“MANGA”はより世界規模に? 国境すら超えた集英社による新サービスの秘めたる可能性

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2021年10月27日 08:40  ORICON NEWS

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写真漫画ネーム制作Webサービス「World Maker」(C)SHUEISHA Inc. All rights reserved.
漫画ネーム制作Webサービス「World Maker」(C)SHUEISHA Inc. All rights reserved.
 集英社が9月22日にβ版を公開した『World Maker』。同サービスを使用した「漫画ネーム大賞」ではあまりに多くの人がTwitterに応募作を投稿したため、締切の直前15分前に一部ユーザーがツイート出来なくなるという事象まで起こった。『World Maker』とは、簡単に言えば、絵が描けなくても漫画が作れるサービス。日本語でのリリースにも関わらず「驚いたことに海外からの投稿も多数あったんです」と、同サービス考案者の集英社・林士平(りんしへい)氏は話す。すでに英単語にもなっている日本の“MANGA”文化の現在地と未来。デジタル化によるメリットや、国境や人種の壁を超える可能性まで聞いてきた。

【漫画】クオリティ高い?『World Maker』で作られた4ページ短編漫画

■ネーム制作に自ら携わることで漫画への視点に変化も「プロの凄さが改めて分かる」

 林氏は、2018年6月から少年ジャンプ+編集部で『SPY×FAMILY』や『ダンダダン』などを担当。アプリの新規制作を積極的に行う部署に異動になったことがきっかけとなり考案されたのが『World Maker』だ。ユーザーはストーリーやセリフを考えれば、絵に関してはコマ割もさまざまなパターンから選択。用意されたキャラクターやその表情を使うことができ、自らが撮影した写真を貼り付けることも可能。いわゆる漫画の“ネーム”がスマートフォンで簡単に作成できるサービスだ。

 「企画は3年前。ストーリーを文字で考える方、素敵なイラストを描く方が一般にも多くいらっしゃる中で、漫画そのもので表現する方が少ない印象があったんです。その理由を考えた時に、頭に浮かんだことをビジュアル化(漫画化)するスキルがちょっと“特殊”になっているからだろうと。絵が描けない、ゼロからどう魅せていいかわからない。であっても、頭の中にイメージがあれば、“選ぶこと”はできるのではないか、と考案しました」(林氏)

 これまでの漫画脚本との違いは、カメラワークを指定できること。アングルや吹き出しの位置、カット割りなどで演出までできるわけで、言葉だけで説明できないところまでビジュアル化できるということだ。

 「このサービスをきっかけに、コマ割りやカメラアングルまで意識するようになる方もいらっしゃると思うんです。作る側の経験をすることで漫画の見方や楽しみ方が変わったり深まったりすることもあるのでは、と希望しています。そうなると、例えばスポーツのように、サッカーやテニスを部活でやっていて、それ故にプロの凄さがわかるということが漫画界でも起こるかもしれない。そういう意味で、漫画ファンの濃度が上がるという効果も期待しています」(同氏)

 現在はまだβ版であるが故、作れるのは4Pで、使えるキャラの種類や表情、コマ割りなど制限があるが、いずれ長編も作成できるよう様々な機能を実装したいと林氏は語る。

■真の意味で「漫画は国境を超える」 デジタル化がもたらす“平等性”とは?

 多くの反響があった中で、林氏が想定してなかったのは、外国人からの利用が多くあったことだ。「サービス使用者を分析すると、日本語話者の多い台湾ユーザーの利用は想定にあったのですが、ポルトガルやロシア、トルコなど、どこから知ってくれたのか、いろんな国の方がいろんな国の言葉で漫画を作ってくれていました。センスや扱っている題材が日本とは違うなと感じる方、逆にその国の文化にとらわれず、あくまで“日本っぽいもの“を目指している方もいました」(同氏)

 ジョン・レノンが『イマジン』で「想像してごらん、国なんかないって」と唄ったが、これを阻むものの一つに“言語”がある。林氏は「言語を(漫画のように)ビジュアル化することで、一気に国境を超えやすくなる」と目を細める。

 ほかに、国境を薄くしたものには「デジタル化」もある。インターネットを通して様々な国で日本の漫画が読まれるようになったほか、物流と無縁であるため“時差”もなくなった。つまり、例えば沖縄などは『週刊少年ジャンプ』の発売が一日遅れるということがあったが、オンラインのみの発信だとリアルタイムで地域デメリットはない。デジタルにより“平等性”が確保された一面がある。

また、以前はデジタル社会のデメリット…発売前の漫画雑誌の写真をインターネット上にアップするといった流出・違法行為が多く見られたが、出版社がデジタル化に力を入れ、公式にデジタルで公開できるようになったことでデータの管理が容易になった。「新作でなくとも海賊版の問題は、公式が発売できてない国で多い。物流・デジタルを通していろいろな施策をしていければ」(林氏)

そしてこう続ける。「日本以外でも『World Maker』が使われるという反響を受けて、英語版などの実装も目指し、グローバルな才能発掘にも目を向けたい。また、これまで漫画を描こうと思っていなかった人にも届けば。そうなれば多くの職業に就いている方が自分の経験を漫画にできるようになり、さらに漫画文化は豊かになっていくと思います」

ちなみに、サービス名に「漫画」「ネーム」という単語を入れなかったのは、漫画だけに限定したくなかったから。いずれ、アニメやCM、ミュージックビデオを制作する際の「絵コンテ」、一般人なら「絵日記」など、ビジュアライズの広いスタンスに使えるフォーマットにしていきたい想いがある。自分の中の「世界」を何でも作れるサービス、ゆえに『World Maker』なのだ。

■デジタルが“今”と“過去”をつなぎ、新たな“未来”を作る?「才能発掘は常に至上命題」

 もう一つ、デジタル化のメリットは、若い人にも往年の名作が目につきやすくなったことだ。例えば電子コミック界では1988年〜2013年に連載された『静かなるドン』(実業之日本社)が令和の今、まさかの再ヒットを果たした。『ジャンプ+』においても過去名作は売上・人気が高く、その黎明期から同アプリの普及を助け、成功へ導く一助となった。また7月にもTikTokの紹介動画により作家・筒井康隆の1995年の小説『残像に口紅を』(中公文庫)が突然、3万5000部の緊急重版が決定した。

 このようにデジタルが“売れ方”すら変える現在、『World Maker』が漫画界、映像界などに与える影響は計り知れない。――ちなみに、こうしたデジタルの試みは既存の作家にはどう受け止められているのか。「面白いことをやっていますね、と言われました(笑)」と林氏。プロは、ここから新たな才能やライバルが生まれることは恐れていない。そもそもそれぐらいで恐れてしまうような人は“プロ”にはいない。つまり、“プロ”を目指すこと自体、容易ではない世界。それでも林氏は「過去から現在に至るまで、才能発掘は常に至上命題」と前を見て、『World Maker』に期待している。

 音楽の米津玄師(ハチ)やAdo、ハリウッドでの実写映画化が決定した漫画の『ワンパンマン』など、ネット発のヒット作、ヒットメーカーは昨今、目立ってきている。ここに同サービスが加わることで、エンタメ界にどんな変化が起こるのだろうか。海外の人がより日本の漫画に興味を持ち、さらに世界中で読まれるようになるのか。『World Maker』出身の人気漫画原作者が既存の作家を脅かす未来が来るのか。海外の才能が“MANGA”をさらに豊かにするのか。『World Maker』が生み出した新たな“世界”がどう広がっていくのか楽しみだ。

(文/衣輪晋一)
 

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