SaaS企業なのにおじさん幹部がネイル研究? 「2Cか2Bか」で迷走した電子マニュアル事業者の決断

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2021年11月30日 12:12  ITmedia NEWS

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写真庄司啓太郎副社長
庄司啓太郎副社長

 電子マニュアルをタブレットやスマートフォンなどで作成・閲覧できる法人向けSaaS「Teachme Biz」を提供するスタディスト。ユーザー企業は2000社(2021年11月時点)を超え、4月には約18億円の資金調達に成功。B2B SaaS企業として勢いを増す同社だが、実は法人向け一本でやってきたわけではなく、過去には個人向けサービスを提供しつつも迷走が続いた“黒歴史”もあったという。



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 「Teachme Bizの前、前身となるサービスを個人向けに提供していた。さまざまな物事のマニュアルを作って(ユーザー間で)共有できるサービスで、コンテンツを広げようとネイルを研究してコンテストを開催したり、“キャラクター弁当”のイベントをやってみたりしたが、まさに迷走期だった」



 スタディストの黒歴史について、庄司啓太郎副社長はこう話す。同社は迷走期をどのように乗り越え、法人向けに的を絞るまでに至ったのか。その一部始終を創業メンバーの一人でもある庄司副社長に聞いた。



●「○○版クックパッド」目指すも…… スタディストの黒歴史



 スタディストがTeachme Bizの前身となるサービスの提供を始めたのは12年。もともとは「Teachme」という名前で、DIYなどのやり方を、「クックパッド」のようにマニュアル化して共有できるとして提供していた。



 法人向けの提供は当時から視野に入れていたものの「まずは個人向けに展開し、認知の拡大や機能拡充を図ろう」という方針の下、無料のサービスとして提供。具体的な時期などは決めていなかったが、折を見て法人向けに舵を切る計画だったという。



 とはいえ、当時のTeachmeは新興サービス。ユーザーは数千人規模で、利用を盛り上げるのに必死だった。そこでさらなる認知拡大のために考え出したのが、ネイルやキャラクター弁当のキャンペーンやイベントを行うといったアイデアだった。



 「当時はクックパッドが一世を風靡しており、料理以外は更地だという発想で『○○版クックパッド』のようなものが乱立していた。(Teachmeにも)そういう道があり、認知拡大にもつなげられると野心的だった」



 例えばネイルでは、創業メンバーが当時知り合った著名なネイルアーティストと協力。ネイルアートのマニュアルを投稿するコンテストを開催した。キャラクター弁当ではブロガーと協力し、主婦や子供と一緒に弁当を作るイベントを実施した。



 ネイルやキャラクター弁当といった題材を選んだのは、いずれも出来上がりのイメージは広く知られているものの、当時はそこに至る手順があまり知られていなかったことや、作業の流れを手順化してマニュアルにしやすい点が、Teachmeと相性が良いと考えたためだった。その一方で、これらの取り組みで望む成果が得られたわけではなかった。



 「ゆくゆくはTeachmeを知った人が法人向けサービスのユーザーになってくれると期待していた。ただ、ネイルを好きな人とTeachme Bizの契約層は全然違うところに住んでいて、そのまま進んでも何にもつながらないことが分かった。足踏みというか、勉強した期間だった」



●「君たち、ネイルやりたいわけじゃないんだろ」



 本来の事業とは関係の薄い分野に手を出し、迷走を続けたスタディスト。同社が本来目指していた「法人向けサービスの提供」という目的を思い出し、軌道修正できたのはなぜか。きっかけの一つはとある展示会で外部の専門家にかけられた言葉だったという。



 「『君たち、ネイルやりたいわけじゃないんだろ、法人向けサービスをちゃんと頑張ったほうがいいよ』と言われた。当時の自分たちは素直ではなくすぐには受け止められなかったが、後になって考えるとすごく正しかった」



 実際、ユーザーや他の外部アドバイザーからも「同じプラットフォームで個人向けと法人向けを両立させるのは無理がある」という声が出ていたという。これを受けたスタディストは13年に法人向けサービスとしてTeachme Bizをリリース。一方のTeachmeはしばらく提供を続けたが、段階的にサービスを終了させ、法人向けに一本化した。



●2C時代の名残りがUI/UXに好影響 一方で価格設定に課題も



 迷走の果てに本来の方針を取り戻したスタディスト。現在は業務や人材育成を効率化するツールとして、まいばすけっとや日本航空、すかいらーくといった企業にも提供しており、アカウント数も約28万(20年9月時点)まで増えた。ただ、法人向けに一本化したからといって全てが順調だったわけではなく、時には個人向けに提供していたときの経験や積み重ねに助けられることもあった。



 例えばUI/UXといった面では、個人向けに提供していたころ、ユーザーから頻繁にフィードバックを集め、改善を繰り返していたため、今でもユーザーに「使いやすい」と褒められることがあるという。



 一方で、個人向けのときにはなかった課題も浮き彫りになった。サービスの価格設定だ。当初は無料のサービスとして提供していたことから、法人向けの価格感がつかめない時期もあったという。



 「法人向けはユーザーと導入を決める人が違うので、会社の中の利害関係者を全員納得させるプロセスが難しい。企業規模の問題もある。法人向けとひとくくりにすると間違いが起こるくらい会社の規模によって状況が変わる。最初は中小企業をメインにしており、安い価格設定にしていたが、エンタープライズ企業相手のときに『安すぎて不安』といわれて驚いた」



●「的を絞るのが大事」 迷走の果てに得た気付き



 紆余曲折しつつも法人向けのサービス提供を続けるスタディスト。庄司副社長は一連の黒歴史で得た気付きについてこう話す。



 「結論としては、的を絞るのが大事だなと思った。個人向けにしろ法人向けにしろ、体力のないベンチャーでは消耗戦になる。遠回りせず、(企業の)強みとか、経営者がやりたいと思っていたテーマを愚直にやるしかないと考えている」


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