『鬼滅の刃』煉󠄁獄さんに痣は発現していたのか? 物語上の役割から考察

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2021年11月27日 12:01  リアルサウンド

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『鬼滅の刃(8)』

※本稿には『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)


 『テレビアニメ「鬼滅の刃」無限列車編』第6話の放送後、一部のファンの間で、ある“噂”が飛び交っている。それは、炎柱・煉󠄁獄杏寿郎には伝説の“痣”が発現していたのではないか――という噂だ。


 ただし、これは以前からコアなファンの間では議論(?)されてきた問題でもあり、たしかに、原作の第8巻――宿敵・猗窩座に立ち向かう煉󠄁獄の右の頬を見てみると、それらしき形状の“何か”が描かれてはいる。


 だが、結局のところ、“それ”が痣なのか血の痕なのか、あるいは、猗窩座の返り血なのかは、不明である(十中八九、煉󠄁獄の血の痕のようだが……)。そこで、本稿では、改めて原作を振り返り、煉󠄁獄杏寿郎は果たして痣を発現させていたのか否かを、考えてみたい。


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■痣の発現は「人であること」を超えた証


 まず、その伝説の“痣”だが、これは、かつて鬼の首領・鬼舞辻󠄀無惨をあと一歩というところまで追いつめた、「始まりの呼吸の剣士たち」全員に発現していたもの――言わば、“最強の剣士”の証である。


 また、鬼殺隊の本拠地とも言うべき産屋敷家には、「痣の者が一人現れると 共鳴するように 周りの者たちにも痣が現れる」と書かれた手記が遺されており、大正時代の剣士たちでは、まず、主人公の竈門炭治郎が、遊郭での戦いの最中に痣を発現し、次に、霞柱・時透無一郎と恋柱・甘露寺蜜璃が、刀鍛冶の里での戦いにおいて発現する(他の柱たちの多くも、その後、発現する)。


 時透無一郎曰(いわ)く、痣の発現時は、「強すぎる怒りで感情の収拾がつかなくなり」、「その時の心拍数は二百を超え」、「さらに体は燃えるように熱く」、「体温の数字は三十九度以上になっていた」そうだ。甘露寺にしても、痣の発現時、無一郎のように怒りに我を忘れていたわけではないが、炭治郎たちを守るために感情が昂っていたはずだ。


 無一郎は続ける。「そこで死ぬか死なないかが 恐らく 痣が出る者と出ない者の分かれ道です」と。


 つまり、この「死ぬか死なないか」というのは、「人であることを超えられるか否か」と言い換えてもいいだろう。


 そう、誤解を恐れずに言わせてもらえば、この『鬼滅の刃』は、「血鬼術を使える鬼」と「呼吸法を使える鬼」との戦いを描いた物語だと言っても過言ではないのである(たとえば、第124話で憎珀天、第128話で産屋敷あまねが、件の痣のことを「鬼の紋様と似ている」と言っており、これはある意味では、「痣者」もまた鬼である、ということを暗に物語っている)。


 さらには、痣を発現させた者は、「力を向上」させられる代わりに、例外なく、25歳を迎える前に死ぬのだが(注)、これもまた、人であることを超えた代償のひとつと考えてよかろう。


(注)実は唯一の例外はいる。


■煉󠄁獄杏寿郎は痣を発現させていたのか?


 さて、そこで、果たして煉󠄁獄杏寿郎に痣は発現していたのかどうか、という問題である。いきなり答え――というか、私見を述べさせてもらえば、痣は発現していない(先ほども書いたように、彼の右頬に描かれているのは彼の血の痕である)、と考えるのが妥当である。


 たしかに、煉󠄁獄が最初に痣を発現させ、それに共鳴する形で炭治郎や他の柱たちも「痣者」になった、という展開は、熱いし、感動的だ。


 だが、限りある時間を懸命に生きる「人」であることにこだわり、結果的に、上弦の鬼をあと一歩というところまで追いつめた煉󠄁獄は、やはり「痣者」ではなかった、と考えたほうがしっくりくる。さらに言えば、そんな彼の生き様を目に焼きつけることができたからこそ、炭治郎は、ただの妹思いの心優しい兄ではなく、人々のために命を賭すことのできる強い「剣士」として大きく成長できたとも言えるのである。


 つまりこの、煉󠄁獄杏寿郎が猗窩座との死闘で、「人間の可能性」と「人間への大きな愛」を命がけで伝えたからこそ、のちに痣を発現させて人を超えた存在になってもなお、炭治郎は、悪しき“人外の者”にならずにすんだとも言えるだろう。


 先ほど私は、『鬼滅の刃』とは、「血鬼術を使える鬼」と「呼吸法を使える鬼」との戦いの物語だと書いた。だが、鬼は鬼でも、後者は、「人の心」を失ってはいない。これは、吾峠呼世晴が、初期の短編(「文殊史郎兄弟」、「肋骨さん」、「蠅庭のジグザグ」)で繰り返し描いてきたテーマにも通じることであり、人知を超えた力を手に入れた時、“どちら側”に行くかで、本当の意味での人か鬼かは問われることだろう。


 となればやはり、炭治郎のメンター(導き手)としての役割を与えられた煉󠄁獄は、人間のまま、上弦の鬼と互角に戦い散華した、と考えたほうが自然である。


 そう――一部のファンは不服かもしれないが、(少なくとも私の見解では)煉󠄁獄杏寿郎の右頬には、痣は発現していなかったのである(そもそも彼の身体に痣が発現するならば、それは、誰の目にも明らかな、燃えたぎる炎の形をしていることだろう)。


このニュースに関するつぶやき

  • 痣でていたんじゃないかなぁ。『心を燃やせ』っていうのは痣のヒントでもあるわけだし。しかしなお猗窩座にはおよばなかった、っていうのも物語ですよね。
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