シニアもアツイ「eスポーツ」 ハマる高齢者増加でプロに挑戦も

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2021年10月25日 11:30  AERA dot.

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写真プロゲーマーを目指すべく、猛特訓を重ねる「マタギスナイパーズ」のメンバー(提供/エスツー)
プロゲーマーを目指すべく、猛特訓を重ねる「マタギスナイパーズ」のメンバー(提供/エスツー)
 世界中で大きな盛り上がりを見せている「eスポーツ」。コンピューターゲームやビデオゲームを使った競技で、プロとして活躍する人もいる。日本でも若者を中心に競技者が増えているが、最近はeスポーツにハマるシニア層が着実に増えている。その魅力や効果を探ってみた。


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 今年9月、秋田に65歳以上のeスポーツプロチーム「マタギスナイパーズ」が誕生した。運営するのは地元のIT企業「エスツー」で、6月からメンバーを募り始めた。県内在住の66〜73歳の男女8人がチームに加入したが、大半が初心者。かつて喫茶店にあった「インベーダーゲーム」や家庭用ゲーム機の経験者がいるくらいという。


 一般的にeスポーツでは、ゲームに特化したパソコン「ゲーミングPC」を使うため、メンバーは専用トレーニングセンターに週2回集まり、eスポーツで人気のゲームを猛練習中だ。


 ある島に100人が降り立ち、生き残りをかける「フォートナイト」は、登録ユーザーが3億5千万人以上という世界的人気のゲーム。「学生のときより勉強してるよ!」と、教えられたことをノートにびっしりと書き込む熱心なメンバーもいる。


 チーム名は東北地方の猟師「マタギ」から。


「秋田は高齢化率が高く、自殺者が多いなど、ネガティブな要素が多いので、何かプラスのものを打ち出したかったんです。『シルバースナイパーズ』というスウェーデンの高齢者eスポーツプロチームの存在を知り、秋田にもマタギの文化があるのだから、この名前を背負ってシューティングゲームをやる意義があるのではと思いました」(エスツー・緒方無双さん)


 とはいえ、ほぼ素人のメンバーがすぐeスポーツ大会に出られるほど甘くはない。緒方さんも数年はかかると見ている。


「まずは一般の人より強くなることを目指します」


「マタギスナイパーズ」の活躍の場は大会だけではない。ゲーム実況動画の配信や、地域の高齢者や子どもたちにeスポーツを教えることなども視野に入れている。




「秋田弁でゲーム実況したらおもしろそうですし、地元のコミュニティーに役立つこともしたい。チームの存在が誰かに価値を与えられるようになれたら。これらの活動で収入が得られるようになれば、メンバーにも報酬として還元したい」(同)


 シニアのeスポーツチームということで、「認知症予防のためですか?」と聞かれることも多い。


「メンバーは『ボケる暇がないくらい大変』と言っていますが、こうした効果は副次的なもの。『認知症予防のために』というよりも、本人がゲームに興味があり、楽しいと思えるかが鍵。ゲームを覚えるというはじめの大きなハードルも、楽しければ乗り越えられるはずですから」(同)


 昨年7月には神戸市に、60歳以上限定のeスポーツ施設「ISR e‐Sports」が誕生した。入会費は無料で、利用料は1回(2時間)千円。会員は約100人で、8割が女性だ。代表の梨本浩士さんは、人材派遣会社の代表を務めている。


「人材事業だけでなく、社会貢献的なことをしたいと思っていました。高齢者の孤立防止、生きがいやコミュニケーションづくり、介護予防などの諸問題をどうすればいいかと考えていたところ、全てを一手に解決する手段としてeスポーツに思い至りました」


 当初は、周囲に相談しても、「シニアにeスポーツなんて無理」「60歳以上なんて年齢制限を設けるべきじゃない」と言われ、オープンしても客がゼロの日が続いた。しかし、シニアに特化したeスポーツ施設ということでメディアにも取り上げられ、少しずつ会員が増えていったという。


 利用者は、eスポーツ初心者が大半なため、スタッフが基本的な操作からわかりやすく教える。


「まずは『ゲーム内の空間を自由に歩いてみよう』というところから始めます。やられたって気にしない。まずはゲーム空間を楽しみながら動きを覚え、慣れてきたところでゲームのルールを教えていきます。若者がやっているのと同じゲームを自分もできる、という小さな自信の積み重ねになるんです」(梨本さん)


 会員は「フォートナイト」やパズルゲームの「ぷよぷよeスポーツ」など90分ゲームを楽しんだ後は、必ず30分の休息する時間を設ける。




「休息中に豆からひいたコーヒーを無料で提供しています。有料なら帰る人もいるけど、無料だったら飲むでしょう? 必ず休んでもらって、この時間で会員同士の交流を深めてもらいたい」(同)


 オープンから1年が過ぎ、手応えを感じているという梨本さん。


「初めて共通の趣味ができたと喜ぶ80代のご夫婦もいます。ゲームが共通の話題となり、楽しい時間が共有できる。それが心のよりどころになり、健康寿命を延ばすことにつながると感じています」


 一方、神戸市は、NTT西日本、eスポーツ事業を運営するPACkageと昨年7月に連携協定を結び、12月からeスポーツが高齢者のフレイル予防に効果があるかを検証する実証研究を始めた。前出の「ISR e‐Sports」も参画している。


 NTT西日本の酒谷慎介さんが説明する。


「コロナの影響で外出が減っています。神戸市は高齢化が進んでいる上に、高齢者のフレイル(加齢による虚弱状態)も加速しています。eスポーツはオンラインで自宅や施設でもできますし、高齢者のコミュニケーションの活性化やフレイル予防などの可能性があるのではないかと考えました」


 今年1月から3月まで、高齢者サービス事業者の協力を得て通所施設に機材を持ち込み、週3回、eスポーツ体験会を実施。「ぷよぷよ」やドライビングシミュレーター「グランツーリスモSPORT」などを試してもらい、心拍数や睡眠時の各種バイタルデータを測定、効果を検証してみた。


「女性の参加者が多く、ゲームだけでなく、スタッフや他の高齢者とのコミュニケーションを楽しんでいらっしゃいました」(酒谷さん)


 体験会の最終日にはeスポーツ大会を開き、参加者に心拍数計をつけてもらったところ、ゲーム中に盛り上がって心拍数が上がる人もいたという。


「心拍数を上げることが認知症予防に効果があると聞いています。また、参加者同士や観戦者とのコミュニケーションが活性化すること自体がフレイル予防になるのではと予測しています」(同)


 eスポーツがフレイル予防に効果があるという学術的な裏付けを取るには今後も研究が必要といい、神戸大学との連携を模索している。神戸市も期待を寄せており、今後は高齢者以外の年齢層にもアプローチし、地域交流などに役立てたいと考えている。



 eスポーツに興味を持ったはいいが、まだまだ気軽に体験できる場所が少ないのが現状だ。


 そんな中、スポーツジムのように月額会員制でeスポーツの練習ができ、スタッフやプロからアドバイスが受けられる日本初の「eスポーツジム」が、今年6月に東京都に誕生した。


 eスポーツの教育事業を展開するゲシピと東京メトロが提携し、東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅直結のビル内にオープン。「明るく、健康的で、誰でも入りやすいeスポーツ施設」がコンセプトで、対戦型シューティングゲーム「ヴァロラント」、チームバトルゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」など、5種類のゲームができる。


「eスポーツも野球などのスポーツと同じく、続けることで人間的にも精神的にも成長できるものだと考えています。住宅街に近い赤羽岩淵で“寺子屋”のような場所をつくることで、eスポーツを広く知ってもらい、多くの人に体験してもらいたいと考えています。ただ技術を教えるのではなく、会員同士が交流できる場を目指しています」


 そう話すのはゲシピの代表取締役CEOの真鍋拓也さん。コミュニケーションを形成するために、ジムには「コミュニティマネジャー」というスタッフを置いた。ゲームのやり方をサポートするだけでなく、積極的に会員に話しかけ、会員同士の橋渡し役を担っている。


 オープン直後から、近隣の小学生から60代まで幅広い人々が訪れている。


「eスポーツを全くやったことがないけれど、興味はあったという人が来てくれています。もっと詳しくなりたい人のためにゲーム別の無料レッスンや、プロによる有料レッスンなども行っています」(真鍋さん)


 真鍋さんは、eスポーツに対し、年齢や国境、ハンディキャップも超える“バリアフリー”なところに魅力を感じている。今後はシニア向けのアプローチもしたいと考える。


「eスポーツは頭や手を使うので、脳の刺激になるはずです。ここに来れば世代を超えたコミュニケーションがあり、孫とのゲーム対戦も夢ではありません。eスポーツは技術と知識が必要ですが、技術に自信がなくても、知識やチームワークでカバーできます。最近、シニア層のeスポーツが活発になってきているのはいい流れ。僕も年齢を重ねてもやり続けたいと思っています」(同)


(ライター・吉川明子)

※週刊朝日  2021年10月29日号より抜粋


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