若手投手躍進の“立役者”オリックス・能見兼任コーチが宮城を覚醒させた一言「このままでは勝てないよ」

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2021年11月27日 07:42  ベースボールキング

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写真オリックス・能見<写真=北野正樹>
オリックス・能見<写真=北野正樹>
◆ ピースのひとつとして

 25年ぶりのリーグ優勝を果たし、ヤクルトとの『SMBC日本シリーズ2021』でも激戦を演じている今季のオリックス。リーグ戦15連勝を含む18勝(5敗)を挙げ、投手部門のタイトルを総なめにした沢村賞右腕の若きエース・山本由伸や、高卒2年目で13勝(4敗)を挙げた宮城大弥ら若手投手陣が躍進した陰には、今季から加入した能見篤史・兼任コーチの存在があった。

 42歳、チーム最年長。阪神を戦力外となり、今季から兼任コーチとしてオリックスに入団した。

 昨年12月18日、大阪市内の球団施設で行われた入団発表。「行くところがない状態で拾っていただき、オリックスには感謝しかない。コーチ兼任になるが、まずは選手と競争し、若い選手のプラスになるようにサポートして一緒に成長していきたい」と、能見は背筋を伸ばした。「僕はどこでもやる。数字より、任されたところでしっかりと抑えたい。チームのピースの1つになる」とも口にした。

 傍らの福良淳一GMは「人間的にも素晴らしく、体もボールも元気。うちは若い選手が多いだけに、いい刺激になる。彼の姿を見て、成長してくれると思う」と期待を込めた。


 プロ17年目の今季は、中継ぎで26試合に登板、防御率4.03。2008以来、2度目の勝利なしに終わったが、マウンド以上に存在感を示したのが、ブルペンなどでの若手投手へのアドバイスだった。

 8月中旬以降、1カ月以上、勝ち星から見放された宮城。それまで11勝目(1敗)と、破竹の勢いで白星を重ねてきた左腕が迎えた初めてのスランプに、能見は「このままでは勝てないよ」とだけ告げた。

 先輩やスタッフらから可愛がられる宮城には、様々な助言が届いたが、そのようなアドバイスは、能見だけだった。「真意は、能見さんにしか分かりませんが、その感じ方、考え方では勝てないよ、という意味だったと思います」と宮城。言葉の意味をかみしめ導き出したのは、技術的な問題より気持ちの持ち方だった。

 「ひとりで背負い過ぎなくてもいい、ということか」。思えば、他の人の助言も基本的には同じだった。ただ、「能見さんだけは、笑いながらでしたが、ちょっと違う形で言ってくれた」。突き放した言葉のようにみえて、実は、自分で考えてスランプから抜け出すことの重要さを教えてくれるものだった。

 能見は「たいしたアドバイスではないが、気付いたことがあった。技術的なことではないが、それが技術も低下させているのではと思った」という。内容は明かさないが、「まだ19、20歳で、疲れるのは当たり前。誰も(先発)1年目からフル回転してくれなんて思っていない。本人はそうは思っていなかったようだけど、これから先の方が長い。僕は、そんな感じで見ていた」と続けた。

 宮城は10月1日のソフトバンク戦(京セラドーム大阪)で12勝目を挙げると、ロッテと熾烈な優勝争いを繰り広げていた同月21日の西武戦(同)で13勝目。「あと1勝くらいしか出来ないと思っていたら、2勝もしてくれました」と、能見はコーチの顔で喜んだ。宮城は「(周囲から)残りの試合数を考えると、あと1勝しか出来ないと言われたことで、『勝ってやる』という意識も生まれた。能見さんの言葉は、気持ちをその方向に向けてくれたのかもしれない」と感謝する。
 

 コーチ1年目の能見にとっての指導ポリシーは「一歩引いて物を見て、表に出ない」こと。なぜなら「僕が気付いてアドバイスをしても、向こうがどう思うか分からないから」だという。

 エースの山本にも、こんな場面があった。試合結果は良かったものの投球にばらつきがあり、能見と話をしていると、能見には試合前から少し気になる部分があった。山本が「それ、試合前に言ってくださいよ」と笑って言うと、能見からは「言うと気にするからと思って」と返ってきたという。

 日本を代表する大エースに育った山本だからではなく、どの投手に対しても同様。阪神での16年間で104勝(93敗)を挙げ、2ケタ勝利を5度記録、開幕投手を3度務め、今も現役選手としてマウンドで戦う能見だからこそ、選手の気持ちに沿った配慮が出来るのだろう。

 今では、山本から積極的にアドバイスを求める。試合中も調子が悪いと、ブルペンの能見に「どうですか」と聞くこともあるという。


 選手との絶妙な距離感と、時機にかなった的確なアドバイス。福良GMは「いろんな経験をしてきているだけに、その言葉に重みがあるし、ポイント、ポイントで言ってくれるから分かりやすい。遠慮なく言ってもらおうとコーチ兼任になってもらったが、選手に近いだけに、いいアドバイスをしてくれる。そこまでやってくれるとは思っていなかったが、能見がそこまでしてくれた」と、期待した以上の働きを高く評価する。

 リーグ優勝が決まった後の歓喜の胴上げで、能見も宙に舞った。「『いいです。無理です』と言ったのに、(中嶋聡)監督に無理やり。選手からは『軽っ!』って言われました」と、はにかんだ能見。移籍1年目ながら、誰からもその働きが認められたということの証左だろう。

 中嶋監督は「難しいことは言っていないと思う。試合の入り方や、どういう準備をしていくのかなどを言ってくれたのが能見であり平野(佳寿)、比嘉(幹貴)だった」と、ベテランたちの働きを称えた。

 その能見は、「選手だけでなく、コーチの立場もあるので選手の喜ぶ顔を見るのがうれしい。選手の立場では分からない部分もあったが、学ぶことが非常に多かった。選手に一番近いのも僕。僕にしか出来ない役割がある。みんなが一つの方向に向いてくれ、助けられた。選手たちが力を発揮してくれ、頼もしく143試合を見ていた。僕は何もしていない。逆に引っ張られた。選手に感謝です」と1年を振り返った。


 今季、通算1500奪三振を小宮山悟(ロッテ)と並ぶ41歳11カ月の歴代最年長で達成した一方で、自身のシーズン最終戦となった10月13日のロッテ戦では、0-6の9回から“敗戦処理”として登板するなど、与えられた役割を淡々とこなし、優勝へのピースのひとつに徹した。

若い投手陣だけでなく、発展途中のチームが成長する大きな存在だったことは間違いない。


文・写真=北野正樹(きたの・まさき)

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  • 経験の言わせる言葉だな。小坊主、良い言葉を貰ったね。
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