「娘がコワい」母、「優しくなれない」娘 なぜうまくいかないのか

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2021年11月27日 16:00  AERA dot.

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「いつも娘から怒られる」「ついつい母親に厳しくあたってしまう」。そんな母娘関係をよく聞く。それぞれの家庭環境など要因は様々だが、背景には、世代などの共通項もあるようだ。コロナ禍を経験し、新たな価値観も見えてきた。3人の専門家に聞いた。


【調査結果】コロナ禍でプラスな経験だったと思うことは何か?
*  *  *


母のケース(1)


「先日病院の売店で、ちょっと立ち読みをしたんです。そうしたら娘にひどく叱られましてね。『いい年をしたおばあさんが、立ち読みだなんて品がない!』って」


 苦笑まじりに話すCさんは都内で夫婦2人暮らし。娘世帯は駅三つほど離れたところに暮らしている。


「声が大きいだの、みっともないだの。なぜこの年になって娘からケチをつけられなきゃならないのか。でもねえ、同じことを息子に言われても、ここまで腹は立たないと思うの。同性だからでしょうね、きっと」


母のケース(2)


 東京郊外に暮らすMさん(86)は、キャリアウーマンの娘夫婦と孫2人と同居中だ。Mさん自身、子育て中の一時期家庭に入ったものの、70代を過ぎるまで仕事を続けてきた。それだけに娘のことは応援したいし、もちろん孫も可愛い。


「孫のしつけにはつい口出ししたくなる。それが内政干渉と映るみたい。娘は常にピリピリしていて、何か言えば何倍にもなって返ってくるんです。先日も話しかけたのに無視されました」


 コロナ禍で娘夫婦がリモートワークをしている間は、お茶をいれに階下に下りるのもおっくうになり、居室にミニポットを持ち込んで、顔を合わせないようにしていたという。


 一方、娘の立場ではどうだろう。


娘のケース(1)


 都内で働くSさん(49)はバツイチ、子なしのキャリアウーマンだ。一人っ子で、70代後半の母と2人暮らしをしている。


「結婚生活は母と同居。しかし母の干渉がきつくて、夫は出ていってしまった。彼のいない家で暮らすのがつらくて、引っ越したんです」


 どこに住みたいか相談したところ、今の街を指定したのは母だったが、


「移ってから、やれ病院が遠い、スーパーが良くないと文句ばかり。母は私のすることに満足したためしがない。言い返せば大騒ぎされるので、黙って聞くしかない」



 それほど娘を認めないのに、対外的には「恥ずかしいほど」の娘自慢が止まらないのだという。


「勤め先が大手だとか、年収が何百万だとか。恥ずかしくて、母の友達には会いたくないんです」


娘のケース(2)


 最後のケースは千葉県に住むNさん(56)。88歳になる母は認知症を患い、バツイチ独身の姉(62)が同居して面倒をみている。


「『いい会社に勤める高収入の男性を捕まえるのが一番の幸せ』って刷り込まれて育ちました。子どものころ、お尻にアトピーが出ただけで『もうお嫁に行けない』とまで言ってたくらい」


 就職はしたものの、ほんの腰掛けで結婚退職。夫の転勤であちこち転居し、母から離れた。


「大阪でイキイキとパートの仕事に打ち込んでいる元気なおばちゃんたちに出会ったとき、初めて『私の人生、何だったんだろう』と。それでようやく解放された気がしたんです。今は地元に戻ってパートをしていますが、生まれて初めて、真剣に仕事に取り組んでいます」


 母のケース(1)をのぞけば、どの母も娘も何だか生きづらそう。


◆ゆがんだ関係性 団塊世代から上



 1995年に原宿カウンセリングセンターを開設し、現在は顧問を務める臨床心理士の信田さよ子さんは「母娘問題に正解ナシ」と断言する。


「世間の目から見れば毒母やDV夫は歴然と加害者側ですよね。でも長年カウンセリングしてきた経験から言うと、どちらかが一方的にうそをついている、というケースはまずないんです」


 ではなぜ、世の中にあふれる母娘問題の書籍や記事は、娘サイドに同情的なのか。それは娘のほうが、社会的に圧倒的に弱い立場にいるからだという。


「『あなたのためを思って』。これはすべての母娘問題に共通する言葉。このひとことでどんなことも『愛』になる。そこに『母の』が加われば、もはや無敵の呪文です。母の愛を素直に受け取れない娘は、社会的に非難の対象になってしまうんです」(信田さん)



 しかも母側には支配した覚えなどみじんもない。なぜこんなにもゆがんだ関係性になってしまうのだろうか。


 信田さんによれば、その理由は、団塊の世代以上の夫婦関係に起因するという。


「団塊世代は恋愛結婚が主流になり始めた年頃。夫は企業戦士で、子育ては妻の仕事。問題があるなら、それは『育て方が悪い』。もちろん妻は反発しますが、満足のいく結果は得られず、やがて夫に期待しなくなる。その一方で、この夫を選んだのは自分なのだという自責の念もある。結果、『この子は私が何とかする!』とすべてを背負い込み、先回りした過干渉や支配へと結びつくのです」


 著書に『母は娘の人生を支配する』(NHKブックス)などがある精神科医・斎藤環さんはこう語る。



「『親ガチャ』という言葉は、子どもの側に一切の選択肢がないことを意味しますよね。その点、親の側には選択肢がある。結婚の選択をしたのも親なら、子どもを産む・産まないの決断も、どう育てるかも、親にかかっている。だから『子ガチャ』は成立しないんです」


 斎藤さんによれば、基本的な自己肯定感や自尊感情を醸成する上で親の影響は大きい。肯定されずネガティブなことばかり言われて育った人は、大人になってから自尊感情を再生しようとしても多大なコストがかかるという。


「深刻な場合は治療やカウンセリングが必要です。そこまでではなくても、自力で何かを成し遂げて、自分を肯定できるだけの自信を身につける必要がある。自己肯定感は自我の土台ですから、それが親によって損なわれたとわかれば、恨まれても仕方がないでしょう」


 先に紹介した娘(1)の徹底して娘を認めない母親はその典型だろう。それでいて対外的には娘自慢をする心理とは、どういうものなのか。


「娘を所有物とみなしているんです。だから他人には持ち物自慢をしたい。しかし所有物でい続けてもらうためには、自立してもらっては困る。だから絶対に肯定はしません。もはや虐待レベルの共依存ですが、娘が母から離れられないのは『このろくでなしは私がそばにいないとダメなの』とDV夫から離れられない妻と同じ図式です」


 母娘問題には、日本と韓国だけに見られる特徴もあるという。その背景にあるのは儒教的思想だ。



◆人としてでなく女としての規範


「儒教的家族主義では親孝行こそが美徳。成人しても社会参加できない子どもは、ホームレス化しないで家に残ります。これが日本では『引きこもり』なわけですが、女性の場合は『家事手伝い』という名で表向きは隠蔽(いんぺい)されてきた。さらに親世代の長寿化で、親子共存の時間がどんどん長くなり、娘が還暦近くなっても母の呪縛から逃れられないケースが増えています。母たちは果たせなかった夢を娘に託して『生き直そう』とする。そのくせ結婚して家族を持てと無理なプレッシャーをかけるのです」


 そうなると、母(2)のキャリアウーマンの母親と、娘(2)の専業主婦志向の母親、一体どちらが娘にとってしんどいのだろうか。


「何をもって女性の幸せと考えるかによるでしょう。高収入の夫を捕まえろと刷り込む母親は娘の自立を妨げる。その点、働く母親は自立したい娘にとっては楽なはず。ただし、その母親が自分のキャリアで挫折感を味わっていた場合、話は複雑です。『本当ならもっと活躍できたはず』と、結局は『生き直し』を求めてしまい、支配的になるリスクがあります」


 団塊の世代の問題点については信田さんとは違う視点からの指摘もある。


「団塊世代は戦後の民主教育の中で建前(男女平等)と現実(男尊女卑)の落差に翻弄(ほんろう)されてきました。ねじれた社会を生き延びようと必死で磨いたスキルが、ゆがんだ形で娘に伝わってしまっている。『稼ぎのいい男性を捕まえなさい』という価値観はいまだ根強く、娘たちは人としてではなく女として育てられる。持ち物の色や着る服のデザイン、しぐさ。そうしたもので『女らしさ』を植え付けられ、本人の思いとは別の規範にはめ込まれるんです」


 こうしたゆがんだ価値観の継承が、無意識に行われているところが恐ろしいのだ。


「買い物中、品物を選択する場面でふと『お母さんならどっちを選ぶかな』と考えてしまう。それがパートナー選びのときに発動してしまったらどうなるか、ということです」



◆これからの時代、頼れるのは「友達」



「娘も私も口が達者。それは激しい舌戦を繰り広げることもありますよ。彼女が子どもだったころ、私が毎日世話を焼いていた同じことを、今私が言われてる。やれやれですよ」


 そう話すのは、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の理事長を務める、評論家の樋口恵子さんだ。


 樋口さんが、同会・広島(春日キスヨ代表)がまとめたひとつの調査データを示してくれた。コロナ前と後で、高齢者の意識と行動がどう変わったか、という調査だ。マイナスなことが多かったコロナ禍で、プラスな経験だったと思うことは何か?との問いへの回答が下のグラフ。75歳以上で見ると、第1位は「当たり前の日常のありがたさ」、第2位は「友人のありがたさ」である。



「私たち世代にとって、友情というのはもっぱら男のものだったんです。それが今や、高齢女性にとっても家族と変わらないほど大切でありがたい存在になっている。これは特筆すべきこと。高齢社会で母と娘が密接に過ごす時間が長くなった。家庭が密室になってしまうとストレスの行き場がない。だったら、友達に会いに行きましょうよ」


 樋口さん自身、娘と衝突して落ち込んでいるとき、家に出入りするスタッフの言葉に救われるという。


「娘さんは言葉はきついが、本当に優しい人ですよ、て言われるとね。母としては本当に救われた気になるし、誇らしくもなる。親バカですが、いがみあうのに手いっぱいになっているところへ、第三者の視点が持ち込まれるのは本当にありがたいことです」


 当事者ではない誰かに、つらい気持ちを聞いてもらうのは大切だ。樋口さんのように、第三者から意見をもらうことが、どれだけ救いになることか。


「世間から、子どもから、夫から、親戚からも責められる母親。それでいて誰も『よく頑張ってきたね』と言ってくれる人はいない。そんな理不尽ってある? 今は全国に電話やネットで相談できるところもたくさんあります。原宿カウンセリングセンターでは母親だけを集めたグループカウンセリングもリモートで行っている。まずは電話一本かけることから始めればいい、と知ってもらいたいですね」(信田さん)



◆手ごわい娘ほど立派に育てた証し


 樋口さんは、重要な視点としてこう指摘する。


「今25歳の娘と50歳の母なら、同じ時代を生きているでしょう。問題は私たち世代。孫の進学、子どもの結婚など口出しするチャンスはいくらもあるけど、ばあさんの価値観が通用することなんて、ひとつもありません。いい学校もいい会社も、評価は時代と共に変わるんですから」


 これまでの話とともに、樋口さんの以下の指摘をぜひ参考にしてほしい。


1.母や祖母は社会に出よ。友と交わり世間にふれ、自分の立ち位置をしっかり確保できれば、家庭内の瑣末な問題などスルーする力はつく!


2.自分の子育てに自信を持つ。頼りなく見えても、娘は今の情報に一番通じている。自分が手塩にかけた子なら大丈夫、と任せておけばヨシ。


「元気に寝て起きて食べていられりゃ御の字。どこの世界に子犬が反抗的だからって悩む雌犬がいるものか。悩むのは人間である証しです。敵(娘)が手ごわければ手ごわいほど、あなたが立派に育てた証拠なんですよ!」


(ライター・浅野裕見子)

※週刊朝日  2021年12月3日号


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