鉛筆に万年筆のふりをさせる補助具が長く愛される理由 登場から13年が経過した「ミミック」

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2021年11月30日 10:52  ITmedia NEWS

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写真ミミック(撮影:信頼文具舗)
ミミック(撮影:信頼文具舗)

 「ミミック」という筆記具的なツールがある。最初のモデルが発売されたのは2008年なので、濃いめの文具好きや、小物・ガジェット好きにはそれなりに知られている、おそらく世界でも類を見ない製品なのだけど、その正体は鉛筆の補助軸だ。どう見ても高級万年筆だが、キャップを外すと中には鉛筆があるという仕掛けだ。万年筆に擬態している筆記具ということで「ミミック」と命名された。



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 ドラゴンクエストでお馴じみの、宝箱に偽装するモンスターだったり、巨大ゴキブリが走り回る映画のタイトルだったりで、あまり良いイメージの無い名前だけど、実際に擬態型筆記具なのだから、見事なネーミングと言うべきだろう。



 命名したのは、このツールを発想し、開発・販売している銀座五十音の宇井野京子氏。「昭和の万年筆製造を支えたメーカーであるロングプロダクツに勉強のために連れて行っていただいて、そこでろくろを使った万年筆軸の製造の工程を見せてもらったときに、これで補助軸が作れたらすてきだなと思ったのが最初でした。そういう話を少ししていたら、補助軸って構造は簡単ですからと、すぐにサンプルが送られてきたんです」と宇井野氏。サンプルを受け取ってみると、キャップも付けられるのではないかと思い付いて相談してみたのだが、最初は話がうまく通じなかったという。



 「万年筆のキャップのようなねじ切りのタイプではない、スポッと抜くタイプのキャップの構造を全く知らなかった私のオーダーが雑だったんですよ。それで試作を繰り返させてしまって、ようやく板バネの存在を知ったんです。ほんと、素人だったんです」と宇井野氏は笑う。



 そうして、自分のために作ってもらった、まるで万年筆のように見える、キャップ付きの鉛筆補助軸が完成した。



 ろくろを使って作る伝統的な万年筆軸の製造技術を使い、アセチロイドというセルロイド同様に植物由来の昔ながらの素材を使って作る、高級筆記具と同様に材料と手間と技術をかけた鉛筆補助軸。使っていると高級万年筆のように手に馴じみ、鉛筆を使うことが楽しくなるような筆記具になった。



 量産は難しく、材料の調達や予算の問題もあり、ドカンと売り出すということはできなかった。



 当初は、遊び心が分かる顧客に少しずつ紹介して、出来上がってきたものを販売するというスタイルを取ったため、知る人ぞ知る製品として流通したのだが、世間では文房具ブームが始まっており、すぐに似たようなコンセプトの製品が登場した。



 とはいえ、ちゃんと作るとお金も手間も時間もかかる製品。継続して販売するのは難しく、コピー商品は出ては消え、また出てきては消えを繰り返す。



 キャップ付きの補助軸というアイデアは、単純なだけにコピーもしやすいけれど、だからこそ、ただそれだけでは面白い製品にならない。「ミミック」だけが成功したのは、それを「高級筆記具」として丁寧に製作することが遊び心につながるということを意識していたからだろう。そもそも「高級な鉛筆補助軸」という存在がギャグみたいなものなのだ。それを面白がりつつ、鉛筆を楽しく実用的に使うという製品になっていたからこそ、現在まで続くロングセラーとなったのだろう。



●進化するミミックの変種たち



 そして、当然のように「ミミック」は、宇井野氏の次々と繰り出すアイデアによって進化し、深化し、アイテム数も増えていく。まず、白黒のマーブル柄だった初代ミミックのカラーバリエーションとして、セルロイドの筆記具で「金魚柄」と呼ばれている、赤と白のマーブル柄を発売。「南天」と名付けられた。続いて、赤と白にアセチロイドの透明部分も入って高級感が増した「コーラル」(サンゴ)、べっこう柄を現代風にしたようなアンバーとダークブラウンのマーブル柄の「パシフィック」が登場した。



 その頃に、なんと、鉛筆補助軸なのにボールペンを使えるようにするためのボールペンユニット「オプションパーツJS」が登場する。



 「ボールペンユニットは一種の保険として作りました。鉛筆補助軸なので当たり前なんですが、『鉛筆しか使えないんですね』という声も結構あって。防波堤的にボールペンも使えるようにしようと思ったんです」と宇井野氏。この頃、ちょうど三菱鉛筆の「ジェットストリーム」用の替え芯に4Cタイプのものが発売されたこともあり、4Cのリフィルが使えるこのボールペンユニットは、「ミミックでジェットストリームが使える!」と話題になった。



 独SchneiderのBase Ball Rollerballのリフィルをミミックで使う方法が以前から公開されたりはしていたのだが、普通にキャップ式ボールペンとして好きなリフィルが使えることが、筆記具としてのミミックの可能性を大きく広げることになった。



 「鉛筆補助軸なのにボールペンにもなる」という倒錯は、遊び心を維持することにもなり、ミミックは、誰にでも勧められる筆記具へと進化したのだ。ボールペンユニットを取り付けたミミックが意外にもカッコ良かったというのも、すんなりと受け入れられた理由の1つだろう。



 この「鉛筆補助軸なんだから、サイズさえ合えば何でも入れられるのでは」という発想は現在も引き続き実験が続けられていて、非公開ではあるが、消せるボールペンを入れることも可能になっている。その気になればワコムのEMR方式を採用したスタイラスペンも入れられそうなのだけど、まだその実験は行われていない。



 その後も、軸の素材をエボナイトやベークライトにしたものや、少し短くして携帯性を増した「ミミック・ショート」、さらに小型化して、首から下げられるようにしたアクセサリー的なモデル「ミミック・ズングリ」、なんと紙筒を使った廉価モデル「ミミック・サイリンダー」、軸の両方に鉛筆を差し込める2色鉛筆風の「ミミック・マイウェイ」など、そのバリエーションが増えていく。ちなみに、私が個人的に愛用しているのは、初代の「ミミック・ペンギン」、エボナイト軸の限定モデル、ミミック・ズングリの3種類だ。



●擬態することをやめた「ミミック・ドロップス」



 そして、2021年秋に登場した、現時点での最新モデルが、「ミミック・ドロップス」と「ミミック・メッセンジャー」。この2つはこれまでのミミックとは製法からして大きく変わった、エポックメイキングなモデルとなった。



 特に「ドロップス」はある意味、革命的なモデルといえる。軸が透明なのだ。つまり、中に入れた鉛筆も補助軸としての機構も丸見えな訳で、もはや擬態していない、見た目から鉛筆補助軸であることを白状しているようなモデルなのだ。



 「アセチロイドには透明なものもありますよ、と聞いて、クリアタイプは出したいと思っていたんです。高級万年筆風というのも好きなんですけど、もう少し軽くてポップなイメージのミミックがあっても良いと思っていたんです」と宇井野氏。



 まずは「自分が欲しい」と試作を始めたのだが、透明なアセチロイドをろくろを使った削り出しの工法では、透明度を保ったままの製品化が難しいことが判明。従来の作り方をやめて、板状にしたアセチロイドを筒状に巻いてパイプを作り、上下は別パーツで埋めるという方法で作ってみると、これが良い出来だった。



 でき上がったミミック・ドロップスは、黄色に染められた透明軸。だからキャップ部分の板バネも、補助軸部分の鉛筆を絞めるパーツも見える。ミミックはこんな構造になっていたのかということが分かるのも興味深いが、中に入れた鉛筆の軸が見えるのがそれ以上に面白い。



 ミミックのデザインの中に、鉛筆自体のデザインが取り込まれているのだ。



 もっと面白いのは、十分に短くなった鉛筆を入れた状態。なんと軸の中が空洞で、しかし文字は書けるのだ。鉛筆補助軸で透明軸だからこそ見ることができる風景。ミミックというよりマジック。高度に発達した科学は魔術と見分けが付かないという言葉があるが、擬態も行き着くところは魔術なのかもしれない。



●未確認飛行物体風な「ミミック・メッセンジャー」



 ドロップスの成功により、不透明素材で同じ作り方をすることで、軸とキャップの間に段差が無い、いわゆる葉巻型の万年筆のようなデザインのミミックを生むことになった。それがミミック・メッセンジャーだ。アセチロイドの透明感が、まるで漆塗りの軸のような光沢で、「高級万年筆風補助軸」であるミミックの面目躍如のような仕上がり。



 「この葉巻型の形状が、ハワイで目撃されたという未確認飛行物体オウムアモアにそっくりで、調べたら、オウムアムアって遠くからのお使いという意味だったんです。英語だとメッセンジャー、ということで、そのまま名前にしました」と宇井野氏。キャップの上部を埋めるパーツには、初代ミミックである「ペンギン」の素材を使い、モンブラン万年筆の天冠に付いているホワイトスターのような、ミミックのアイコン的なデザインになっているのもヒストリカルなモデルっぽくて楽しい。



 「ドロップス」のポップで軽いルックス、「メッセンジャー」の重厚だけど持つと軽くて、実は鉛筆補助軸というミミックのコンセプトそのままの遊び心あふれるギャップ。対照的な2つのモデルが同じ工法だから実現したというのが、ものづくりの面白さ。



●鉛筆は長時間の物書きには向いていない



 ものすごく身も蓋もない話をすると、鉛筆は長時間持って文字を書くのには全然向いていない。軸が細すぎるのだ。鉛筆はもともと画材として作られていたから、木炭などと同様に、デッサンなどにはとても向いているのだけれど、文章用ではないのだ。初代のApple Pencilが、鉛筆のサイズ感を踏襲していたのも、クリエイティブツールとしての「ペンシル」だという主張だったのだろう。



 だからこそ、鉛筆を筆記具として使うなら、グリップや補助軸が欲しくなる。鉛筆用グリップは昔から売っているし、子ども用もある。その小さい手でも鉛筆の軸は文字を書くには細すぎるのだ。その意味でも、ミミックは大人の筆記具として鉛筆を取り戻そうという試みとなる。



 補助軸だから、ボールペンユニットなどを使うことでボールペンやローラーボールにもなる。小筆などの軸を切って装着することも可能だ。



 デジタルペンもなぜか細い軸のものが主流だが、現在のワコムのデジタルペンのカートリッジ部分はとてもコンパクトだから、短い鉛筆サイズのものを製作することも可能。そうなると、細い軸のデジタルペンも、ミミックで使えば持ちやすく高級感もある筆記具に変わる。



 大人の遊び心が生んだミミックが、デジタルもアナログも横断して書きやすい環境を作るツールとして展開するとは、初めて見たときには想像もしなかった。一部のガジェット好きは最初から飛びついていたし、製品そのものに、こういう未来が内包されていたということなのだろう。



(納富廉邦)


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