『ねほりんぱほりん』で描かれた「親が“神様”を名乗る」問題は深刻? 信仰を押しつける母と、子どものつらい人生

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2021年11月30日 00:01  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)公式Twitterより

ネット上には、無責任な理論で集客しては人を食い物にするような、スピリチュアリスト、霊能者、民間資格カウンセラーなどがあふれています。彼らを信じ込んでしまえば、価値観や金銭感覚をゆがめられるのはあっという間。友人や家族を失ってからでは、もう遅い! 「スピリチュアルウォッチャー」黒猫ドラネコが、現代社会にのさばる怪しい“教祖様”を眼光鋭く分析します。

 11月12日にNHK Eテレで放送された『ねほりんぱほりん』は、「親が“神様”を名乗る人」がテーマでした。除霊ができるなどと豪語する母親のもとに生まれた30代女性のインタビューで、どぎつい話もありましたが、人形劇で進む番組のスタンスもあってか緩いトーンだったため、思ったよりも救いのある展開でホッとしました。

 物心ついた頃から、母親は「独自の宗教」のような団体で“教祖様”として君臨。女性は日常の全てを母親に「霊」と結びつけられ、「集まって瞑想」「邪気をお祓い」「手から念を送る修行」などの不可思議な日々を送っていたそう。まさに、生まれた時からエセ・スピリチュアルが身近にある状態です。

 自ら「お母さんは神様だから」とかたる親。その様子を学校でもうわさされ、女性はイジメを受けます。それでも母親には「あなたが引き寄せたのよ」(スピリチュアル界隈でよく聞く言い回しですね)と言われるなどし、高校生の頃に性的被害に遭って自殺未遂をしたときですら、「信仰が足りないからそんな目に遭うのよ。ざまを見なさい」と罵られたエピソードは強烈でした。

 ただ、女性がそんなキツすぎる母親と関わらないで生きていくにはどうすればいいかを考え、遠く離れて暮らしたいと猛勉強して、環境を変えられたのは救いだと思います。離れてから、女性は精神的な治療も受け、母親と初めての大ゲンカをし、今では「遺産目当て」で交流しているとのオチも。何より、こうした番組に出られたことからも、苦難を糧に明るく生きているということがうかがえました。

 しかしながら、この女性のように意志を強く持ち、自分の中で折り合いをつけられる人ばかりではないでしょう。信仰の自由が尊重されるべきなのに、親の信仰を押し付けられて苦しむ「宗教二世」の問題は、かなり深刻だといえます。『ねほりんぱほりん』のような例だけでなく、教育の機会が限定されたり、暴力で縛られたり、一般社会で生活を送る道筋を立ててもらえず、つらい人生を送る人も知っています。

 また、ここまでの被害を受けていなくても、スピリチュアル好きが高じて“プチ教祖”や“信者”と化した親との関係に悩まされる人は、案外多いのではないでしょうか。私のもとにはよく「実家にいる母親が、いつの間にか子宮系スピリチュアルにハマってしまった」「母親がスピリチュアル系の資格を取るために高額セミナーに通っている」などの相談が来ます。子どもが成人してもなお、親子関係にエセ・スピリチュアルの魔の手が迫ることは珍しくないのです。

 今回の『ねほりんぱほりん』では、「子どもは親を選べない」ことの苦悩が語られましたが、そこで思い浮かんだのが、スピリチュアル界隈では有名な「胎内記憶」。これは、「子どもたちが語る、母親のおなかの中や前世の記憶」のことを指すそうですが、いつの間にか「子どもは親を選んで生まれてくる」「虐待をする親を選ぶ子どもがいる」など、「不幸や不遇も自分で決めた」と取れるような形で布教されている“思想”です。「子どもは親を選べない」とは、真逆の説を唱えています。

 絵本作家・のぶみ氏や、元・心理カウンセラーの心屋仁之助氏(歌手に転向したとか……)らが、この思想を特に気に入っているようで、「胎内記憶」は彼らの根強い信者にも支えられているようです。当コラムでも何度か言及しましたが、産婦人科医でもある池川明氏らが「胎内記憶教育協会」なる法人を立ち上げ、新聞広告を出すなどして資格セミナービジネスを広げているのです。

 さも「胎内記憶」は実際にあって、誰もが「親を選んで生まれてきた」かのように語られていますが、実は「子どもたちからの証言」をもとにしているだけで科学的な根拠はなく、現状では「妄想」に近いと感じます。

 「私はお空からやって来た」と言う幼い子どもの無邪気な空想が悪いわけではなく、この思想の問題点について、私は教義を広げていく大人のエゴにあると考えています。「虐待する親を自分で選んだんだから、叩かれてもしょうがない」「周囲に愛を教えるために、この子は障害を背負って生まれた」などと子どもに責任や負担を押しつけ、親が平気で開き直れる理由になっていないかと思うのです。

 胎内記憶に救われるのは、それを固く信じている大人だけでしょう。虐待をしてしまう親が胎内記憶を信じていたら、子どもは殴られっぱなしだし、誰のせいでもないはずの生まれつきの障害は、その子の自己責任ということに……。これでは子どもは救われず、むしろ追い込まれていくだけだと思います。

 今回の『ねほりんぱほりん』出演の女性を胎内記憶に当てはめるとすれば、「明るい人生を知るために、苦難を選んで生まれてきた」というところでしょうか。でも、冷静に考えて、もし選べるならわざわざ“ヤバい母親”のもとなんかに生まれるはずもありません。

 番組の最後に女性は、つらい状況に耐えて生きてきた自分に当てはまる言葉として、「配られたカードで勝負するっきゃないのさ」というスヌーピーの名言を紹介し、生まれた環境からも「逃げられる人は逃げたっていいと思う」と語っていました。いま苦しんでいる人がいたら、信仰を押しつける親からも、エゴ満載のエセ・スピリチュアルからも、なんとかして離れてもらいたいと願うばかりです。 

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