人口の7割接種完了でも「国産ワクチン」が必要な理由は? 大学がリードする開発の最前線

2

2021年10月28日 09:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真モデルナのmRNAワクチン (C)朝日新聞社
モデルナのmRNAワクチン (C)朝日新聞社
 ファイザー、ビオンテック、モデルナ、アストラゼネカ……日本で使われている新型コロナワクチンはすべて外国企業が開発したものだ。10月26日時点で日本の人口の70.1%が2回目接種を終える(首相官邸HP)なか、国内企業もワクチンの開発を急いでいる。こうした開発を支えているのが、大学や大学発ベンチャーだ。国産ワクチンの開発にかかわる大学研究者に話を聞いた。


【ランキング】大学発ベンチャー企業数、1位の大学は?
*  *  *


 この1年で一気に知られた「m(メッセンジャー)RNAワクチン」。ウイルスのたんぱく質の設計図となるmRNAを含むワクチンで、これを体内に取り込むことで、ウイルスに対する抗体がつくられるという仕組みになっている。ファイザーとモデルナがつくった新型コロナワクチンが、このmRNAワクチンだ。国内では第一三共(東京)が東京大学医科学研究所(東大医科研)と共同開発しており、来年中の供給開始をめざしている。


 だがワクチンにはmRNAワクチン以外にもさまざまな方式がある。KMバイオロジクス(熊本)が開発に取り組むのは新型コロナの「不活化ワクチン」。現在広く接種が行われているインフルエンザやB型肝炎のワクチンはこのタイプで、免疫獲得に必要な成分だけを残しつつ、ウイルスの毒性をなくし(不活化)、注射するものだ。こちらも東大医科研と連携、開発を行っている。同社の永里敏秋社長は25日に会見を開き、来年春から夏までにワクチンの薬事承認を申請し、来年末には供給を開始したいと語っている。


■DNAを取り込むワクチンの治験が始まる


 一方、バイオベンチャーのアンジェス(大阪)は、新型コロナの「DNAワクチン」を開発する。複製したウイルスのDNAの一部を体内に取り込み免疫をつくる仕組みで、治験は国内企業のなかでいち早く2020年6月に始まっている。アンジェスは1999年、大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学の森下竜一助教授(当時)によって設立された。


 上記の第一三共、KMバイオロジクス、アンジェスはいずれも、政府がワクチンの早期供給のために費用の補助などを行う「ワクチン生産体制等緊急整備事業」に採択されている。




 10年以上第一三共と共同研究を続け、前述のmRNAワクチンの開発にもかかわる、東大医科研感染・免疫部門ワクチン科学分野の石井健教授はこう話す。


「KMバイオロジクスのワクチン開発には、東大医科研のウイルス学者・河岡義裕特任教授がウイルスの増殖などで協力しています。またアンジェスは、もともと遺伝子治療の分野でスタートした会社です。そのノウハウを生かし、10年近く前からワクチンの開発も始めていました」(石井教授、以下同)


 アンジェスが強みとする遺伝子治療と、同社が開発するDNAワクチンは近い分野にあるという。


「遺伝子治療とは、からだの中に遺伝子を打ち、必要なたんぱく質を産生させるというものです。たとえば特定のたんぱく質を産生させる遺伝子を持たないことで病気を発症している患者に対し、その遺伝子を補充するために用いたりします。ビオンテックやモデルナも、もともとは遺伝子治療に近い分野のベンチャーとして立ち上がったと聞いています。そこにコロナが来てワクチン開発に乗り出した、という流れがあるのだと思います」


 これまでになかったタイプのワクチン開発に乗り出す企業もある。東大発の創薬ベンチャー・HanaVaxは鼻の粘膜に噴霧することで免疫を獲得する「次世代型経鼻ワクチン」の開発を行っている。同社は東大医科研の清野宏特任教授が関わるバイオベンチャーだ。今年7月、製薬大手の塩野義製薬と、新規経鼻ワクチンの開発に関するライセンス契約を締結した。


■注射以外のワクチンが広がれば接種のハードルが下がる


「ワクチンというと注射のイメージがありますが、粘膜経由のワクチンも存在します。有名なのは日本でもかつては定期接種されていた、シロップを飲んで接種するポリオワクチンです。清野特任教授は『粘膜免疫』の分野では有名で、これまでになかった鼻の粘膜から接種するワクチンをつくりたいという考えが、HanaVax設立の背景にありました。注射がなくなれば接種のハードルが下がり、医療資源が少ない地域の接種も進むと考えられます」



 各社が力を入れる国産ワクチン開発。その一方で、日本が他国に後れをとってしまっている理由について、石井教授はこう見る。


「ロケットや飛行機といった産業と同じで、それをつくれる技術力が日本にあっても、世界に冠たる製品は日本にはありません。国がそれを大事な産業と位置づけて、サポートしたり、新しい産業形態をつくったりすることができておらず、ワクチン開発もその谷にはまってしまっています。実際、遅れてはいますが今はさまざまなワクチンができていますから、技術力がないということでは決してないと考えています」


 日本ではすでに希望者の多くがワクチン接種を終えているが、それでも国内企業がコロナワクチン開発に力を入れるのには、2つの理由があるという。


「一つは、また新興感染症が広がったときのためです。そのとき日本に、高値で外国のワクチンを買うお金があるのか、わかりません。つまりワクチンを国産でつくれるかどうかは国防にかかわる問題だ、という考え方があります。もう一つはビジネスとしての必要性です。今回、なぜ多くの企業がワクチン開発に参入したかというと、新型コロナウイルス感染症がインフルエンザと同じように、毎年ワクチンを打たなければならない病気になる可能性があるからです。全世界の人が毎年打つようなワクチンがもう一つできれば、大きな収入になる。そうしたビジネス的な観点から、さまざまな企業がワクチン開発に名乗りを上げています」


■大学がかかわる事業は「山のようにある」 


 ここまで紹介してきたように、企業のワクチン開発に欠かせないのが大学の存在だ。大学の研究成果を事業化したベンチャーや、創業者が大学と共同研究を行ってきたベンチャー、大学と深い関連をもつ学生が立ち上げたベンチャーなどは「大学発ベンチャー」と呼ばれる。先に紹介したHanaVaxは東京大発、「DNAワクチン」のアンジェスは大阪大発ベンチャーの代表格として知られる。石井教授は、日本のコロナ医療に関して、大学の研究機関や大学発ベンチャーがかかわっている事業は「今となっては山のようにある」と言う。




 大学発ベンチャーはいま、年々増える傾向にある。経済産業省は今年5月、「令和2年度産業技術調査(大学発ベンチャー実態等調査)報告書」を発表。2020年度に存在する大学発ベンチャーは過去最多の2905社だった。背景には、起業のための資金集めを支える大学ファンドの増加が指摘されている。14年に「産業競争力強化法」が施行され、国立大学法人が、起業を支援するベンチャーキャピタル(VC)に出資できるよう規制が緩和された。14年には京都大と大阪大が、16年には東京大が、大学自ら100%出資するVCを設立した。


 表は、前述の経済産業省調査による大学別ベンチャー企業数ランキングだ。トップ3は前出の東京大、京都大、大阪大で、上位には国立大学が並ぶ。私立大では、慶應義塾大(10位)が15年に野村ホールディングスと共同でVCを設立。早稲田大(10位)は18年に外部のVC2社と提携を結び、ベンチャー創出をめざす。東京理科大(7位)は18年にVCを設立して以来、大学発ベンチャーの数が急伸。18年度の10社から、20年度には111社にまで増えた。


 注目を集めているワクチン関連以外にも、研究力を生かして成功する大学発ベンチャーは多い。ミドリムシを活用した食品・化粧品を開発するユーグレナ(東京大)、iPS細胞関連の研究支援事業を行うリプロセル(京都大、東京大)、再生細胞薬の研究・開発を行うサンバイオ(慶應義塾大)などはいずれも株式上場を果たしている。


■大学が研究のシーズを発見できていない


 大学が企業と共同研究したり、起業したりするメリットは何か。石井教授はこう話す。


「大学の研究者は好奇心で研究をしていることが多いと思いますが、そのなかでも例えば新薬につながりそうな研究をしている先生が、自分の興味関心でベンチャーを立ち上げるということはありました。その一方で、大学が研究のシーズ(製品やサービスの種)を発見してベンチャーを立ち上げる例も、海外にはたくさんあると思います。日本はこの流れがなかなかできていない状況ではあるのですが、近年はサポートファンドが増え、起業のための資金が集めやすくなっています」


 大学がかかわるコロナワクチン開発には、こんな期待を寄せる。


「今はコロナ関連事業にはお金が飛び交っているという状況もありますが、ワクチンは人々の命を守る公衆衛生の要の医療技術であり、お金儲けのためのものではありません。世界の人々にすべてワクチンがいきわたるまで、決してパンデミックは収束しないでしょう。いまこそ利他的になる社会を再構築するチャンスにするべきです」


 大学の研究力を社会に還元する大学発ベンチャーの活躍に注目したい。


(白石圭)


このニュースに関するつぶやき

  • 研究予算の獲得のためでは? あと「高値で外国のワクチンを買う」とかいうけけど、「安値で国産ワクチン売ってくれる」保証は逆にあるの?みたいな。
    • イイネ!0
    • コメント 0件
  • 早さと同時に儲かるってことなんだろうねぇ。国産で安全なワクチンが作れることは国民の命を守ることに繋がるってこと。医療ってのは予防も含めもっとトータルに見るべき。
    • イイネ!20
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(2件)

前日のランキングへ

ニュース設定