ヤクルトが2年連続最下位からのリーグ制覇。サクセスストーリーを完結させた「4つのシンカ」

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2021年10月26日 22:01  webスポルティーバ

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 10月26日、ヤクルトが6年ぶりとなる8度目のリーグ優勝を決めた。「真価・進化・心火」のチームスローガンのもとに勝ち取ったチャンピオンフラッグだった。活気あるベンチ、全員が同じ方向を向いて戦う姿勢、スローガンのなかにはファミリー球団としての「深化」という言葉も隠れていたことを実感したのだった。




 遡ること3年前の春季キャンプ。前年、シーズン96敗という歴史的惨敗を喫したヤクルトは、小川淳司監督(現GM)のもと再起を図ろうとしていた。

 石川雅規が「よくヤクルトはファミリー球団と言われますが、それって意外と難しいんです。結果が伴わなければ、ただの仲良しだけの弱いチームで終わってしまうので......」と話したことがあった。

「僕が入団した頃は、古田(敦也)さん、(宮本)慎也さん、真中(満)さん、稲葉(篤紀)さんたちがいて、ワーっと盛り上がったりふざけたりもするけど、グラウンドではビシッとしていた。そのメリハリはすごかったですね」

 この年チームは2位に躍進するも、翌年は最下位に逆戻り。高津臣吾監督のもと新たにスタートを切った昨年も最下位に沈んだ。そして迎えた今シーズン、9月は4つの引き分けをはさむ9連勝を記録。10月には神宮で巨人、阪神を迎えた6連戦を5勝1敗と勝ち越すなど、チームの歯車は試合を重ねるごとに噛み合っていった。

 1番・塩見泰隆の覚醒、山田哲人と村上宗隆の脅威の3・4番コンビ、新外国人のホセ・オスナとドミンゴ・サンタナの活躍、さらに途中出場した選手たちの働き......なかでも代打の切り札となった川端慎吾は異次元の勝負強さを見せた。そして最大の懸案事項だった投手陣も着々と整備されていった。

 こうした選手たちの力を最大限に引き出したのが、目では見ることのできない「チームの雰囲気」だった。

「去年と違い、今年は負けている状況でも『ここから盛り返していくぞ』という明るい雰囲気を感じます」(荒木貴裕)

「途中から試合に出ることが多いのですが、本当に全員の思いを背負っているので、とくに守備では命をかけて守っています」(渡邉大樹)

「みんな笑っていますよね。今年は負けてもそんなに大差はつかないですし、ノリさん(青木宣親)を筆頭に、『今日もよかった。明日も頑張ろう』という声が聞こえてきます。このチームは強いと思います」(大西広樹)

「ベンチから監督の声が聞こえてくることもありますし、使ってもらえることになんとか応えたい。監督の『絶対に大丈夫だから』という気持ちを持って投げています」(星知弥)

「僕は96敗を経験しているのですが、この4年間で本当にチームが変わったと実感しています。とてもいい雰囲気で、自分もこの流れに乗って......と考えているのですけど、もっと自分の役割を果たせたんじゃないかと思っています」(山崎晃大朗)

 青木はこうした選手たちの姿に「今年は、僕はそんなに声を出していないんですよね」と言った。2018年にヤクルトに復帰して以降、先頭になって声を張り上げてきた。

「選手への声かけは(山田)哲人がやってくれて、ベンチでは嶋(基宏)がチームを盛り上げてくれる。僕はそれを頼もしく見ています(笑)。若い選手たちも声が出るようになって、各々が持ち味を発揮し、チームとしていい集合体になっていると思います」

 チームの雰囲気について選手が話す時、「嶋さんが先頭になって」と、必ず移籍2年目のベテラン捕手の名前が挙がる。

「雰囲気や空気がいいところには、必ずいい流れがくるし、勝っていれば自然と雰囲気はよくなります。今のチームはそういう状況で、みんなのモチベーションが高いです」(嶋)

 首脳陣も「ベンチでの嶋の存在は本当に大きいです」とことあるごとに強調した。

「試合に出たいという感情を抑えて、チームを鼓舞してくれました。選手たちも信頼していますし、それが今年大きな連敗がなかったことのひとつの要因だと思っています」(衣川篤史バッテリーコーチ)

 ベンチの一体感は、グラウンドやブルペンにも波及した。タイムリーが出れば、全員が自分のことのように喜ぶ。殊勲打を放った選手は、塁上からボディーパフォーマンスでベンチの盛り上がりに応える。

 川端が一塁ベース上でベンチに向かって両手を遠慮気味に突き上げ、恥ずかしそうに腰を左右に振った光景は今も鮮明に記憶に残っている。川端もそのことをよく覚えていた。

「森岡(良介)コーチから『慎吾、ベンチが呼んでるよ』って声をかけられたんです。ベンチを見ると『やってくれ』みたいな感じで。僕はああいうことをするタイプじゃないですし、仕方なくやったんですけど......チームが一体になって盛り上がってくれたので、やってよかったんだと(苦笑)」

 ブルペンでは移籍1年目の田口麗斗が、過酷な登板が続く仲間たちをリラックスさせていた。

「イニング間は、石井(弘寿)コーチとふざけたり、みんなで他愛のない話をしています。でも、出番が近づくとみんな集中して、とてもいい環境だと思います」(田口)

 その田口について、大下佑馬は次のように語る。

「今までチームにああいうヤツはいなかったので、うるさいですけど楽しいです(笑)。でも、マウンドでは別人になれる。すごいなと思います」

 振り返れば、ファミリー球団としての"深化"を最初に感じたのは、春季キャンプ中での石川と若手左腕の高橋奎二がキャッチボールをしている時だった。前日の登板が最悪の結果に終わった高橋を見て、石川のほうから「僕なりに感じることがあったので『やろうよ』と声をかけました」と、小川泰弘と続けてきたキャッチボールを変更してのものだった。

 ふたりは先発ローテーションの座を争うライバルだったが、石川が捕手役となり「今の悪くなかったよ」と声をかけるなど、自分の準備、調整時間を潰してまで親身になって高橋にアドバイスを送った。

 キャンプでは後輩投手が先輩野手に質問する光景も見られた。セットアッパーの清水昇は山田に「僕のピッチングはどうですか」と質問。原樹理は「青木さんに体の使い方について聞くことができました」と話している。

 シーズンに入ると、逆のパターンも見られた。ルーキー内野手の元山飛優は「小川さんはピッチャーですけど、バッティングについて聞いたことがあります」と言った。

「小川さんは体の使い方をすごく勉強されているので、何かのヒントになるんじゃないかと。僕は目に見えるもの、耳に入ってくるものすべてがヒントだと思っています」

 新キャプテンの山田は、こうしたチームの中心に常に立っていた。若手投手たちとの会話を心がけ、村上や塩見、外国人選手とも積極的にコミュニケーションを図っていた。青木と会話しながらクラブハウスへ戻る光景も頻繁に見られた。

 優勝が目前に迫っていた頃、福地寿樹コーチがこんなことを語っていた。福地コーチは2013年から一軍、二軍で指導者としてチームを見守っている。

「まず元気ですよね。これまでは負けてしまうとシュンとしてしまうところがあったのですが、今年はビハインドの場面でもみんなが立ち上がって声を出している。緊迫した試合が続くなかでもみんな笑顔ですし。勝たなきゃいけないと力が入るのではなく、逆に『やってやるぞ!』と緊張感を楽しんでいる。6年前の優勝の時と雰囲気は似ていますが、あの時よりも明るさがあります」

 昨シーズンのこと、チームが最下位から抜け出せずにいる時期に高津監督は、このようなコメントを残している。

「チームはいま苦しい状況ですが、絶対に流れはくると思っています。それまではしっかり我慢して、準備して、努力することを続けていきたい。チームがお祭り騒ぎのなかで野球ができる瞬間を待っています」

 高津監督も2014年から一軍投手コーチ、二軍監督、そして一軍監督として、長い時間をかけてチームに寄り添ってきた。

 選手や首脳陣が語る「ベンチの雰囲気」も急に生まれたものではない。そこにはすでにチームを去ったコーチ、選手、スタッフたちの足跡も刻まれている。2年連続最下位から優勝というサクセスストーリーは、多くの人の思いが紡いで完結したものである。

 かつて球界を席巻した強いヤクルト復活へ、今シーズンの戦いはまだ序章にすぎない。

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  • ジッタリンジンの破矢ジンタ(はし ジンタ)の本名は、秦伸治(はたしんじ)だそうで。うん、燕らしいね。https://www.youtube.com/watch?v=b84QiAh7Oq8
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