V目前、川崎の危機を救った新人MFは、伝説のフランス代表を彷彿とさせる

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2021年10月26日 11:12  webスポルティーバ

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Jリーグクライマックス2021

 J1リーグ第33節、首位を行く川崎フロンターレは清水エスパルスに1−0で勝利。2位の横浜F・マリノスが同日、セレッソ大阪に敗れたため、その差は勝ち点12に広がった。川崎の優勝は、早ければ次節(11月3日)にも決まる。
 
 川崎と横浜FMの差は一時、勝ち点1差まで縮んだ。川崎がアビスパ福岡に敗れた8月25日(第26節)終了時である。逆転は時間の問題であるかのように思われた。

 桐蔭横浜大学から今季、川崎に加入した新人、橘田健人も、その福岡戦に出場していた。そこまで橘田は26試合中17試合に出場。だが先発は4試合にとどまっていた。ポジションは4−3−3のインサイドハーフ。田中碧、脇坂泰斗、旗手怜央に次ぐ4番手の扱いだった。




 168センチ、65キロ。線の細さが気になる選手だったが、福岡に敗れた第26節を機に、橘田の出場機会はグッと増えていく。第33節の清水戦まで8戦中7試合に先発。驚くことに、途中でベンチに下がったケースはわずかに1試合だけだ。1度だけの交代出場も、後半の頭からという早さだった。この直近8試合の出場時間は、フィールドプレーヤーのなかでは山根視来に次ぐ多さを示す。ベンチからの信頼のほどがうかがわれた。

 チームは福岡戦以降、7連勝を飾り、1差に迫られた横浜FMとの勝ち点は12に開いた。川崎の優勝を語る時、橘田は欠かせない選手になっているはずだ。福岡戦の次々戦(徳島ヴォルティス戦)を機に、ポジションもインサイドハーフから4−3−3の1ボランチ(アンカー)へと変わっている。それまで不動のスタメンだったジョアン・シミッチを押しのけて、である。

 その後、ベンチにも入らなくなったシミッチに何があったのかは定かではないが、183センチ、80キロのシミッチに比べると橘田は著しく小型だ。しかも、川崎の基本布陣は4−2−3−1ではなく4−3−3。守備的MFを1枚しか置かないサッカーだ。新人の橘田には荷が重いのではないかと心配したものだ。ところが、そこから川崎は連戦連勝。すっかり波に乗ることになった。

 シミッチより優れているとは、筆者の感想だ。シミッチがどっしりと構えるボランチであるのに対し、橘田は軽い。しかし、その軽さはネガティブな要素には映らない。キビキビとしたシャープな動きに見える。

 ボールは橘田を経由すると、軽快さが乗り移ったかのように、すいすいとケレンミなくチーム全体に波及していくのである。もっさりとした動きのシミッチからは、生まれ得ないリズム感が誕生するのだった。それが川崎の成績に直接的に反映していると筆者は見る。川崎の危機を救った立役者といっても過言ではない。

 何と言ってもミスが少ない。飄々と、慌てた様子なく静かにプレーする。人が混雑した密集地帯でうまさを発揮するタイプだ。相手をすり抜ける感じは少しばかりアンドレス・イニエスタ的だが、もう少しイメージが近いのは、その昔、フランスの4銃士のひとりとして世界を沸かせたジャン・ティガナだ。

 82年のスペインW杯ではミシェル・プラティニ、アラン・ジレス、ベルナール・ジャンジニ、86年メキシコW杯では、プラティニ、ジレス、ルイス・フェルナンデスとともに中盤を構成。当時の世界のサッカーファンを虜にしたアフリカ系の選手だが、そのティガナの細身で華奢な体格(身長は橘田と同じ168センチ)、そしてボールを捌くシルエットと橘田の動きは似ている。どこか懐かしさを感じさせる選手なのだ。

 いい意味で力感が伝わってこない選手である。最近、日本ではプレーに強度を求める風潮がある。ない物ねだりも加わるのか、守備的MFには特にそれを求める傾向があるが、橘田を見ていると別の考え方もあるのではないかと言いたくなる。要はバランスなのだが、ひとつの考え方に陥るのはよろしくない。シミッチに代えて、小柄な橘田を4−3−3の1ボランチとして起用する決断をした鬼木達監督を称えたくなる。

 川崎がこのまま優勝すれば、橘田は新人賞に値すると考える。思いきって日本代表に選んでも面白いと思う。

 中村憲剛を筆頭に、大島僚太、守田英正、田中碧、さらには脇坂泰斗と、川崎の中盤からは日本代表に上り詰めた選手は多くいる。橘田もそのひとりになれるか。そのシャープなボール操作術には一見の価値がある。これから羽ばたきそうな予感がする。

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