれるのには理由があるとか。

「私もそうでしたが、ノンキャリア組はお金がないんです。ですから、高い店では飲めない(笑)。大衆的な居酒屋で飲んでいるほうがリアリティーがあると思いますね。ちなみに、公安はホテルの一室などを貸し切って、そこで酒盛りを開いたりします。立場や役職によって、飲む場所が違うんです」(北芝さん)

 刑事ドラマの中でも、忘れてはいけないのが銃撃シーン。犯人と対峙し、「華麗に発砲する」のがお約束だが──。

「ホルスターをはずした後に、拳銃の撃鉄部分にある安全ゴムをはずさなければ発砲できません。ほとんどの刑事ドラマが、安全ゴムをはずす描写をしていない。実際には、あんなに素早くカッコよく撃つことはできませんね」(北芝さん)

 なにより、特殊部隊でもない限り、「躊躇なく撃つことが難しい」と北芝さんがつけ加える。

「みなさんが思っている以上に刑事は射撃をする機会が少ないです。よくドラマで、刑事たちが射撃場で銃を撃つといったシーンがあると思いますが、射撃場を併設する警察署は都内でも限られている。迷いを断ち切るかのように銃を撃っていますが、そんなに簡単に銃は撃てませんし、銃弾も無駄遣いできないため、射撃の機会は1年に1回あればいいほうです」

 一心不乱に的に向かって銃を撃つ刑事に対して、同僚が「無理は禁物だぞ」的な声をかける……そんなシーンは創作だった。なんでも、銃を撃つ機会が少ないがゆえに、感覚を磨くため素性を隠してサバゲーに参加している警察官もいるそう

 では、「子飼いの情報屋がいて、情報を金で買う」シーンはどうか? これも刑事ドラマの十八番だ。前出の吉田さんも、

「今年放送された『密告はうたう』(WOWOW)は、主演の松岡昌宏が、警察内部の不正隠蔽を描く硬派なドラマ。松岡の後輩刑事が囲っている情報屋をアキラ100%が好演していました。お金で動くけど、最後は後輩刑事への恩義で動いたあげくに殺されてしまいましたが」

 と語るように、ドラマの中で刑事と情報屋は、カレーと福神漬けのように定着化しているようにも見える。

「新聞、週刊誌といったメディア関係者をまとめて“聞屋”と言いますが、そういった人たちと情報を交わすケースもあれば、元暴力団員から情報をもらうケースもある。たしかに、情報屋的な存在はいます。ただ、お金を対価にするとは限らない。特に、暴力団関係者などを情報源とする場合、相手の安全を保障するなどもあります」(北芝さん)

 かつては取調室でのやりとりがきっかけで、出所後に情報提供が始まることもあった、と振り返る。

「出所した暴力団員は、親身に話を聞いてくれた刑事や気を遣ってくれた刑事に対して、心を開いたりする。その後、情報を定期的に刑事に伝えるといったことが起こりえました」(北芝さん)

急増した特殊能力系
事実は小説よりも奇なり

 コンプライアンスが叫ばれ、ドラマの表現もずいぶん変わったが、刑事ドラマも然り。だからだろうか、昨今は情報屋がインターネットに通じたハッカー系も少なくない。

「『BORDER』(テレビ朝日系)では、野間口徹と浜野謙太が、天才ハッカー2人組(サイモン&ガーファンクル)として活躍します。そもそも、このドラマは主演の小栗旬が、“死者と対話することができる特殊能力”を持っているドラマ。

 ここ10年は、土着的な刑事ドラマが減り、サイバー系や特殊能力系といった刑事ドラマが“あるある”になっている」(吉田さん)

 そう指摘するように、真木よう子が絶対聴感能力を使う『ボイス』(日本テレビ系)、堀北真希が被害者や加害者の心の声を聞くことができる『ヒガンバナ〜警視庁捜査七課』(日本テレビ系)、クマのぬいぐるみに殉職した刑事の魂が宿る『テディ・ゴー』(フジテレビ系)、阿部寛が異常な嗅覚を駆使して警視庁のコンサルタントとして活躍する『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK)などなど。たしかにトリッキーな設定の刑事ドラマが、“ありがち”になった。

「海外ドラマの『プロファイラー 犯罪心理分析官』あたりから、日本でもプロファイラーものが流行しましたね。鼻につく学者肌や協調性ゼロの変わり者が主人公で、厄介者や鼻つまみが集められる部署という設定が定番。すべてアメリカドラマの二番煎じに見えてしまうのですが」(吉田さん)

 ほかの刑事ドラマと差別化を図るあまり、無茶苦茶な設定をさらに摩耗した結果、とんでもないドラマも生まれた。

「『ダーティ・ママ!』(日本テレビ系)は、忘れることができませんね。主演の永作博美が傍若無人なママさん刑事を演じるのですが、武装ベビーカーに息子をのせて現場にかけつける。新人刑事(香里奈)をベビーシッターとしてこき使うなど、コメディーだとわかっていながらも、突拍子もない展開に白目をむきそうになった」(吉田さん)

 そういえば、若手刑事だった唐沢寿明が爆発で吹っ飛ばされて昏睡状態になるも、30年後に突然意識を取り戻して復職する『THE LAST COP』(日本テレビ系)なんてドラマもあった。この後に、唐沢寿明が日本版ジャック・バウアーになることを考えると、“もしかして伏線だったの!?”などいろいろと勘ぐってしまう。

 念のため、こうした特殊能力を持つ刑事は、本当に存在するのか? 恐る恐る北芝さんに尋ねると……。

「霊感が強い刑事はいます。中には、死体を見るやホトケ(被害者)が犯人を伝えてくるケースもあると聞く。ウソのような本当の話です」

 と、まさかの答え。『BORDER』の設定が、リアルな事件現場で行われているなんて!

 事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだが、北芝さんは「ドラマで描かれている以上に、警察は生々しい話が多い」と教える。定番であろう「いつも同じチームで動く、相棒(バディ)がいる」という一例を挙げて説明する。

「殺人事件が発生し、犯人が捕まっていない場合、特別捜査本部が事件発生地の警察署内に置かれます。周辺から応援として30〜40人の刑事が駆けつけますが、喧々諤々の様相ですよ(笑)。所長や捜査一課長がチームを割り振るものの、刑事長のような人が仕切り始めたりもします」

 また、『踊る大捜査線』で描かれていた、署内での権力争いもあるという。

キャリア組とノンキャリア組の対立もあるし、出身県によっても対立する人もいる。いつも同じ管内で事件が起こるならまだしも、殺人など大きな事件ともなれば同じチームというわけにはいかない。

 私個人は、そういう生々しいディテールを描いている刑事ドラマが少ないと思うし、そういった描写に特化した刑事ドラマがあれば、知られざる刑事の人間味も垣間見えて面白いと思いますね」(北芝さん)

 まだドラマで使われていない“刑事あるある”が存在しているということ。以前に比べて刑事ドラマもリアルになってきたが、「まさかこんなことが……」と思わせてくれるシーンをもっと見せてほしい!

きたしば・けん

 東京都生まれ。早稲田大学卒業。在学中に1年間英国居住。商社を経て警視庁入庁。地域警察、刑事警察、公安外事警察の捜査に従事。早稲田大学大学院にて犯罪学研究のため、警察OBとなる。作家、ジャーナリストとしても活躍中。



よしだ・うしお

 コラムニスト。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆し、『週刊フジテレビ批評』のコメンテーターも務める。著書に『親の介護をしないとダメですか?』などがある。

《取材・文/我妻アヅ子》

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