「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」石立太一監督が語る未来への“愛”【金曜ロードショー放送記念】

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2021年10月25日 12:52  アニメ!アニメ!

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アニメ!アニメ!

写真(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
京都アニメーションが贈る不朽の名作『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。このたび、日本テレビ系「金曜ロードショー」にて、TVシリーズを再構成した「特別編集版」と、映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 −永遠と自動手記人形―』が本編ノーカットで地上波初放送となる。

アニメ!アニメ!では、今回の「金曜ロードショー」放送を記念し、本作を手がけた石立太一監督に単独インタビューを実施。あたたかくも切ない物語を紡いできた石立監督の言葉には、作品やキャラクター、そして未来への“愛”があふれていた。

[取材・文:吉野庫之介]



真っ白な彼女が歩いてきた道のりが、後世に人の歩く道となる。

――2018年に放送されたTVシリーズから昨年公開された劇場版に至るまで、ヴァイオレット・エヴァーガーデンという一人の女性の生涯を描くにあたり、石立監督が制作時にもっとも大切にされたことを教えてください。

原作小説を読んだ時点から「彼女は赤ちゃんのようだ」ということを京都アニメーションのスタッフとよく話していたんです。誰しもが必ず経験しているはずの幼少期からの体験を、ヴァイオレットを通じてみなさんに呼び起こしていただけるような作品にしたい。それを表現するうえでも、彼女の根底にある“なにものにも染まっていない無垢さ”を物語のなかで成長していく過程でもあまり上塗りすることのないよう、制作時とくに気を配りました。

また、彼女の魅力を色で表現すると「透明ではなく白である」ということをスタッフやキャストのみなさんとの忘れてはならない合言葉にしていて、その想いをしっかりと共有できたことで、この作品を最後までぶれることなく描き切ることができました。



――キャスティングはどのように進められたのですか?

キャスティングの際に唯一オーディションで決めたのがヴァイオレット役で、原作小説で彼女の声は「玲瓏(れいろう)な声」と表現されていて、美しさや品行方正さという華やかな印象も含まれている単語なのですが、その基準で選ぶと、テーマとする“幼児性”や“白色感”から遠ざかってしまうなと思ったんです。砕けた言い方をすると、田舎娘のようなおぼこい感じというか。

それを素で出すことができて、ほんの少しではありますが、物語のなかでの成長も演じ分けられる。その要素を持っていたのが石川由依さんでした。結果、ヴァイオレットを石川さんに演じていただけて本当によかったなと思っています。

ほかのキャストさんに関しては、京都アニメーションとも長いお付き合いのある音響監督の鶴岡陽太さんに本作と合致する声優さんを指名していただきました。実はホッジンズ役の子安武人さんやギルベルト役の浪川大輔さんなど、京都アニメーション作品に初めてご出演いただく方も多かったのですが、こちらの想いをすごく汲んで演じてくださって感謝しております。



――“泣けるアニメ”としても評価の高い本作ですが、TVシリーズは1話完結型のシンプルな構成となっています。

脚本家の方と打ち合わせをしていると、「次回への引きが」とか「この作品のフックが」という言葉がよく出てくるのですが、要は視聴者の方に興味を持ってもらうための仕掛けを用意しなければならないという話しで。

その意見もすごくわかりますし、実際にそれがあるからこそ上手くいった作品もあるのですが、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの人生や人の生死を描くこの作品においては、仕掛けを作ってしまうことでリアリティーが生まれにくくなってしまう。それはスタッフの総意でもあったので、奇をてらうことなくシンプルに、表現するということから逃げ出さずどれだけ描けるのかということにチャレンジしようと決めていました。

――絵作りに関しても色彩や陰影の付け方一つひとつがとても繊細で、京都アニメーションだからこそのものづくりだなと。

TVアニメの場合は制作工程のなかで基本となる色を作り、できるだけ合理化したうえで作業を進めるのですが、劇場版ではキャラクターが光源から離れるほどに薄暗くなる描写までをアニメーションとして表現していて。そうした絵作りに関しては社内の内製で完結できているからこそのわがままであり、そこから生まれる創意工夫もふんだんに取り入れられた作品だと思います。



――茅原実里さんが担当されているTVシリーズ主題歌「みちしるべ」も本作を象徴するような楽曲となっていますよね。

茅原さんにお願いした段階では「風土に根付いた牧歌的な民謡をヴァイオレットが歩きながら口ずさんでいるようなイメージ」とお伝えしていたのですが、劇場版まで通してみると、「みちしるべ」という言葉も含めて狙って作られたのではないかと思うくらい、茅原さんの千里眼には驚かされました。

――劇場版でも描かれていましたが、ヴァイオレットが歩いてきた轍(わだち)を想起させるというか。

そうですね。世間を知らない真っ白な彼女が歩いてきた道のりが、後世に人の歩く道となる。そんな物語にしたいと初期段階から話していたので、劇場版を見ていただいたみなさんにもそれが伝わっていたら嬉しいです。



劇場版は初めてヴァイオレットを主人公として描いた“長いエピローグ”

――TVシリーズのなかで石立監督がとくに思い出深いエピソードを教えてください。

たとえば、第7話の戯曲作家のオスカーとのエピソードではヴァイオレットが他人のために初めて泣くのですが、そうした彼女にとっての“初めて”を描いた回はとくに思い出深いです。赤ちゃんが初めて歩いた瞬間を見るような感覚で。

――父親に近い視点なのですね。

ヴァイオレットのことを父性と母性のどちらで見ているのかは社内でも意見が割れていたんです。私は男親の目線から見ていると言われていましたし、外伝の監督を担当した藤田春香というスタッフは、そのどちらでもなく「空気中に漂っているほこり」のような、さらに客観的な目線から見ていると言っていて。

最終的な表現の取捨選択は私が責任者としてまとめてはいたのですが、そうしたさまざまな意見が出てきたことで自分の主観のみに頼ることなく作ることができたと思います。



――また、TVシリーズ第10話のアンとお母さんのエピソードは劇場版冒頭シーンでも描かれましたが、とくに人気の高いお話ですよね。

第10話に関しては原作小説の第1話にあたるエピソードになっていて、とてもわかりやすくグッとくるものがあり、しっかりと作れば視聴者の方に届くお話になると思っていました。

劇伴を担当しているのがEvan Call(エバン・コール)さんというアメリカ人の方なのですが、あの回のコーラスに男の子の声を入れていて。「第10話はアンとお母さんの物語だから、コーラスは少女の声でもいいのでは?」と音響監督の鶴岡さんも質問をしていたのですが、Evanさんは「男の子の声のほうが神秘性があるから」と仰っていたんです。

声変わり前であれば男女の声にそこまで大差があるわけでもなく、実際そのシーンにもすごくマッチしていて。彼のその感覚の鋭さには驚かされました。あのエピソードがとくに泣けるという要因は、そんな音楽面にもあるのかなと思います。



――各話に登場するゲストキャラクターそれぞれに共感できる要素があり、視聴者としてはそこに感情移入する部分があります。

原作小説もそうなのですが、ヴァイオレットが主人公なのではなく、各話のゲストキャラクターが主人公という構成になっていて、“その人たちから見たヴァイオレット”が描写されているんです。しかし完結編となる劇場版では、彼女自身、あるいはギルベルトと対峙するしかない。制作時に鶴岡音響監督とも「この劇場版が初めてヴァイオレットを主人公として描くエピソードだ」と話していました。

――TVシリーズ、外伝の各エピソードがヴァイオレット・エヴァーガーデンという女性を構成するパズルのピースになっていて、劇場版を見ることで最後の1ピースが埋まるというか。

そうですね。つまり劇場版は“長いエピローグ”なんですよ。基本的にヴァイオレットの成長はそれまでのお話でやりきっていましたし、もしかしたら劇場版は蛇足になりかねない。もしも最後の1ピースとするならば、それはエピローグという位置付けになる。

TVシリーズで唯一心残りだったことが、ヴァイオレットがギルベルトと再会できないまま物語が終わってしまったので、彼女の成長譚としては良いと思いつつも、私自身キャラクターに対する情もあり、かわいそうだなと思っていたんです。

エンターテインメントとしての芸術性ももちろん大切なのですが、なにより彼女自身が幸せになって笑って最後を迎えてほしい。そして彼女がいなくなったあとの世界で、彼女のやってきたことがどのような道になったのかを描き切りたい。自分のエゴではありつつも、それが正しいと思い劇場版を作らせていただきました。



今を生きる私たちにできることは、“未来になにを残せるか”ということ

――石立監督の手がけられたアニメ『境界の彼方』も本作と同様に“愛”をテーマにされているかと思いますが、作品で“愛”を描くうえで共通して大切にされていることはありますか?

私は北野武さんが好きなのですが、彼の言葉に「やさしさは“根性”です」というものがあるんです。中途半端なやさしさはかえって相手の迷惑になったり、自分も苦労するだけになってしまうかもしれない。本当に相手の助けになりたいのならば、最後まで付き合うつもりで臨まなければならないし、それをやり通すには“根性”が必要であると。

作品内で描く家族愛や恋愛感情においてもその言葉と共通する部分があって、最後まで投げ出さずに貫く強さや尊さ、また、それを続けていった先になにがあるのかということを『境界の彼方』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』でも大切にしています。

――時代の変遷とともにコミュニケーションの方法も変化を続けていますが、言葉の遣り取りにおいて石立監督が大切にされていることを教えてください。

私は割と長く喋り続けられるタイプの人間なのですが、言葉数を重ねるほどに伝えたいことの本質が薄くなってしまい、結果相手にも届かなくなってしまうという悩みがあるんです。だからシンプルな言葉遣いで的確に想いを伝えられる方に憧れがあって。

作中でも「良きドール〈自動手記人形〉は、相手が話している言葉から伝えたい本当の心をすくい上げて手紙にする。それは、自動手記人形にとって何よりも大切なこと。そして、何よりも難しいこと。」という言葉が出てきますが、本当に相手に伝えたい大事なことは多くの場合シンプルであると思うので、とやかく理由をつけて言うよりも、簡潔な言葉にまとめられるようにしたいと思っています。

――私も編集の仕事をしていて感じることがあるのですが、言葉をシンプルにまとめるほど、そこに情報量としての“愛”が凝縮されていくというか。

だから“愛”とは“集中力”なのかなとも思いますよね。最初はいろいろなオプションを付けて考えたりしますが、最終的には削ぎ落とされてシンプルになっていき、それがパワーワードになっていたり。アニメの絵作りなどにおいても同じことが言えて、さまざまな方に評価していただける作品ほどそうした域に到達していることが多いと思いますし、それが嬉しいからこそ、また近い次元の表現ができるようにと励むことができる。

――それは“ものづくり”に携わる多くの人にとっても共通する感覚なのかもしれませんね。最後に、石立監督が京都アニメーション作品を通じて伝えていきたいことを教えてください。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』にも通じるところがあるのですが、今を生きる私たちにできることは、“未来になにを残せるか”ということで。未来を生きる人たちが、やさしさや思いやり、そして“希望”を感じることのできる世の中であってほしい。そうした想いや願いというものを作品として残していきたいと思っています。



『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 特別編集版』
日本テレビ系にて、10月29日(金)21:00〜22:54放送
監督:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
原作:暁佳奈
制作:京都アニメーション

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ー永遠と自動手記人形ー』
日本テレビ系にて、11月5日(金)21:00〜22:54放送
※本編ノーカット
監督:藤田春香
監修:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
脚本:鈴木貴昭、浦畑達彦
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
原作:暁佳奈
制作:京都アニメーション


(C)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

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