Lightning狙い撃ちな「USB Type-C法案」 EUとAppleそれぞれの思惑

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2021年10月25日 16:22  ITmedia NEWS

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写真米AppleのLightningケーブル(左)とUSB Type-Cケーブル(右)
米AppleのLightningケーブル(左)とUSB Type-Cケーブル(右)

 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が、9月23日にスマートフォンをはじめとする電子機器類の充電方法をUSB Type-Cにすることを義務付ける法案を提出したことが明らかになった



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 対象はスマートフォン、タブレット、カメラ、ヘッドフォン、ポータブルスピーカー、モバイルゲーム端末。現状はこうした機器の中でUSB Type-Cではない端子を採用している製品はほぼ米AppleのLightningだけと考えられるので、事実上「Lightning狙い撃ち法案」といっても過言ではない。



 そして先ほどの記事によれば、AppleはBBCなどに対して「1種類のコネクターのみを義務付ける厳格な規制はイノベーションを抑制し、欧州や世界中の消費者に害を及ぼすことを懸念している」と声明文を送ったという。



 欧州委員会はなぜこのような法案を出し、Appleは自社の正当性を維持するような声明文をメディアに送ったのか、それぞれの狙いを考えていきたい。



●規制当局に狙い撃ちにされやすいITジャイアント



 Appleがこうした規制当局のターゲットになるのは今回が初めてではない。米国ではFTC(連邦取引委員会)、日本では公正取引委員会(公取委)の調査を何度か受けており、直近では公取委から「App Store」にアプリを提供する業者の事業活動を阻害しているのではないかと疑いを持たれ、審査が進められてきた。Appleがガイドラインを改訂するなどの改善措置を申し出たため、その疑いは晴れたとされている(詳細は公正取引委員会の資料が詳しい)。



 こうした調査は別にAppleだけではなく、市場で大きなシェアを持つ会社は常にターゲットにされてきた。古くは米IBMを解体寸前まで追い込んだこともあるし、PCの時代にはWintel(米MicrosoftのWindowsと米Intelを掛け合わせた造語)の両社は常にターゲットにされてきた。それが今のスマートフォン時代はAppleというわけだ。



 調査の結果、Appleの言い分と規制官庁の言い分はどちら正しいのか、こればかりはポジショントークになりがちでなかなか難しいところだ。Appleとしては常にユーザーのためだと主張するし、その裏で自社の利益のために最善を尽くすのは当然といえる。それに対して規制官庁は、Appleのような多大な市場シェアを持つ企業の動向に目を光らせる。



 実際、日米の市場ではAppleの「iPhone」は非常に人気があり、多くのシェアを占めている。IDC Japanが2月に発表した2020年の日本のスマートフォン市場の統計によれば、2020年通年の市場シェアは、Appleは46.5%でダントツトップだ。つまり2020年に市場で売れた2台に1台がiPhoneという状況になる。2位はシャープで13.3%、3位は富士通で8.3%、4位が韓国Samsung Electronicsで8.1%。



 実は米国でもほぼ同じ状況。通年の良いデータがないのだが、四半期ごとの統計を出しているCounterpointによれば、2020年第1四半期〜第4四半期までは40〜46%、第4四半期は65%のシェアになっている(第4四半期だけ高いのは毎年9月にiPhoneの新モデルが発表されるから)。



 ところが面白いのは、グローバルだとAppleのシェアは大きく下がることだ。IDCが発表した2020年通年のスマートフォン市場のデータによれば、トップシェアはSamsung Electronicsで20.1%、2位はAppleで15.9%、3位は中国Huaweiで14.6%、4位は中国Xiaomiで11.4%となっている。この数字が意味することは、Appleは高付加価値(有り体に言えば高い製品)を購入できるユーザーの多い先進国市場では強いものの、低所得ユーザーが多い成長市場では安価な製品で数を取っているSamsung Electronicsや中国勢などと勝負ができていない、ということだ。



●充電速度の統一や充電器の非同梱は既に実現されている



 そうした市場シェアの状況を頭に入れた上で、今回の欧州委員会の主張を振り返ってみよう、前出の記事によれば、EUが提出した法案の主な項目は



1. USB Type-Cを共通のポートにする



2. 充電速度を統一する



3. 電子機器に充電器を同梱しない



4. 消費者への関連情報提供



 の4つだという。このうち4つ目はお題目のようなモノだから省いていいだろう。問題は1〜3がこの法案で実現するのかだ。実のところ、3の「電子機器に充電器を同梱しない」は、AppleのiPhoneやAndroidスマートフォンでもハイエンドモデルでは既に実現している。その一方で最近ではIoT(Internet of Things)機器など、USB Type-Cを充電器として使っている場合があり、そうした機器では同梱されている例が多い。



 話はやや脱線するが、最近は「USB Power Delivery」(USB PD)の普及で、ノートPCの充電端子は急速にUSB Type-Cポートに置き換わっている。筆者は仕事柄、年間に4〜5台のノートPCを購入するが、そのたびにUSB Type-C充電器の山が出来上がっている(既に超小型な充電器を常用しており、ノートPCに付属するものは使わない)。むしろ、ノートPCこそ法案の対象にしてほしいが、項目に入っていないのは個人的に残念だ。



 実は2も徐々に意味がなくなりつつある。というのも、以前のスマートフォンの急速充電は、米Qualcommの「Quick Charge」や、充電器メーカー独自の急速充電モードなどが乱立しており、統一されることはユーザーにとって大きなメリットであったのは事実。しかし、USBの仕様を策定するUSB-IF(USB Implementers Forum)がUSB PDを導入して以降、USB PDが急速充電のスタンダードになっている。



 Appleも近年の製品ではUSB PDをサポートしており(USB PDはコネクターの仕様から独立しており、USB Type-CでなくてもUSBの電気信号をサポートしているコネクターであれば利用できる)、この点ももはや統一されたと言って良い状況だ。



 このように2〜4は技術的に考えれば意味が無い議論で、本当の狙いは1のUSB Type-Cを共通のポートにする、つまり、「Appleは独自コネクターであるLightningを止めよ」というのが本当の狙いだといえるだろう。



●EUの狙いはMFiエコシステムの破壊か、それとも政治のパフォーマンスか



 では、欧州委員会が1を強制したとして消費者が得るものは何か、シンプルに言えば2つある。1つは「USB Type-C - Lightning」というケーブルがなくなり、「USB Type-C - USB Type-C」というケーブルに統一できること。もう1つはiPhone向けに販売している「Lightning - USB Type-C」ケーブルでは利用できないUSB 3.0(5Gbps)など高速転送モードが利用できることだ。



 ただ、よりフェアに言えば「Lightning - USB Type-C」ケーブルでもUSB 3.0の転送モードをサポートすることは技術的には不可能ではない。というのも、Lightning端子を内蔵していた世代のiPad Proでは、USB 3.0に対応したカードリーダーが販売された実績があり、少なくともLightning端子でUSB 3.0をサポートすることは技術的には不可能ではない。



 なぜiPhone用にUSB 3.0に対応した「Lightning - USB Type-C」ケーブルが出ないのかは分からないが、そこには2つの理由が考えられる。1つはiPhone側がUSB 3.0に対応しないように設計している可能性があること、もう1つはAppleが周辺機器ベンダーに渡しているであろうケーブルの仕様にそれが含まれていないことだ。



 iPhoneの周辺機器はAppleのMFi(Made for iPhone)と呼ばれる一種の認証制度で厳しく管理されているのはよく知られている。例えば、LightningケーブルはMFiの認証を受けていないと、iOSのバージョンアップ後などに利用できなくなる仕組みが入っている。このため、仮にiPhone側がUSB 3.0に対応したLightning端子であっても、USB 3.0に対応した「Lightning - USB Type-C」ケーブルを出せないのだ(結局のところ、どこからも出ていないということは、今の所iPhone側が対応していない可能性が高いだろう)。



 このMFi、粗悪品を排除することが目的だとAppleは説明している。もちろんその狙いはあると思うが、周辺機器ベンダーを囲い込む狙いも考えられる。そして囲い込んだ以上、Appleにはその周辺機器ベンダーのビジネスを守る必要がある。実際、AppleはLightningに変える前の30ピンコネクター(iPod以来使ってきた従来のiPhone用端子)を変更しないとずっと言ってきたのに、いきなりLightningに変えて周辺機器ベンダーを困らせた前科がある。



 例えば、自動車メーカーやカーナビメーカーが用意していたコネクター、ホテルの部屋に置いてあったiPhone向けのスピーカーなど30ピンコネクターのデバイスが使えなくなり、周辺機器ベンダーはみんな困ってしまった。Appleの中にもこの時の「悪い記憶」をもう一度繰り返したくない気持ちがあるのは容易に想像できる。



 ただ、今となってはMFiが逆にイノベーションを阻害している側面もある。有名なところでは、USB Type-C端子をLightning端子に変更する変換コネクターは作れない。そうした変換コネクターはApple純正品にもサードパーティーにもないし、MFiに参加していない周辺機器ベンダーにとっては参入障壁でしかないのも事実だ。



 そう考えると、欧州委員会の技術的な観点からの狙いは、その「MFiエコシステム」の突き崩しではないかと思う。確かにMFiには粗悪品からユーザーを守る面もあるが、その一方Appleが規定している周辺機器しか作れないというイノベーションを阻害している面もあり、それはiPhone向けの周辺機器市場の観点で見れば、独占した力を乱用している、そう見えても不思議ではない。



 さらに、EU、すなわち欧州委員会の本音は、官僚や政治家などが「巨大な帝国」であるAppleをたたくことで自分のポイントにしたい狙いがあるのも透けて見える(IBMやMicrosoftが強かった時代にもよく見られた構図だ)。そう考えれば、「ユーザーのため」と一見正論のように見えるが、その実「勧善懲悪」という分かりやすい構図を作って政治的なポイントを稼ごうとしている、そう見えるといわれても否定できないだろう。



●両者ともに消費者のことを考えた議論を望みたい



 その一方で、Lightningがあったからこそ、USB Type-Cが出てきた側面から考えれば、Appleが「イノベーションを阻害する」と言っているのもうなずける。Lightningが登場したのは2012年のiPhone 5登場時だ。Lightningが登場する前のUSB端子はいわゆるUSB-A(USB Standard A)端子など片方向にしか挿せない端子だった。しかし、Lightningは表裏、どちらを挿しても使える画期的なユーザー体験をサポートしていた。



 その後、2014年に同じように表裏どちらでも挿せるUSB Type-Cの規格が策定され、2015年ごろから製品に採用するようになった、それが歴史だ。これを見れば、Lightningというイノベーションでの先行者がいたからこそ、USB Type-Cというイノベーションが登場した、そういえるだろう。



 既に述べてきた通り、Lightningを搭載したiPhoneの市場シェアは、確かに先進国市場では高いが、グローバル市場では15〜16%程度でしかない。これでは独占しているとはなかなか言えない状況で、消費者がLightningはイヤだと思えば、iPhoneを買わなければいいだけだ。市場の競争を考えれば、消費者が市場で決定すればいいだけで、逆にUSB Type-Cだけにしろというのは一種のカルテルになりかねない。それは市場に競争を促すべき規制当局がやるべき事なのかと言われれば大いに疑問がある。



 このように、AppleはMFiの問題点の改善やiPhoneのLightningでUSB 3.0に対応するなどの改善が必要だし、欧州委員会側も「安直な政治ドラマ」「市場での競争とは何かが分かっていないのでは」という観点で、どちらにも瑕疵(かし)はあると筆者は思っている。両者ともに本当に消費者のためになる行動をしてほしい、そう切に願ってこの記事のまとめにしたい。


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